知将のシェリル
四天王との挨拶が終わったが、話が終わった訳では無い。
シェリルは引き続き、司会進行を続けてくれる。
そして、シェリルは背後の四天王に向き直った。
「方針等のお話の前に、皆様へ重大なお知らせが御座います」
「あら? それって、どんなお話なのかしら?」
シェリルの言葉に、ラヴィが真っ先に反応した。
ラヴィのオネエ口調には、誰も疑問を持つ様子が無かった。
「歴代魔王様が積み重ねた借金。その返済が可能となりました」
「「「…………!?」」」
歴代魔王が積み重ねた借金だと?
そんな話は聞いていなかったが……。
だが、シェリルの言葉に、三人が驚愕の表情を浮かべている。
そんな彼等に対して、シェリルは楽しそうな口調で続ける。
「大魔王ユウスケ様は、女神マサーコ様より祝福を受けております。この度の婚姻の祝いとして、莫大な財宝を賜る事が出来たのです」
シェリルの言葉に対し、三人の反応は様々だった。
「女神マサーコ様だと……。まさかこの世界の管理者の……?」
「まあ、女神様から婚姻の祝福! なんて羨ましいのかしら!」
「莫大な財宝って……? 本当にそんな物が実在するの……?」
一名の黄色い声は別として、残り二人は懐疑的な雰囲気だ。
ここは女神マサーコ様の為にも、オレが動かねばなるまい。
「女神マサーコ様の偉大さを知るが良い。これは賜った財宝の一部だ」
オレは立ち上がると、皆の前でウインドウ操作を行う。
> 宝剣 ギャラクシア
> 宝箱 (宝石詰め合わせ)
> 宝玉 レッドブラッド
それらしい物をチョイスして、皆の前に出現させた。
三者はそれらを前に、どうして良いか戸惑った様子だった。
「オレからの贈り物だ。気に入らなけば、別の物を用意するが?」
オレの言葉を受けて、皆がノロノロと動き出す。
そして、目の前の贈り物を手にし、皆の表情が嬉しそうに崩れる。
「素晴らしい……。美しさだけでなく、強い力を刃から感じる……」
「まあ、どれも特級品ばかり! どれを身に着けるか迷っちゃう!」
「これは良い物……。持っているだけで、魔力が強化されてる……」
手の中の贈り物に、皆が目を輝かせていた。
これで女神マサーコ様の偉大さが少しは伝わっただろう。
そして、ふとシェリルの羨ましそうな視線に気付く。
……彼女にも後ほど、何か贈り物をせねばならないな。
しかし、オレの視線に気付き、シェリルはニコッと微笑んだ。
「素晴らしい贈り物です。宜しければ、私からは願いを一つ聞いて頂けないでしょうか?」
「ふむ、まずは内容を聞かせて貰おう」
シェリルには何かと世話になっているからな。
オレの持っている物なら、何でも彼女に譲るつもりだ。
――ただし、メルトは除くがな。
そして、シェリルが口にした願いは意外な物だった。
「それでは今後も支配地の財政と行政を、私にお任せ頂けませんでしょうか?」
「これまでは、シェリルが管理していたのか? メルトは何をしていたんだ?」
オレが隣のメルトに視線を向ける。
すると、心なしかメルトはオレから視線を逸らした。
オレが首を傾げていると、シェリルが冷たい視線をメルトに向けた。
「メルト様は戦闘専門です。戦闘以外は何も行えません。放っておけば、領地は荒れて行く一方でした……」
「ぐ、ぐぬぬ……」
シェリルの言葉に対し、メルトからの反論は無かった。
つまりは、そういう事なのだろう……。
「そ、そうか……。基本的にはこれまで通りで良い。それと、業務内容の報告だけは頼む」
好き勝手して、責任だけ負わされてはたまらないからな。
しかし、オレの内心を他所に、シェリルの反応は劇的だった。
「は、はいっ! 喜んでご報告させて頂きます!」
オレの返答に、何故かシェリルのテンションが上がる。
今の受け答えの何処に、喜ぶ要素があったのだろうか?
これまではメルトが何かと口を出していたのか?
それとも逆に、業務報告を聞こうとしなかったのか?
オレが疑問に思っていると、隣から小さな呟きが耳に入る。
「いや、だって……。シェリルの話は小難しくて……」
なるほど、メルトは頭脳労働が得意では無いらしい。
そして、これまではシェリル一人で対応していたのだろう。
とはいえ、オレも財政や行政を分担できると思えない。
もしもの時の為に、保険は掛けておいた方が良いだろう……。
「シェリルにはこれを渡しておこう。上手く使いこなしてくれ」
オレはウインドウを操作し、シェリルに目的のアイテムを渡す。
> 魔法のランプ (お願い回数無制限)
「こ、これは一体……?」
シェリルの前に現れたのは、アラビアンナイト風のランプだ。
黄金のランプを彼女が持つと、ランプから煙が噴き出した。
そして、シェリルの前には、執事風の悪魔が跪いていた。
黒いタキシードに白い仮面を付け、蝙蝠の羽を持つ悪魔だ。
……想像の姿と違うのは、異世界向けのローカライズか?
「ご主人様、何なりとご命令を」
「白仮面の執事ですって……?」
執事悪魔の姿に、何やらシェリルが狼狽えている。
しかし、悪魔はじっとシェリルの命令を待ち続けていた。
シェリルはそんな執事悪魔を無視し、オレへと顔を向ける。
そして、再びお得意のジャンピング土下座を披露してくれた。
「この様な宝具を賜り、もはや言葉も御座いません! 望まれるならば、私は体を差し出す覚悟が御座います!」
「おい、やめろ。メルト以外に手を出さないって、オレは言ったよな?」
皆が恐ろしい物を見たと言う顔をしている。
メルトの引き攣る顔を見て、流石のオレも動揺を隠せない。
「と、取り合えず、この件は一旦終わりだ。次の話に移ってくれ」
オレの言葉を受けて、シェリルは笑顔で立ち上がる。
オレはほっと胸を撫で下ろしつつ、メルトの尻尾をそっと撫でた。




