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新世代

 ブロンシュ様は、ぐるっと一同へ視線を這わせる。

 オレ、メルト、そして、母さん――『黒の竜神』ノワール様へと。


 そして、チラリと視線を足元へ向け、小さく頷いて見せた。


「状況を整理する前に、役者を揃えねばな。――こちらへ呼ぶとするか」


 ブロンシュ様は指をパチンと鳴らす。

 すると、オレの隣に見知った人物が出現する。


 出現した人物はギョッとした顔で、オレの事を凝視していた。


「え……? ユ、ユウスケ、様……?」


 現れた人物はシェリルだった。

 彼女は目を大きく見開き、フラフラとこちらへ歩み寄る。


 そして、手に持った竹槍を落として、オレに手を伸ばす。

 ……ちなみに、どうして竹槍を持っていたかは謎である。


 いや、それだけでは無く、頭に白い鉢巻きを巻いている。

 背中に巨大なリュックも背負い、何かの準備をしていたらしい。


 本当に何をする気だったか、非常に気になる所ではある。

 だが、今はそれを問う雰囲気では無かった。


 シェリルは感触を確かめる様に、オレの顔をペタペタ触る。

 何やら緊張が解けた様子で、涙を浮かべて顔をくしゃっと歪めた。


「ちゃんと、温かい……。不死族でも無く、本物のユウスケ様なのですね?」


「う、うむ……。確かに一度死んだが、母さんの力で復活させて貰ったのだ」


 オレが指さすと、シェリルはその先に視線を向ける。

 そこには、正座をさせられたままの、母さんの姿があった。


 そして、シェリルに気付いた母さんは、嬉しそうに声を上げた。


「あ、私の推しの子だ! 元気にしてた、シェリルちゃん!」


「その声は……。もしや、女神マサーコ様なのですか……?」


 ニコニコ微笑む母さんと、戸惑った様子のシェリル。

 即座に母さんの存在に気付くとは、流石はシェリルと言った所か。


 シェリルは何やら問いたそうな視線を、オレに対して向けている。

 しかし、ブロンシュ様が手を打ち鳴らし、皆の視線を自分に集めた。


「混乱させて済まぬ。だが、お主にも話を聞かせる必要があるのでな。まあ、まずはワシの話を聞いてくれ」


「え……? 白い、メルト……?」


 シェリルはギョッとした表情で、ブロンシュ様とメルトを交互に見る。

 そんな彼女を楽しそうに見つめ、ブロンシュ様が話を始めた。


「まずは自己紹介といこうかの。ワシは『白の竜神』ブロンシュ。この世界と共に生まれし神じゃよ」


「――『白の竜神』様、ですか……?」


 シェリルの表情が一瞬で引き締まる。

 そして、オレに対して問い掛けの視線を向ける。


 オレがシェリルへ頷いて見せると、瞬時にその場に膝を付く。

 そんな彼女に、ブロンシュ様が即座に静止を掛ける。


「よい。その様に畏まるでない。お主も身内となるのじゃからな」


「……は? み、身内というのは、一体……?」


 シェリルは言葉の意味を判断しかね、膝を付いたまま首を捻る。

 そんな彼女に微笑みながら、ブロンシュ様は母さんを指さした。


「そこのは、我が双子の妹。『黒の竜神』ノワールじゃ。ルシ――ユウスケの産みの親でもある」


「女神マサーコ様が、『黒の竜神』様……⁈ いえ、産みの親……???」


 思考が追い付かず、目を白黒させているシェリル。

 そんな彼女に、ブロンシュ様は楽しそうに追い打ちを掛ける。


「そして、ユウスケは初代魔王ルシフェルの転生した姿。神へ至る魂の修行中だったのじゃが、それも先程終えてしもうた。――まあ、平たく言えば、ユウスケはこの世界で三番目の神ということじゃな」


「え……? ええっと……???」


 混乱に拍車が掛かり、涙目になるシェリル。

 しかし、何故か今日のブロンシュ様は容赦が無かった。


「更に言えば、そこのメルトも神候補なのじゃ。『黒の竜神』の血に目覚め、神へ至る資格を有しておる。もっとも、力の制御を知らず、今はまだ神を名乗れる立場では無いがな」


 話題のメルトへ視線を向ける。

 しかし、彼女はこちらの話を聞いていなかった。


 何故かちゃぶ台を用意した母さんとお茶を飲んでいた。

 母さんは母さんで、オレの子供の頃の話を始めていた。


「そして、お主も神候補なのじゃよ。我等が長らく不在となった事で、この星が新たに生み出そうとした神候補。既に神格を有しておるが……ワシ等に並ぶには、ちと修練が必要かのう?」


「わ、私が神様に……? そんな、馬鹿な……」


 恐らくブロンシュ様は、詳しい説明をわざと省いた。

 シェリルが行った魂の修練は、オレの行った簡易版だという事を。


 オレは百回の転生で、ブロンシュ様に並ぶ神格を手に入れた。

 しかし、シェリルは一回の人生で、簡易的に神格を手にしたのだ。


 それでは権能が足りず、神となった後は苦労すると想像出来る。

 それをわかってなお、この世界はシェリルに全てを託そうとした。


 その事を、わざわざ説明する必要が無いと判断したのだろう。

 ブロンシュ様が戻られた為、その苦労は背負う必要が無くなったのだから。


「まあ、可愛い甥っ子の嫁じゃからな。ワシが纏めて面倒を見よう。師匠として、お主らの指導を行おう」


「良いのですか? ブロンシュ様に、そこまでして頂いて……」


 オレは思わず口を挟んでしまう。

 ブロンシュ様に掛かる負担に負い目を感じて。


 しかし、ブロンシュ様はかかっと笑う。

 人の好さそうな笑みで、オレとシェリルにウインクを送る。


「良い良い。人類すべて、我が子も同然。まして、お主の嫁なら身内同然じゃしな」


 そして、視線をすっと隣に向ける。

 ちゃぶ台で談笑する、母さんとメルトに対して。


「ただ、こちらは甘やかすと駄目な気がするのう。厳しめに稽古を付けねばな」


「おおっ! やはり、『白の竜神』ブロンシュ様こそ、真なる神なのですね!」


 何やらシェリルが、尊敬の眼差しをブロンシュ様へ向けている。

 そんな彼女に、ブロンシュ様はただ苦笑を浮かべていた。


 肝心のメルトはと言うと、盛り上がるシェリルにふと気付いたらしい。

 ただし、不思議そうに首を傾げると、また母さんとの談笑に戻ってしまったが……。

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