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回想(メルト視点)

 私は生まれた時から、力の強い子供だった。

 竜人族の中でも、特に強い力を持っていたらしい。


 母ちゃんが族長に成る程の強者だったからかもしれない。

 私は生まれながら、『竜神』の血を濃く継いだのだとか。


 その辺りは良くわからないが、その血が厄介な事は理解出来た。

 何故なら、里の子供達は危険だからと私を避けていたからだ。


 友達と言える者もおらず、私はいつも独りだった。

 いつも里の外で、独りで魔物を追い回して遊んでいた。



 ――だが、そんな私に転機が訪れた。



 雨が降らず、作物が育たない年が数年続いた。

 周囲に食べ物が無く、食料にしていた魔物も数を減らしたのだ。


 年老いた者は多くが飢え死に、皆がギリギリの生活をしていた。

 そんな時に、あの『シスター』――女神マサーコ様が現れたのだ。


 私は背負ったリュックから、旨そうな臭いを感じとった。

 本能で襲い掛かったが、返り討ちでゲンコツを貰う事になった。


 そして、痛む頭を抱える私に、こう言ってくれたのだ。


『お腹がすいてイライラしてるのね。皆でお腹一杯になりましょう!』


 それから、女神マサーコ様は里の人々を集めて食事を振る舞った。

 貧乏な時に役立つ知識として、解毒込みの野草調理法を披露した。


 女神マサーコ様は、里で数日を共に過ごした。

 そして、里を去る際に、仲良くなった私にこう告げたのだ。


『その力は皆の為に使ってね。そしたら、皆が貴女を好きになるから!』


 この力のせいで、私はいつも独りだった。

 でも、皆の為に使えば、私は独りじゃなくなるらしい。


 私達を救ってくれ、私が大好きになった人の言葉である。

 私はその言葉を信じて、里を飛び出して人助けの旅に出た。


 魔物の被害で悩む村は、私が活躍するのに丁度良かった。

 救った人々から感謝され、私はあの言葉が本当だったと理解した。


 そして、魔物を倒して腕を磨き、人々を救う中でふと気付いた。

 魔族の人々が、当時の魔王を良く思っていないのだと。


 皆から貢物を要求するが、それで守ってくれる訳でも無い。

 そんな王様は、魔族達にとって必要な存在なのかと……。



 ――そこで、私はこう思ったのだ。



『今の魔王が全て悪い。私が倒して、良い魔王になってやろう』


 私は魔王に成るべく考えてみた。

 しかし、良い魔王へのなり方が、さっぱりわからなかった。


 そんな時に、とある村で出会ったのがシェリルだった。

 良い魔王とはどういう存在か問うと、ペラペラと答えてみせたのだ。


 シェリルの話す内容は、半分も理解出来なかった。

 しかし、私の直感は彼女が居れば、良い魔王になれると告げていた。


 その為、私はシェリルを仲間にすると決めた。

 彼女を引き連れて、世直しの旅を始める事になった。


 シェリルは口やかましいが、アドバイスは的確で信頼出来る友だった。

 彼女の言葉に従う事で、私は気付けば魔王を倒してその座を奪っていた。


 そして、シェリルのお陰もあり、魔王国は以前より平和になった。

 以前と違って、魔王へ不満を持つ者も格段に減った。



 ――しかし、私はそれでは満足出来なかった。



 私の力を恐れて、暴力を控える魔族が殆どだった。

 その者達は、決して私の事を好きだとは感じていなかったのだ。


 私が目指したのは、あの時の光景のはずだった。

 女神マサーコ様が食事を振る舞い、皆が笑顔だったあの光景だ。


 あの笑顔を再び見る為に、私は何をするべきだろうか?

 それが何かわからないが、何かを間違えているとは理解していた。


 一つに纏まった魔王国に対して、人族は警戒して一致団結する。

 対魔族同盟として、大陸を二つに割っての睨み合いが始まったのだ。


 ままならない現実に、あの時の私は常に苛立っていた。

 そんな私に対し、シェリル以外の者は皆が距離を取る様になった。


 私はやり方を間違えた。

 しかし、それをどう直せば良いのかわからない。



 ――そう悩む私の前に、奴が現れたのだ。



 黒目黒髪を持つ人間の勇者。

 魔王軍の猛者が、足止めにもならない程の強者。


 人族とは信じられない、深い闇を感じさせる青年。

 殺意すら感じる鋭い視線で、ユウスケは私にこう言った。


『一目惚れだ。お前が欲しい』


 相手が人間と言う事も忘れ、私の心が高鳴った。

 初めての求愛に、状況も忘れて喜んでしまった。


 それでも私は魔王という立場だ。

 物陰でシェリルが覗いている事も理解していた。


 なので、強気の姿勢で突っぱねたのだ。

 それだと言うのに、シェリルは私を売り渡したのだ。


 ……正直、内心ではグッジョブと思った。

 しかし、恥ずかしさで本心を隠し、シェリルには怒鳴りつけた。


 まあ、そんな感じで始まったユウスケとの関係。

 グイグイ来る姿勢に対し、素直になれない情けない私……。



 ――それは、私の想像以上に素晴らしい日々だった。



『オレの幸せの為、メルトも幸せになってくれ』


『オレがその望みを叶えよう。我が妻の笑顔を、永遠の物とする為にな』


 ユウスケはいつだって、私が幸せになる事を要求してきた。

 裏表のない好意に、私はどんどん惚れ込むのを感じていた。


 ユウスケはいつだって、私に向かって微笑みを向ける。

 私が困っていれば、いつだって当然の様に助けてくれる。


 ユウスケが隣にいるだけで、私はいつも心が満たされた。

 ユウスケの隣にいるだけで、私はいつだって幸せだった。



 ――これこそが、私の本当に求める物だったんだ。



 独りぼっちの私は、皆に好きになって欲しかった。

 だけど、本当の望みはそうではなかったのだ。


 私を理解し、私を好きで居てくれる唯一無二の存在。

 愛すべき存在が一人居れば、それだけで良かったのだ。


 ……ああ、私のユウスケ。

 私の生きる意味とも言える、愛しのユウスケ。


 どうか、いつまでも私の隣で笑っていてくれ。

 常に私の隣に居て、決してどこにも行かないでくれ。


 そうでなければ、今の私の心はもう……。



 ――パキリ……。



 何かの割れる音が聞こえた。

 周囲の闇がひび割れて、そこから光が差し込んで来た。


 戸惑う私の耳に、あいつの声がしっかりと届いた。


「ああ、今度こそ任せろ。その願い、必ずオレが叶えてみせる」


 ユウスケが腕を振るうと、世界から闇が晴れて行く。

 そして、その腕で強引に私の腰を抱き寄せた。


 ユウスケの腕が、私の背中を抱きしめる。

 身動き出来ぬ私の耳元で、ユウスケは優しく囁いた。


「迎えに来たぞ、メルト。さあ、オレ達の世界に帰ろう……」


 何故かその言葉を聞いて、私の瞳から涙が零れた。

 私はユウスケを抱き返し、そっと小さく頷いた。



 ――そして、私の世界は光に満たされるのだった。

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