Re:転生
ふっと目覚めると、眼前には青空が広がっていた。
そして、背中の柔らかな感触により、例の場所だと理解出来た。
ゆっくり両手を上げると、黒い鎧を纏った腕が見えた。
怪我や痛みも無く、姿も死ぬ前とまったく同じ格好らしかった。
どうやらオレは、再び復活する事が出来たらしい。
恐らくこれも、女神マサーコ様の力によるものだなのだろう。
……しかし、女神マサーコ様の姿が見えないな?
そう思ったと同時に、胸に感じる重みに気付く。
「う、うう……ゆう君……。ひっく……ゆう君……」
「女神マサーコ様――いえ……母さん、ですね?」
オレが上体を起こすと、母さんが身を離した。
ボロボロと涙を流し、オレの事を見つめていた。
オレの死を悲しんでくれたのだろう。
そう思うと、オレの胸に温かな物が宿った気がした。
しかし、母さんの口から出た言葉は、オレの度肝を抜く物だった。
「助けて、ゆう君……。メルトちゃんを、助けてあげて!」
「メルトを助ける、ですって……?」
何の事を言われているのか、オレには理解出来なかった。
しかし、母さんの様子から、尋常でない事態だと察する。
オレは母さんの両肩に手を添え、優しく問い掛けた。
「何が起こっているのです? オレは何をすれば良いのでしょうか?」
オレが問い掛けると、母さんは胸に飛び込んで来た。
子供の様にわんわん泣きながら、オレへと訴えかける。
「また、何もできなかった……! 苦しんでるのに、声も届かなかった……! ゆう君の大切な、お嫁さんなのに……!」
「メルトが苦しんでいる? 一体、何が起こって……」
しかし、疑問に思うと同時に、下界の様子が脳裏に浮かぶ。
何かを必死に探し回り、空を飛び回る黒いドラゴンの姿が。
そして、それこそがメルトだと瞬時に理解出来た。
天に向かって咆哮を上げ、その悲しみを巻き散らかしていた。
「今のは、何だったんだ……?」
どうして、オレは下界の様子を確認出来た?
どうして、ドラゴンをメルトと理解出来た?
突然の現象に、オレの頭がパニックを起こす。
激しく変化する状況に、まったく付いて行けなかった。
だが、母さんの叫びにより、オレは状況を何とか理解する。
「ゆう君の死を感じて、竜神の力が暴走してるのっ! その力で、私の力を拒んでるのっ! ゆう君、私の力を全部あげるからっ! だから、メルトちゃんを助けてあげてっ!」
「そういう、ことか……」
事前にマーサさんから言われていた。
感情の高ぶりにより、竜神の力が暴走する事があると。
メルトがどうやって、オレの死を知ったのは謎である。
だが、それは恐らく『愛の力』に違いなかった。
そして、先程の現象は、母さんがくれた管理者の力。
その力によって、メルトの状態も把握出来たのだろう。
「……今のオレに何が出来る?」
疑問に思うと、その答えを知る事が出来た。
今のオレは、神の力を自在に使う事が出来るのだ。
見たいと思えば何でも見れる。
知りたいと思えば何でも知れる。
メルトの元へ、瞬時に駆け付ける事だって出来る。
その暴走する力を、押さえ付ける事だって出来るのだ。
――ならば、オレのやるべき事は決まっている。
「ゆう君が集めた、信仰ポイントも全部使ってっ! お願いだから、メルトちゃんの事を……!」
「ふっ、言われるまでもありません。それこそが、オレの役目なのですから」
オレは母さんをギュッと抱きしめ、その頭を優しく撫でる。
母さんは一瞬身を固くするが、すぐにその腕をオレの背に回して来た。
母さんが泣き止むまで、オレはその背を優しく叩く。
下界のメルトを確認しつつ、その対処も同時に検討する。
そして、少しの時間を置いて、母さんがオレから身を離した。
「ごめんね、ゆう君。私はもう大丈夫だから、メルトちゃんの所に行ってあげて」
「ええ、わかりました。全てが片付いたら、メルトと共にまた戻ってきますので」
オレはふっと笑みを浮かべる。
そんなオレに、母さんがニコリと微笑み返した。
そして、オレはメルトの変化に顔を顰める。
どうやら、余り悠長にしている状況では無さそうだ。
「それでは行ってきます。後の事は任せて下さい」
オレはメルトの位置を再確認し、そこへの転移を発動させる。
そんなオレに対し、母さんはポカンと口を開いて何やら呟く。
「あれ? まだ私はゆう君に、管理者権限を……」
最後まで言葉を聞けなかったが仕方が無い。
話の続きは、メルトを救った後にゆっくり聞こう。
心中でそう考え、オレは視線を前方へと向ける。
目の前で荒ぶる、竜神メルトに対して……。




