魔王四天王
朝食を取り終えたオレは、魔王城の玉座に座っていた。
今のオレは真っ黒なローブに、真っ赤なマントという姿だった。
そして、隣に立つのは我が妻メルト。
黒いドレス姿で、キリリと勇ましい表情を浮かべている。
……その表情にグッと来るが、今はまだ我慢の時である。
「――大魔王ユウスケ様。魔王四天王、ここに参上致しました」
オレの目の前で跪くのは、同じく黒ドレス姿のシェリル。
今は顔を伏せているので、桃色の髪しか見る事が出来ない。
しかし、すぐに頭を上げて、オレへと微かな笑みを見せる。
「まずはこの私、魔王四天王筆頭、知将のシェリル=ノアに御座います」
シェリルは自らの胸に手を当て、すっと目を伏せる。
彼女だけ城に駐在していたが、どうやら四天王内で一番偉いみたいだ。
オレが納得すると、シェリルは次の紹介を続ける。
「続きましては獣人族が王、剛腕のリオン=ライオネルで御座います」
「お初にお目に掛かります。吾輩がリオン=ライオネルで御座います」
シェリルの背後に三人の人物が並んでいる。
その中で、右側で跪く巨体の戦士が顔を上げた。
その頭部は、黄金の鬣を持つ獅子であった。
体は人型だが毛に覆われ、金属製の軽鎧を身に着けている。
リオンは強面だが、挨拶の印象は老紳士と言った所だった。
「続きましては夢魔族が女王、妖艶のラビアン=ローズで御座います」
「うふふ、大魔王様。私の事は親しみを込めてラヴィとお呼び下さい」
シェリルの背後に跪く、巨漢の男が顔を上げた。
どう見ても男にしか見えないが、彼は女王で間違いないのか?
紫の長い髪は奇抜に天を向き、ピンク中心のスーツを身に纏っている。
俗に言うオネエにも見えるが、相手は魔族なので真相は不明だ。
「最後は不死族が女王、残虐のエリザベート=ツェペシュで御座います」
「エリザベート=ツェペシュよ。一応、よろしく……」
最後の人物は、十五歳未満の小柄な銀髪少女であった。
赤色を中心としたドレスを身に纏っている。
真っ赤な瞳は興味無さそうに、オレを冷たく見据えている。
子供故の態度なのだろうが、どうして四天王に子供がいるんだ?
オレが首を捻っていると、シェリルが立ち上がった。
そして、右手をオレに向け、残りの四天王へと説明を行う。
「そして、改めまして、大魔王ユウスケ=ナカノ様です。魔王メルト様を下し、ご婚約をなされました。今後は大魔王として、この地を統治して頂きます」
……メルトと婚約だと?
ふむ、オレの中では既に、彼女はオレの妻なのだがな。
まあ、それは形式的な問題でしかない。
問題を片づけて式を上げれば、自他共に認める夫婦となるだけだ。
オレはそこで、オレに集める視線に気付く。
楽しそうなシェリル、鋭い視線のリオン、興味深そうなラヴィ、興味無さそうなエリザベート。
どうやら、オレの言葉を待っているらしい。
オレは玉座から立ち上がり、メルトを抱きよせて宣言する。
「メルトはオレの嫁だ! 手を出す奴は叩き潰す!」
「ちょっ……?! お前は一体、何を言ってるのだ!」
腕の中でメルトが暴れ、オレの胸をポカポカ叩く。
指輪の効果なのか、少しだけ痛みを感じる気がする。
しかし、これはメルトの愛情表現なのだ。
オレは甘んじて、彼女からのじゃれ合いを受け入れた。
「だ、大魔王様は基本的に、この様なお方ですので……」
シェリルが引き攣った表情で、四天王の皆に説明していた。
その説明を聞いているのか、彼等はポカンと口を開くだけだった。




