戦闘準備
オレ達はようやく、『巨神兵』に追いつく事が出来た。
馬車の窓から、その存在を目視可能な距離まで追い付いたのだ。
そして、その姿を目にしたオレは、ポツリと零してしまう。
「……デカ過ぎないか?」
木々を踏み倒して進む、赤褐色の鉄巨人。
目算にはなるが、20メートル程の身長を持つと思われた。
ちょっとしたタワーサイズである。
どう考えても、アレはリアル系の巨大ロボットだった。
これからオレは、アレと戦うんだよな?
大きさが違い過ぎて、戦う姿がまった想像出来んのだが……。
「大丈夫ですかい、旦那? 流石にアレは、無理そうですかい?」
「いや、何とかしよう。オレがやらねば、誰がやるというのだ?」
リオンの問い掛けに、即断で答えを返す。
下手に言い淀んでは、彼に不安を与えてしまうからな。
とはいえ、何とか出来る自信がある訳では無い。
正直、歴代魔王の力を借りても、どこまでやれるか未知数である。
オレは窓から『巨神兵』を眺め、そっと指輪に指を添える。
まだまだ距離があるが、近くなれば制限を外す必要がある。
オレは指輪を見つめながら、自分に対して言い聞かせる。
これまでも何とかやって来たのだから、今回も何とかなるはずだと……。
「――っ、旦那! アレを見てくだせえ!」
リオンが慌てて空を指さす。
すると、そこには白い天馬の姿が見えた。
ファンタジーの代名詞とも言えるペガサスである。
その翼を持つ白馬は、こちらに向かって降りて来る所だった。
オレは御者に指示して、馬車を停止させる。
そして、降りて来る天馬を迎えるのだった。
「――む? あの者はもしや……」
オレのすぐ近くへ降り立つ天馬。
その背中には、見慣れた人物が乗っていた。
「大魔王様! 救援に来て頂けたのですね!」
天馬の背から降り、オレへと跪く人物。
その人物は、オレの配下となったドワーフ族の青年だった。
「騎手はバロンか? どうして、お前が……?」
「はっ、里の危機に駆け付けました! 現在は仲間達を、ローズ様の領地へ逃がしております!」
バロンはこの地に現れた理由を告げる。
どうやら次期領主として、その務めを果しているらしい。
しかし、オレが聞きたかったのは、そこでは無いのだ。
どうして髭もじゃの男が、白馬に乗っているかなのだが……。
――いや、それこそ今は議論すべき時では無いな。
オレは気持ちを切り替えて、バロンへと問い掛ける。
「全てのドワーフ族は、ラヴィの領地へ避難しているのか?」
「いえ、女と子供に年寄り達が中心です。動ける男達は、足止めの工作を行っております」
バロンは何やら、穴を掘る仕草を見せていた。
どうも、工作とは落とし穴か防壁作りと言った所みたいだ。
当然ながら、それで止まる『巨神兵』ではないだろう。
つまりドワーフ族も、救援が駆け付けるまでの時間稼ぎを考えているのだ。
――そう、このオレが、必ず駆け付けると信じて……。
なのでオレは、ふっと笑みを浮かべてバロンへ問う。
「ドワーフ族の里は近いのか? もし近いなら、派手な攻撃は控えるが?」
「いえ、まだまだ十分な距離があります。どうぞ、我々にお気遣いなく!」
オレの言葉に、バロンは嬉しそうな笑みを浮かべる。
その輝かんばかりの瞳には、オレへの全幅の信頼が感じられた。
オレはバロンの肩を軽く叩き、再び馬車へと向き直る。
「オレ達は先を急ぐ。バロンも自らの務めを果すが良い」
「はっ! 大魔王様のご武運を、お祈りしております!」
胸に手を当て、敬礼らしき動作を見せるバロン。
そのままじっと動かず、オレ達の出立を見守っていた。
なのでオレは、力強く頷いて見せる。
そして、リオンと共に馬車へと乗り込んだ。
「では、『巨神兵』との距離を、早々に詰めてしまうぞ」
「へいっ! 奴の近くまでは、同行させて頂きやすぜ!」
当然とばかりに宣言するリオン。
彼もまた、嬉しそうな笑みをオレへと向けていた。
その信頼の籠った瞳に、オレはふっと笑みを返す。
気が付くとオレは、これ程までに慕われていたのだなと思い。
……どうして彼等は、オレをそこまで信じている?
オレはそれ程の事を、彼等に対して行っただろうか?
過去を振り返るが、これという物は思い浮かばない。
オレはただ流れに身を任せ、ここまでやって来ただけなのにな……。
不思議に思うが、それもまたどうでも良いと思い直す。
オレを信じる者がいるなら、その信頼にオレは答えるだけなのだから。
オレは気持ちを切り替え、窓から『巨神兵』へと視線を向ける。
もうすぐ訪れるその時に向け、オレは集中力を高めるのだった。




