報告
今のオレは、執務室にて上がってる報告書に目を通していた。
いずれの報告も予定通りに事が運び、順調である旨が記載されている。
まあ、問題など起こり得るはずもないのだがな。
シェリル、ディアブロ、エリーがそれぞれ管理を行っているのだから。
信頼出来る仲間達に囲まれた事を、オレは女神マサーコ様へ感謝する。
この采配も、全ては女神マサーコ様の導きに違いないのだから。
オレは大いに満足して、右隣へと視線を移す。
そこでは隣に椅子を並べ、オレと腕組むシェリルの姿があった。
「……その、今は仕事の時間だ。少々、距離が近すぎやしないか?」
「別に良いではありませんか? 誰かの目がある訳でも無いですし」
オレの問いに、嬉しそうな笑みを返すシェリル。
そして、見せつける様に、オレの腕に頬ずりまで始める。
オレとの結婚が決まってから、シェリルは本当に積極的になった。
貪欲なまでにオレの愛情を求めて来るのである。
そんなシェリルが可愛く、オレは無下に扱う事が出来ずにいた。
彼女の妊娠からご無沙汰なので、こちらは辛抱溜まらんのだが……。
「……ふう、少し休憩にするか。そういえば、メルトは何をしている?」
「メルトですか? ソリッドと一緒に、お昼寝をされていると思います」
ああ、まだまだ夜泣きとかで、寝不足が続いているみたいだしな。
メイド悪魔のサポートがあるとはいえ、メルトも大変な状況なのだ。
勿論、オレもメルトに対し、育児を手伝うと伝えてはみた。
しかし、彼女のみならず、周囲からもキッパリと反対されてしまった。
オレは大魔王なのだから、その職務をまっとうしろと。
育児はオレの仕事では無いと、全員から駄目だしされてしまったのだ。
オレの世界では、イクメンという言葉すらあったのにな。
魔族の感覚故なのか、男の育児は否定的に捉えられてしまうらしい……。
一抹の寂しさを感じつつ、オレはシェリルへと思考を戻す。
「シェリルの体調はどうだ? 吐き気などは特にないのか?」
「ええ、問題――いえ、気分がすぐれないので、このままで」
見え透いた嘘で、嬉々としてオレの腕を抱きしめる。
幸せそうな顔なので、仕方ないなとオレは苦笑を浮かべる。
まあ、オレがやれる仕事何て、大したことは余りないのだ。
判断が必要な報告も、隣のシェリルに聞けば答えが返って来る。
オレはただ、報告書に目を通して承認するだけである。
まあ、魔王国が平和な証なので、特に不満がある訳ではないのだが。
「――と、そういえば、もう少しで神殿が完成するそうだな」
「はい、間もなく式が挙げられます。早ければ来月にでも!」
目をキラキラと輝かせ、シェリルがオレへと返事する。
彼女としても、この時を今か今かと待ち続けていたのだ。
そして、オレはシェリルの腹部へと視線を向けた。
まだ、膨らみが見えぬ腹部を見て、頃合いも丁度良いなと考える。
メルトも出産を終えて、体形が元へと戻っている。
シェリルも体形に影響が無く、一月後もまだ大丈夫そうに見える。
つまり、二人は問題無くウェディングドレスを着れるという事だ。
この機を逃さず、すぐにでも式の手配を完了させるべきだろう。
「確かディアブロが計画を進めていたな? 近々、彼と打ち合わせを……」
そして、オレが話している途中に、割り込む者が現れる。
勢い良く扉を開き、大柄の男が飛び込んで来た。
「だ、大魔王の旦那! 大変な事がおきやしたぜ!」
「リオン、そんなに慌てて、どうしたと言うのだ?」
そう、飛び込んで来たのは獣人族のリオン。
相当急いで駆け付けたのか、肩で息をしながらオレへと告げる。
「人間達の街が……。いや、王城が滅んじまったんでさ!」
「……は? 王城が滅んだ、だと……?」
余りに唐突な報告に、オレは思わず固まってしまう。
そして、隣に視線を逸らすと、シェリルも同じく固まっていた。
そんなオレ達に、リオンが真剣な声で進言して来る。
「前線基地のゼル指令が呼んでやす。部隊を編成し、完全武装で向かって下せえ」
その言葉で事態を悟り、オレはすっと立ち上がる。
どうやら、オレの力が必要となる、危機がこの国に迫っているのだと。
オレはシェリルに後を任せ、リオンと共に魔王城を発つのだった。




