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お告げ

 マーサさんの長い説教を終え、メルトはすっかり疲れ果てた。

 それもあって、今日は早めに就寝した。


 そして、疲れていたのはメルトだけでは無い。

 何だかんだで、オレも昨晩は一睡もしていなかったしな。


 そんな訳で、早めの食事を取って、日暮れと供にベッドに入る。

 メルトは妊娠中なので、当然ながら何もせずに眠りについたのだ。


 ……そのはずなのに、今のオレは謎の空間を漂っていた。

 周囲が真っ白な空間を、ただフワフワと漂っているのだ。


「これは、一体……?」


 いつもの、女神マサーコ様の呼び出しでは無さそうだ。

 足元は雲では無く、肝心の女神マサーコ様の姿も無い。


 そして、オレ自身も思う様に体を動かせない。

 頭も霞がかった様に働かず、逆にそれがオレを冷静にさせた。


「ふむ……。これは夢か……?」


 こんなにハッキリ、夢だと自覚出来るのかは疑問に思う。

 しかし、そう思う考える事で納得は出来た。


 そして、ぼんやりするオレの前に、光の球体が姿を現す。

 優しく輝く発光体は、オレに向かって声を発した。


『条件は満たされた……』


 光の球体は、突然三つに分裂した。

 赤、黄、黒の三色の発光体である。


 それらは円を描くように、クルクルと回り始める。

 ゆっくり回るその様は、まるでワルツみたいだと感じられた。


『試練の終わり……』


『目覚めの予兆……』


『孵化の始まり……』


 その発光体は、淡々と言葉を並べる。

 その意味はわからないが、何やら嬉しそうに点滅している。


『星の巫女……』


『神の種子……』


『運命の子……』


 発光体は、オレの周囲に移動する。

 オレの事を誘う様に、オレの周囲を回り始めた。


『既に殻は割れている……』


『功徳は十分溜まった……』


『魂の進化を待つのみ……』


 この発光体は、オレに何を伝えたいのだろう?

 何かをして欲しいという思いは、ひしひしと伝わって来た。


 しかし、それが伝わらず、もどかしい思いをしている。

 何故だか、それだけは理解する事が出来た。


 その為、オレはこの発光体達へと問い掛けた。


「……オレに、何かをして欲しいのか?」


 三色の発行体達は、嬉しそうにチカチカと点滅する。

 オレの周囲を踊る様に、軽やかに上下しながら回り続ける。


 そして、歓喜を含んだ声が、オレに対して向けられる。


『温めてあげて……』


『愛情を注いで……』


『心を満たして……』


 それは、誰に対してなのだろう?

 メルトか、シェリルか、それ以外の誰かなのか?


 そして、愛情を注ぐとどうなるのだろう?

 この発光体達は、何を望んでいるのだろうか?


『世界に秩序を……』


『人類の安寧を……』


『真の支配者を……』


 やはり、発光体の言う言葉は良くわからない。

 断片的な言葉を、それぞれ勝手に言っているだけなのだ。


 そして、オレの脳裏に、ある考えが過る。

 この発光体は、子供みたいな存在なのではないかと。


 言葉には悪意を感じず、無邪気に喜びを示している。

 相手への配慮は無く、ただ聞いて欲しいと言葉を投げ掛ける。


 幼子が大人へアピールする姿に似ている。

 自分の考えを伝えたく、知って欲しいと思っているのだ。


 そう思うと、この発光体の事を愛おしく思えて来た。


「それは、オレの身近に居る存在なんだな?」


 再び問うオレに、喜びの感情が伝わって来る。

 発光体達は、動きを速めて周り続ける。


『大切な人……』


『運命の人……』


『永遠の人……』


 恐らくは、先程の問いは肯定なのだろう。

 これ程嬉しそうに、オレの周りをまわっているのだ。


 ならば、オレの周囲に居る、大切な人へと愛情を注ぐ。

 その運命やら、永遠の人を満たして欲しいと言う事だろう。


 そういう話ならば、別に頼まれるまでもない内容だった。


「ああ、わかった。オレの愛で、お前達の大切な人を満たしてみせよう」


 その言葉で、発光体は満足したのだろう。

 ふわっとその姿が、白い世界に溶け消えて行った。


 そして、それと同時に白い世界もぼやけて行く。

 どうやら、この夢と思われる世界も、間もなく終わりを迎えるのだろう。


 結局、この夢が何だったのか、わからないままだったな。

 発光体の正体も、彼等の大切にしている存在についても。


 ただ、それで良かったのかもしれない。

 何故なら、この夢に意味など無い……。



 ――夢から覚めたオレは、全てを忘れてしまうのだから。

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