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過去と未来

 人族との戦況については概ね理解した。

 流れはこちらにあり、時間と共に有利になりそうであると。


 リオンとエミリアも報告が終わった様で元の位置へと下がっている。

 ならば最後に残ったのは、ディアブロとフロードの報告だな。


 オレが視線を向けると、ディアブロはすっと一礼して報告を始める。


「私からはまず、神殿の建設状況について。既にお聞きかと思いますが、ゴブリン族とドワーフ族が協力して建設を開始しております」


「ラヴィから軽くは聞いている。ちなみに、建設地はどの辺りなのだ?」


 ラヴィから聞いたのは、建設が始まったと言う事だけだ。

 何処で、どの様に建築しているかまでは聞いていない。


 オレの問い掛けに対し、ディアブロは微笑みを浮かべて説明を行う。


「魔王城から比較的近い場所となります。ゴブリン領と魚人領から資材搬入の関係で、やや西寄りとさせて頂きましたが」


「ほう? 資材は彼等の領地から購入しているのか?」


 確かに、物流に都合の良い地であれば、作業もスムーズに進むだろう。

 ゴブリン族と、魚人族から買い付けるなら、その地に近い方が便利と言える。


 しかし、納得しかけたオレに反し、ディアブロは首を横に振る。


「いえ、物資は全て寄付となります。我々は金銭を一切支払っておりません」


「全て寄付だと? まさか、彼等に圧力を掛けたりはしていないだろうな?」


 神殿を建設するだけの物資である。

 その総額を考えれば、ポンと出せる額では無いはず。


 良好な関係を望みはしたが、搾取に近い形ならオレの思う姿ではない。

 そう心配するオレに対し、ディアブロの隣でフロードがクスリと笑った。


「いえ、ご心配は無用です。ゴブリンの王も、魚人族の女王も、実にしたたかな方々ですよ」


したたかだと? それは一体、どういう意味だ?」


 フロードの雰囲気から、悪い話ではないのだろう。

 しかし、与えられた情報からは、さっぱり事情がわからない。


 首を傾げるオレに対し、ディアブロは苦笑を浮かべて説明する。


「神殿の周囲に、都市の建設を要求されましてね。彼等には出資額に見合った、土地の提供を約束しております」


「神殿の周囲に、都市の建設? ……って、新たな都市が作られるのかっ?!」


 何やら、オレが思う以上のスケールになっている。

 神殿作りすらどうかと思ったのに、気付いたら都市を一つ作るとか……。


 オレが呆然としていると、ディアブロは咳ばらいと共に姿勢を正した。


「事後報告となり申し訳御座いません。しかし、この都市は今後と必要と判断し、私の責任で許可を出しました」


「……ふむ。そう判断した理由を聞かせて貰えるか?」


 ディアブロは頭が良いだけでなく、責任感も非常に強い。

 自らの私欲で、オレに黙って判断するとは思えない。


 ならば、それ相応の理由があるのだろう。

 そう考えて構えるオレに、ディアブロは楽しそうな声で告げる。


「現在の魔王国は、真の意味で一つになろうとしています。小国の集まる群体ではありません。大魔王様を中心とした、一つの大きな国へと変わるのです。――ならば、大魔王様のお膝元には、大魔王国の首都があるべきと考えたのです」


「大魔王国の首都……?」


 今更ではあるが、魔王城の周辺には城下町が存在しない。

 魔王城は軍事拠点であり、戦場となる事を前提としている為である。


 今までの様に、各地の領主が独自に統治するだけなら問題無かった。

 しかし、その在り方を変えるなら、魔王城もその意味を変える必要がある。


 争いが無くなったその後に、魔王城は平和の象徴へと変わるのだ。

 ならば、女神マサーコ様の神殿を中心とした、首都は用意すべきだろう。


 しかし、オレはふっと疑問に思う。

 オレの中のディアブロは、この様に平和的思考をする男では無かった。


「……この首都建設は、ディアブロが考えた事なのか?」


 オレの問い掛けに、ディアブロはハッと身を固くする。

 そして、しばらく何かを悩んだ後に、意を決した様に口を開いた。


「我が友フロードの助言もありました。しかし、これはある方の悲願でもあります。――かつての我が主、初代魔王様の悲願です」


「初代魔王の悲願……?」


 ディアブロは初代魔王の右腕として知られている。

 太古の魔王国を生き、初代魔王に仕えた執事だったそうなのだ。


 しかし、これまでディアブロの口から、その話が出る事は無かった。

 余り話したくないのかと、オレも踏み込まない様にしていたのだ。


 その過去を、ディアブロはゆっくりと語りだした。


「私の生まれた時代は、常に争いが絶えない環境でした。欲望に忠実な魔族は、常に競い合い、奪い合っておりました。それを最高の武で治めたのが、かつての我が主です。それにより魔王国が生まれ、魔族同士の大きな争いは無くなったのです」


 その声、その仕草から、かつての主への忠誠心が伺える。

 ディアブロは今でも、初代魔王への想いを忘れていないのだろう。


 ディアブロ程の男に、そこまで惚れこまれる存在だったのだ。

 きっとその魔王は、ぽっと出のオレとは比較にならない男だったのだろうな。


「……しかし、我が主の悲願、争いの無い世界は実現しませんでした。魔族は自らの領内に引き籠り、他種族への攻撃を止めただけ。同じ種族内では、小さな争いが絶えなかったのです。我が主はその事を悔やみながら、晩年を過ごしておりました。他に上手いやり方があったのではないかと、失意の中でその人生に幕を下ろしたのです」


 望む結果では無かったという事か。

 その男の想いは、人々が心穏やかに生きられる世界だったのだから。


 オレは隣に立つメルトを見る。

 同じ思いを持つ彼女は、神妙な表情を浮かべていた。


 同じ魔王、同じ苦悩を持った者同士である。

 きっと、共感する何かがあるのだろうな……。


 オレはディアブロに視線を戻す。

 すると、彼は真っ直ぐな視線をオレに対して向けていた。


「かつての私は、主の望みを叶えられませんでした……。しかし、今の私は違う! 知を競う仲間がいる! 平和を望む同胞がいる! 何よりも、新たな世界を示してくれる主がいます!」


 熱い想いで吠えるディアブロ。

 彼はその場で膝を付き、オレに対して頭を垂れた。


「我が王よ! かつて見た夢を! かつての主の悲願を! その未来を、どうかこのディアブロにお示し下さい!」


 ディアブロの熱気に当てられたのだろう。

 オレの胸の中で、熱い想いが沸き上がって来る。


 メルトを見ると、当然という顔で頷いていた。

 部屋の一同に視線を這わせると、皆が期待の視線を向けていた。


 なので、オレはその場に立ち上がり、皆に対して宣言する。


「その願い、確かに聞き届けた! このオレが、その望みを必ず叶えてみせよう!」


「ははぁ……! このディアブロ、大魔王様に絶対の忠誠をお誓い致します……!」


 こうしてまた、オレは覚悟を新たにするのだった。

 魔王国の王として、オレには皆の願いを叶える義務があるのだと。

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