目覚めの朝
その日、オレは初めて睡眠を取った。
ポラリースへやって来て、31日ぶりの睡眠である。
しかも、昨晩はたったの三時間で眠気がやって来たのだ。
オレはこの世界で初めて、疲労と言う感覚を思い出した。
メルトと共に眠り、共に目覚める。
これが人としての営みと言う事なのだろう。
オレはメルト並び、女神マサーコ様へと感謝の祈りを捧げる。
「大魔王様、失礼いたし……」
扉の方へと視線を送ると、シェリルの固まる姿が見えた。
オレとメルトの姿を見て、ぽかんと口を開いていた。
……そういえば、今のオレとメルトは裸のままだった。
「そ、それは、女神マサーコ様への正しい祈りなのでしょうか?」
「う、うむ……。まあ、そんな所だ……」
咄嗟に肯定してしまったが大丈夫だろうか?
まあ、女神マサーコ様なら、この程度は気になさらないと思うが……。
オレはベッドから降りると、用意された黒いローブを身に纏う。
これは暗黒のローブという、大魔王に相応しい恰好なのだそうだ。
メルトは真っ赤な顔をして、用意された黒のドレスを手に取っていた。
あちらは星屑のドレスという、大魔王の妃に相応しい恰好である。
オレ達が着替え終わると、シェリルが笑顔でオレ達へと問い掛ける。
「今日もお勤めご苦労様です。朝食は大魔王様だけで宜しいでしょうか?」
「いや、今日は私も食べるぞ。なにせ、昨晩はぐっすりと眠れたからな!」
胸を張って答えるメルトに、シェリルが怪訝そうな表情を浮かべる。
そんなシェリルに対して、メルトはオレの右手を掴んで見せる。
「女神マサーコ様の祝福だ! 指輪の効果で、ユウスケは三時間で果てたのだ!」
「そ、そんな、まさか……。大魔王様が、たった三時間で果てたですって……?」
勝ち誇った表情のメルトと、驚愕に表情が崩れるシェリル。
二人の間で、謎のやり取りが発生していた。
オレはやや不満を感じて、二人に対して補足を伝える。
「いや、ヒールを使えばまだ行けた。朝までだって続ける事は可能だった」
「絶対にやるな! それは女神マサーコ様の慈悲に唾吐く行為だからな!」
女神マサーコ様の慈悲か……。
確かに人間性を大切にって言われたばかりだったな……。
オレは渋々、メルトの忠告に頷く事にした。
そして、ほっと胸を撫で下ろすメルトに、シェリルがくすくすと笑う。
「何やら仲良くなられましたか? 昨晩よりも雰囲気がやわらかですね?」
「ほう、流石に気付いたか……」
シェリルの慧眼に、オレは軽く驚きを感じる。
ほんの少しのやり取りで、そこまで気付けるとはな……。
オレは胸を張り、昨晩の要約をシェリルに伝える。
「メルトがオレに誓ってくれた。オレの隣で生涯微笑み続けるとな」
「違う! 全魔族を幸せにしたらだ! 私との約束を間違えるな!」
そういえば、そんな前提条件が付いていた気がするな。
まあ、さっさと約束を果たして、メルトの笑顔を手にすれば良いか。
オレ達のやり取りを見て、シェリルは感心の視線をメルトに向ける。
そして、笑顔を浮かべて、オレへと告げて来た。
「ならば、丁度良いご報告が。間もなく魔王城に、魔王四天王が揃います」
「ほう、魔王四天王か……」
この魔王城に、役員が全員揃うという事らしい。
社長はメルトであったが、オレに引き継ぐので顔合わせだろう。
そして、ふとメルトを見ると、その表情がキリリと引き締まっていた。
その表情にグッと来たが、シェリルが慌てた様子でオレに告げる。
「お、お食事を早めにどうぞ! その後すぐに、皆をお連れしますので!」
「……まあ、そうだな。先にやるべき事を、片づけるべきだな」
指輪のお陰か、今日のオレは自制心が働くらしい。
何とか夜までなら、オレのリビドーは抑えられるだろう。
何故か身構えるメルトに、オレはふっと笑って見せる。
そして、まずは腹ごしらえの為、二人で食堂へと向かった。




