側室ルート!
馬車に揺られ、魔王城へと帰還したオレ達。
もう間もなく城門という所で馬車が止まった。
何事かと思い、馬車を降りるオレとシェリル。
すると、城門前で待ち構える人物に気が付く。
「メルト……と、ラヴィ?」
腕を組んで仁王立ちをするメルト。
その背後に控え、妖艶な笑みを浮かべるラヴィ。
ドレス姿の女性と中性が並んでいる。
不思議な組み合わせだなと思っていると、メルトがギロリと睨んで来た。
「シェリルよ、ローズから話は聞いた。何故、黙っていた?」
「黙っていた、とは? 何の事を言っているのでしょうか?」
メルトの睨んだ相手は、オレでは無かったらしい。
睨まれたシェリルが不思議そうに問い返していた。
すると、メルトは目を吊り上げて、シェリルへと吠える。
「『誓いの紋章』の事だ! 女神マサーコ様に刻まれたのだろうが!」
「あ、いえっ……! それは、その……!」
何やら慌てた様子を見せるシェリル。
チラチラとオレを見ては、泣きそうな表情を浮かべていた。
どうやら、思い当たる節は有るらしい。
しかし、それをオレには知られたくないのだろう。
『誓いの紋章』が何かはわからない。
だが、それがシェリルにとって不都合な事だけはわかった。
止めるべきかと悩んでいると、それより早くメルトが告げる。
「その紋章は、男女が永遠の愛を誓うもの! つまり、女神マサーコ様は望まれているのだ! シェリルとユウスケが結ばれる事をな!」
「「は……?」」
女神マサーコ様が望まれている?
オレとシェリルが結ばれる事を?
状況がさっぱりわからない。
どうして、そういう状況になっているのだ?
シェリルの様子を伺うが、ポカンと口を開けていた。
どうも、彼女も状況がわかっていないみたいだ。
そんな混沌とした状況の中で、冷静なラヴィが解説を行う。
「魚人族の領地で、大魔王様が溺れた事があったでしょう? その際に救出の報酬として、女神マサーコ様がシェリルに『誓いの紋章』を贈ったそうなのです」
「ほう? あの時に、そんな事が起きていたのか?」
そういえば、女神マサーコ様はお礼について口にしていたな。
どうやらアレは、女神マサーコ様から贈るという意味だったらしい。
ならば、その報酬が悪い物であるはずがない。
シェリルにとって、益がある物と考えられる。
「『誓いの紋章』を刻んだ者は、誓いを立てた相手以外の異性と触れる事が出来なくなります。そして、シェリルは大魔王様と触れ合う事が出来ておりますよね?」
「うむ、それは間違いない。竜人族の領地でも、シェリルを背負って崖を登ったからな」
オレの言葉を聞いたメルトが、凄まじい形相でシェリルを睨む。
シェリルはその視線を避ける様に、素知らぬ顔で明後日の方向を向いていた。
そんな二人のやり取りに、ラヴィは楽しそうに笑みを浮かべる。
そして、ラヴィがオレへと尋ねて来た。
「女神マサーコ様の贈り物で、シェリルは大魔王様としか結ばれなくなりました。ここまで言えば、その意味はおわかりですよね?」
「女神マサーコ様が、望まれていると言う事か……」
だが、オレはメルトを愛している。
シェリルの事を一番に愛せると言えないのだ。
そんなオレが受け入れて良いのだろうか?
それはいずれ、シェリルを不幸にしないのだろうか?
オレが答えを出せないでいると、メルトはシェリルへ問い掛ける。
「シェリルに問う! お前はユウスケが好きか? ユウスケを受け入れる覚悟があるのか!」
「――っ! 勿論で御座います! 望んで頂けるなら、大魔王様の全てを受け入れます!」
その問い掛けに、シェリルは真剣な表情で答えを返す。
彼女はオレの事を、受け入れる意思があるらしい。
その返事に戸惑うオレに、続いてメルトが問い掛ける。
「ならば、ユウスケにも問う! お前はシェリルの事を受け入れる覚悟があるか!」
「い、いや……。オレが愛しているのはメルトだ……。同じ様に愛することは……」
オレはシェリルの様に、はっきり好きだと言えなかった。
例え女神マサーコ様や、メルトがそれを望んだとしてもだ。
しかし、メルトはオレを睨み付け、傍若無人に怒鳴り散らす。
「小難しい事を言うな! 私が聞いているは、シェリルの事が好きかというだけだ!」
「――なっ……?!」
オレの意見を聞く気は無いらしい。
メルトの問い掛けに、シンプルに答えろと言うのだ。
確かにオレは、シェリルに好意を持っている。
メルトと出会う前なら、別の付き合いもあったかもしれない。
しかし、そうも言えずに悩んでいると、メルトは不機嫌そうな表情を浮かべた。
「私の笑顔を永遠にするのではなかったのか? そう約束して貰った記憶があるのだが?」
「あ、ああ……。確かにそう約束したな……」
メルトの望みを聞いた時、彼女は世界の平和を望んだ。
オレへメルトが永遠に微笑む様に、その願いを叶えると誓った。
だが、どうしてその話を今するのだ……?
そう戸惑うオレに、メルトはニヤリと笑って見せた。
「私の笑顔には、親友の幸せが必須だぞ? シェリルの事は、幸せにする自信が無いのか?」
「――い、いやっ! それが必要と言うなら、オレはシェリルの事を幸せにしてみせよう!」
そうだ、オレは何を難しく考えていた。
この状況で断られては、シェリルの立場が無いではないか。
シェリルはオレを受け入れると言ってくれたのだ。
ならば、オレも覚悟を決めて、彼女の事を受け入れるだけである。
情けない話だが、メルトの後押しで腹を括る事が出来た。
オレはシェリルの人生も、まとめて背負う事を覚悟した。
オレは隣のシェリルへと向き直る。
呆然とする彼女に対し、オレは改めて意思を確認する。
「オレからも改めて問おう。オレの事を、受け入れてくれるのだな?」
「――も、勿論で御座います! どこまでも、お供させて頂きます!」
目に涙を溜め、破顔して返事を返すシェリル。
フラフラと倒れそうな彼女を、オレはそっと抱き留めた。
すると、メルトが笑みを浮かべて歩み寄る。
オレとシェリルの肩に手を置き、オレに対してこう告げた。
「シェリルを幸せにしてやってくれ。具体的には、朝までたっぷり可愛がって欲しい。――勿論、指輪の制限は外してな」
「…………え?」
メルトの言葉を聞き、シェリルの表情が固まった。
ギシギシと硬い仕草で、メルトへと顔を向けた。
そんなシェリルに対し、メルトはニヤリと笑みを浮かべる。
「私の初めては覚えているな? ユウスケの本気を、たっぷりと味わってくれ」
「…………え?」
そういえば、メルトの時も初日は指輪をしていなかった。
そう考えれば、シェリルに対して同様にすべきかもしれない。
同じ妻となるのだから、差別はやはり良くないだろう。
きっとこれも、メルトなりの気遣いなのだろうな。
そう納得したオレは、かつてを思い出してシェリルを抱き上げた。
「では、寝室へ向かうとしよう。ああ、心配しなくても良い。今のオレは加減を知っている」
「…………え?」
オレの腕の中で呆然と固まるシェリル。
メルトとラヴィに見送られながら、オレ達二人は寝室へと向かうのだった。




