表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/131

大厄災

 何とも言えない空気が部屋に満ちていた。

 オレはその空気を変える為にも、別の質問を投げ掛けて見た。


「そういえば先程、大厄災という言葉が出ましたね。それは何なのでしょうか?」


 キョトンとした表情でオレを見つめるマーサさん。

 しかし、すぐに合点がいった様子で頷いた。


「ああ、そういえばユウスケさんは異世界の人間でしたね。ならば、知らなくても仕方が無いでしょう」


 どうやら、オレの転生については理解している様子だ。

 その辺りは、シェリルの手紙にでも書いてあったのだろう。


 しかし、マーサさんは難しい表情を浮かべ、オレへと答えた。


「竜人族でも手に負えなかった大事件。世界が大きく変わる事となった、時代の節目と伝わっています。……ただ、詳しい記録は残っていません」


「ふむ、そうなのですか……」


 歴史を繋いで来た竜人族でもそうなのだ。

 それでは、その過去を辿る事は困難なのだろうな。


 そう思った所に、シェリルが不思議そうに尋ねて来た。


「二度の大厄災ですよね? 巨神兵の暴走と、大洪水の事では無いのですか?」


「へ……?」


 シェリルの問い掛けに、マーサさんが間の抜けた声を出す。

 しかし、すぐに咳ばらいを行い、シェリルへと問い返す。


「シェリルさんは何かを知っているのですか? 竜人族が調べた限り、大厄災の記録は世に残っていないはずですが?」


 警戒や威圧を行っている訳では無いのだろう。

 しかし、マーサさんは凄まじい圧をシェリルに掛ける。


 その事に戸惑いながらも、シェリルは困った様子で返答する。


「機械の神が世界を滅ぼす話と、神が大陸を沈めようとした話ですよ? 童話にもあると思うのですが……」


「童話って……。それは、ただの作り話でしょうに……」


 シェリルの返事に、ガッカリした様子のマーサさん。

 どうやら彼女も、大厄災の正体に興味があったみたいだ。


 しかし、マーサさんの態度に、シェリルが心外そうな顔となる。

 そして、困った表情でマーサさんへと告げる。


「作り話では御座いません。詳しい年月日も記録されています。あの童話は、過去の史実を元にしているのです」


「な、何ですって……?」


 今度はマーサさんが、大きく目を見開いて驚きを示す。

 そして、シェリルの肩を掴んで、激しく揺さぶって尋ねる。


「大厄災の混乱で、過去の記録は消失したはず! どこに、そんな記録が残っているって言うの!」


「ちょ、ちょっと、落ち着いて下さいっ! 話しますから、私の事を揺さぶらないで下さい……!」


 シェリルの叫びに、マーサさんがハッとなる。

 自らの興奮した姿に気付き、恥ずかしそうに肩から手を離した。


 そして、落ち着いた様子を確認し、シェリルが衝撃の事実を口にした。


「実家の本棚に並んでましたよ。二度の大厄災も、それ以前の記録についても」


「実家の、本棚って……」


 ポカンと口を開くマーサさん。

 余りの驚きに、次の言葉が出てこない様子だった。


 なので、オレが代わりにシェリルへと問う。


「そもそも、シェリルの実家は何なのだ? どうして、その様な記録が残されている?」


「言ってませんでしたっけ? 私の実家は、代々続く占い師の家系です。記録とは、星読みの観測結果ですね」


 そういえば、両親が占星術師と道中に聞いたな。

 しかし、それ以上の事は聞いた記憶が無いのだが……。


 その事実にオレが唸っていると、シェリルは面白そうにクスクスと笑う。


「まあ、流行らない占い屋ですよ。本業では稼げないので、普段はキノコ栽培で稼いでいますし」


「キ、キノコ栽培……?」


 再びの衝撃がオレを襲う。

 シェリルが占い師の家系で、実家はキノコ栽培を本業にしている?


 ……まったく、状況が理解出来ない。

 シェリルはどの様な環境で、生まれ育ったのだろうか?


 オレが呆然としていると、シェリルは更に言葉を続ける。


「マジック・マッシュルームが、裏ルートで高く捌けるそうです。お陰でウチは、食うに困った事はありませんでしたね。――あっ! 裏ルートの件は、ここだけの話として頂ければ……」


「うむ、オレは何も聞かなかった事にしよう……」


 オレの返事に、シェリルは嬉しそうな笑みを浮かべる。

 その笑顔を見れば、些細な事はどうでも良く思えて来る。


 まあ、灯台下暗しと言う事なのだろうな。

 竜人族の事と言い、シェリルの実家の事と言い……。


 オレは自分の至らなさを思い知り、内心で大きくため息を吐くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ