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竜人の里

 ドタバタもあったが、オレ達は目的地へと到着した。

 山脈の頂上付近にある、竜人の里へと辿り着いたのだ。


 道中は非常に厳しかったが、里の風景は平和そのもの。

 村を囲う壁や柵も無く、のんびりとした光景が広がっていた。


 イメージとしてはチベットやアンデス山脈が近いだろう。

 周辺には毛の長い、牛か馬に似た生物が放牧されてもいた。


 そして、暮らす人達も穏やかな表情でこちらを見つめている。

 多少の驚きはあっても、警戒した様子は殆ど見られない。


 シェリルは物怖じせずに、近くの人へと話し掛けていた。


「私は魔王軍のシェリルと申します。里長へ取り次いで頂けますか?」


「ああ、貴女がシェリル様ですか。私が里長の家まで案内致しますよ」


 対応するのは、黒目黒髪の中年男性である。

 彼は温かそうな布を羽織った、人の好さそうな人物であった。


 しかし、その頭には黒い角が生えている。

 背中には羽も生え、トカゲの様な黒い尻尾も見える。


 その特徴は、メルトと同一の物であった。

 すれ違う人々も全て同じで、ここが竜人の里だと強い実感を覚える。


 何となく満足感を感じていると、案内の男性が話し掛けて来た。


「その人形は、もしかしてメルトちゃんかな?」


「ほう、わかるのですか?」


 オレのすぐ隣を歩くミニメルト人形。

 膝丈程のサイズしかない、銀メルトをオレ達は見つめる。


 それに気付いた銀メルトは、男性へ手を振り挨拶をする。

 それに手を振り返しながら、男性はからからと笑う。


「この里の大人なら、皆わかるだろうさ。メルトちゃんは、オレ達の家族だからな」


「そうなのですね。里の皆が家族みたいな関係だと……」


 言われて気付くが、里中の視線が銀メルトに集まっている。

 皆が温かな視線を向け、銀メルトへ手を振っているのだ。


 この里はそれ程大きなものではない。

 それこそ、百人にも満たない人数しか生活していないだろう。


 そう考えれば、共同生活を行う皆が家族の様な物となる。

 そういう関係性が、何となくだが理解出来る気がした。


「いやあ、メルトちゃんの幼い頃を思い出すね。この位から里中を駆け回ってたよ」


「この位って……」


 銀メルトの大きさは、オレの膝丈程のサイズである。

 その大きさの頃となると、まだ赤ん坊ではないだろうか?


 オレの脳内では、赤ん坊メルトがハイハイで爆走していた。

 余りにも非現実的な光景に、オレはゆっくりと首を振った。


 まあ、この男性が大げさに話を膨らませただけだろう。

 田舎の方の中高年の方々は、割と適当な事を言う事が多いしな。


「里長は随分と手を焼いてたね。それでも、娘を溺愛してたんだけどさ」


「メルトの事を、溺愛してたのですか……」


 メルトが父親に愛されていたのは喜ばしい事だ。

 妻と両親が不仲など、親戚関係で胃に穴が開きそうだからな。


 しかし、それをこのタイミングで聞きたくも無かった。

 オレが義父に殴られるビジョンが、より強くなっただけである……。


 そんな他愛無い話をしていると、男性は足を止めて指を指した。


「ほら、あれが里親の家だよ。今の時間は丁度良い頃だと思うよ」


 示された先は、レンガ作りの簡素な家だった。

 屋敷等では無いが、一家が住むには十分な広さだろう。


 オレは震えそうな体に喝を入れる。

 そして、ご両親のご在宅であろう家へと足を踏み出した。



 ――っと、家から高速で何かが飛び出して来た。



「き、貴様がメルトを傷物にした男かぁぁぁっ……!!!」


 レスラーの様な巨体の男が空を飛んでいた。

 拳を振り上げ、こちらに向かって強襲を仕掛けて来たのだ。


 悪鬼の如き表情に、流石のオレも恐れ戦く。

 殺気の籠ったその視線に、オレは咄嗟に動く事が出来なかった。


「死んで、詫びろぉぉぉ……!!!」



 ――ごごおぉぉぉん……!!!


 

「なっ……?!」


 爆音を響かせ大地が爆ぜる。

 オレの足元で、激しく粉塵が渦巻いていた。


 それは、男性の拳によって引き起こされた現象ではない。

 強襲して来た男が、何者かに叩き落されたのだ。


 大地に半ば陥没し、白目を剥いて倒れる男性。

 その背中に、一人の人物が軽やかに着地した。


「――貴方が、ユウスケさんですね? シェリルさんの手紙で、事情は伺っております」


 その人物は、三十台後半の女性であった。

 ロングの黒髪をなびかせた、メルトに似た面影を持つ人物……。


 彼女はニコリと微笑みながら、オレへと名乗る。


「私が母親のマーサ=ドラグニルです。気軽にお義母さんと呼んで下さいね?」


 歳を重ねて物腰が柔らかになれば、メルトもこうなるのだろうか?

 大人の色気を醸し出す、可憐な女性がオレを優しく見つめていた。


 ……しかし、夫を沈めて足場にし、粉塵の中で微笑む胆力。

 ある意味でメルト以上の女傑ではと、オレは内心で戦慄していた。

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