メルトの約束
夜も更け、今のオレは夫婦の寝室、ベッドの上で寛いでいる。
メルトは風呂に入ると、今は部屋から出て行ってしまった。
「そういえば、これの効果を確認していなかったな」
オレは自らの右手を見つめる。
そこにはピンクの宝石が付いた、虹のリングが存在する。
オレはウインドウを表示し、自らのステータスを確認する。
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<ステータス>
名前:ナカノ ユウスケ
職業:勇者&大魔王 Lv99
最大HP:9999 最大MP:9999
攻撃力:999 守備力:999 力:999
体力:999 魔力:999 魔法抵抗力:999
素早さ:999 器用さ:999 幸運:999
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「ん? 職業が変わっているな……」
以前は勇者だけだったが、大魔王もセットになっている。
これによって、何が変わっているのだろうか?
オレはその他のステータスを確認し、すぐその意味を理解した。
「魔法とスキルが増えているのか……」
魔法にある『地震』はわかりやすい。
その名の通り、地震を起こす魔法なのだろう。
だが、カラミティエンド? カイザーフェニックス?
名前からは、どんなスキルかわからない物もある。
……おっと、メルトの使っていた『ギガ・フレア』もあるな。
「何をしている、ユウスケ? 例のウインドウ操作か?」
気が付くと、部屋にメルトが入って来る所だった。
オレの行動に、彼女も関心があるのだろう。
なお、ウインドウの存在はメルトとシェリルに伝えている。
ただし、その表示はオレにしか見えないみたいだが。
それと、メルトにはオレをユウスケと呼ぶ様に伝えてある。
「ああ、これの効果を確認していた所だ」
「その指輪は、女神マサーコ様の……?」
メルトはオレの隣に腰を下ろした。
そして、強い視線を指輪に向けている。
女神マサーコ様の贈り物だからな。
メルトが興味を持つのも当然だろう。
「これはメルトとの生活に必要だろうと下さった物。オレの力を一割――Lv99に抑える為の物だ」
「ちょっと待て。言ってる意味がわからない……」
メルトがこめかみを指で押さえていた。
オレの説明は、わかりづらかっただろうか?
「それはまさか、ユウスケが元々はLv999と言っているのか?」
「その通りだ。この指輪が無い状態では、オレはLv999となる」
メルトが頭を抱えてしまった。
何がそれ程に問題だと言うのだろうか?
しかし、すぐに全てを諦めた様に、乾いた笑みを浮かべる。
「……まあ良い。深く考えるのは止める。これはプラス要素と考えおこう」
「ああ、それが良いだろう。これも全て女神マサーコ様のお導きだからな」
メルトはふうっと息を吐く。
そして、オレに向けて、真剣な眼差しを向ける。
「それよりも、聞かせてくれ。ユウスケは、この先どうする気なのだ?」
「……どうする気とは、どういう意味だ?」
メルトは何が聞きたいんだ?
オレが大魔王となり、この地を治める事は決まったはずだが……。
「今日の計画は私達がやりたい事。だが、ユウスケがやりたい事は何だ?」
「オレがやりたい事……?」
改めて問われ、オレは瞬時に答えが浮かばなかった。
女神マサーコ様の依頼で、戦争を終わらせる目的はある。
しかし、今はそれを保留し、メルトとの結婚を望んでいる。
女神マサーコ様もオレに幸せになるよう望んでくれた。
そして、その望みも殆どが叶いそうな状況にある。
――いや、オレの幸せに必要な望みがまだある。
「オレの望みは、メルトを幸せにする事だ。どうすれば、メルトは幸せになる?」
「わ、私の幸せだと……?」
オレの質問に、メルトが動揺していた。
疑わしそうな視線で、オレへと質問を返す。
「何故それが、ユウスケの望みとなるのだ?」
「オレの隣で笑っていて欲しいからだ。オレの幸せの為、メルトも幸せになってくれ」
オレの返事に、メルトがポカンと口を開く。
しばらく固まって、動かなくなってしまった。
……オレはそんなに、おかしな事を言っただろうか?
しかし、オレが首を捻ると、メルトに唐突な変化が訪れた。
「……ふ、ふはははっ! ユウスケの為に、私に幸せになれと言うのか!」
「そうだが……。それは、おかしな事だろうか?」
何を笑われているのか、オレには理解出来ない。
ただ、メルトの楽しそうな笑みは、見ていて嬉しいものだ。
メルトは見惚れるオレに向かい、挑発的な視線を送って来た。
「私の望みは、全ての魔族の幸せだ。ユウスケはそれを叶えてくれるのか?」
「メルトが望むなら叶えよう。それで、メルトが幸せになるのならな」
オレの返事に、メルトは心の底から笑みを浮かべた。
これまでに見た、どんな表情よりも輝かしい笑顔を。
「ならば約束しよう! 私の望みが叶ったなら、私は生涯ユウスケの隣で笑うと!」
「メルト……」
少女の様に無邪気な笑顔。
それでいて、強い意志を秘めた鋭い眼差し。
――ムラっと来たオレは、メルトを押し倒した。
「だあっ……! お前と言う奴は、この流れでどうして……?!」
「すまん。もう我慢出来そうにない」
オレの気持ちはもう止まらない。
誰にだって止める事なんて出来るはずがない。
そんな気持ちを察してくれたのだろうか。
メルトは苦笑を浮かべて、オレへと告げる。
「まったく……。お前は私なんかより、よほど魔王らしいよ……」
その言葉は少し釈然としないが、一旦は保留する事にした。
今はそれよりも目の前のメルトだ。
オレはそれから、メルトと夫婦の営みを開始する。
そして、それからすぐに、女神マサーコ様の偉大さを理解する事となる……。
第一章が終了となります。
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