4話 侵攻、そして出陣
ある朝、俺達はスパルタクスに集められた。
広場には数千の兵士がいた。こんなに多かったのか。そういえば反逆軍に入ってから家と訓練場しか行ったないけどこの集落はどれくらい広いのかなぁ?
「拡声魔法。」
どこからか声がした。
「みんな!よく聞け!帝国が本格的にロムルス国に侵攻を始めた。奴らは村々を制圧しながら首都ローマに向かっている。しかし!兵士たちは村の防衛をしていない。奴らは村が数百くらい潰れてもいいと考えている。」
(なんだと。そんなことが許されるのか。王は国民を守ってこそなのに。そんなの許せない。たとえ奴隷だろうと、命はあるのに、、それを見殺しにするなんて。やっぱり反逆軍に入ってよかった。)
「そこで!我ら反逆軍は村の防衛を行う!」
兵士たちから歓声が上がった。
「我ら本隊は侵攻軍の頭を潰す。その間、アルスター隊はアルスター地方、フィアンナ隊はフィアンナ地方、第四軍はその他の村を守れ!準備ができ次第、出発だ。以上、解散!」
フィアンナ隊が出発したのは昼過ぎだった。反逆軍は資源が少ないので、馬は使えない。この集落からフィアンナ地方まで二日はかかる。その間、俺たちは歩き続ける。
季節は春。幸いなことに暑さ寒さは感じない。
「桜が綺麗だね。デムナ。」
ユウキが言った。
「そうだね。いつもは集落にいるからあまり自然のものを見る機会は無いからね。」
「ところでデムナはなんで反乱軍にはいったんです?」
「…」
「デムナ?」
「うん?ごめん聞いてなかった。」
「デムナお兄さんはいっつもボーっとしてるね。」
「あはは。」
実を言うと嘘だ。ぶっちゃけディアミットの事が嫌いで嫌いでたまら無いのだ。無視は良くない。でも、してしまうんだ。
「で、結局なんで反乱軍に?」
「実は、俺は農奴隷だった。ある日、帝国兵に襲われたところをスパルタクスさんに助けられたんだ。そのあと、この国の現状を知って入ったんだ。農奴隷はまだいい。自分達がいかに不幸か知らずに暮らせる。でも、剣闘士はそうはいかない。互いに傷つけあって、死ぬまで苦しい思いをさせられる。それも貴族の見せ物として。もちろん、農奴隷はいいって言うわけでもないけど。」
「そうだよね。やっぱりそれは許せない。僕は記憶がなかったんだ。そこを反逆軍にひろれた。」
記憶がなかった?ユウキはやっぱり転生者で、転生する時に記憶がなくなったのか?それとも転生のことを隠しているのか?
「ですが、やっぱりこのロムルス国は間違っています。奴隷にされている人達のためにも、村を守らなければ。」
「そうだね。」
「賛成!」
「…」
今夜は草原で休息をとる。この旅もあと少しだ。明日の昼にはフィアンナ地方につく。スパルタクスさんいわく、僕がいた村は家が一棟半壊、農奴隷が三人犠牲になったそうだ。
今度こそは逃げずにみんなをまもってみせる!
夜も更けてみんなは既に寝静まった。そこに、草を踏み分ける音がしたのだろう。デムナは振り向いた。
「デムナ。まだ起きていたの?」
「あぁ。ちょっと寝付けなくって。ユウキは?」
「僕もそんなところかな。」
そう言って隣に腰掛けた。
しばし流れた沈黙を破ったのは僕だった。
「少しいいかな。」
「うん?」
「ディアミットのことで。」
デムナの体が少しこわばった。
「君はディアミットが嫌い?いつも避けているように見える。」
図星だ、そんな顔をした。
「ディアミットと何があったの?」
「…」
心地悪い沈黙が流れる。
「僕から見ると君が一方的に嫌っているように見える」
デムナは口を開いた。
「そうだ。私は奴が憎い。」
(私?一人称が変わった。いや、それだけでなく雰囲気も少し変わったような気がする。)
「なんで?」
「君にそれを言う義理はないな。私はもう寝る。明日は早いのだろう。」
そう言ってデムナは立ち上がって暗闇へと消えていった。
(いったい彼は何者だ?僕のように転生者なのか?待てよ、デムナといえば…そうか、ディアミットを毛嫌いすることも辻褄が合う。そういうことだったのか。)
でも、今話したのはデムナではない別人のようだった。