18話 ドラゴン討伐
「防御魔法!」
兵士達も防御魔法を展開する。
一瞬で目の前が真っ暗に染まる。障壁が砕ける音がした。
ドラゴンがは包囲網の中心に落ちる。地面が割れる。衝撃波が発生し、多くの兵士が吹き飛ばされる。二人も踏ん張って耐えるのに必死だ。遅れて轟音が襲い掛かる。そして最後に大地のかけらが降り注ぐ。
方々で上がる悲鳴。何もできずにつぶれる者、剣や魔法で切り裂く者。スパルタクスとアーラシュは後者であった。
その中で一人、果敢にドラゴンの方へ走りゆく者がいた。ローブの女である。
「奴が地上にいる間に攻撃する!」
他の者は唖然としていた。それはスパルタクスたちも例外でない。
彼女が矢をつがえる。そこに風の魔力をふきこむ。ものすごい威圧感、膨大な魔力を帯びた矢は白く輝いていた。
爆風とともに矢が放たれる。すさまじい速度でドラゴンの右翼めがけて突き進む。
ドラゴンの悲鳴が轟く。奴の翼には風魔法でつけられた掠り傷が多く見受けられる。そして翼の付け根には矢で空いた大穴があった。
この状況でもまだ彼女は走り続ける。
「彼女に続くっすよ!スパルさん。」
そう言い捨ててアーラシュは駆けだす。一拍遅れてスパルタクスも続く。
「拡声魔法」
『今だ、総攻撃!』
先ほどの惨劇を生き残った数十人が駆けだす。はじめは500人ほどいた本隊ももう少人数になっていたのだ。
アーラシュが立ち止まる。そして一本の矢をつがえた。
「俺の放つ矢はどこまでも突き進む。しかし、代償はつきものだ。俺の体は砕け散る。しかし、幸いなことに貫くはドラゴンの翼。威力を落としても問題はない。」
矢がまばゆい光を放つ。
「スパルさん、しばらく動けなくなるんでよろしくっす。」
「お前、何する気だ?」
光が彼の体を包む。
彼の体中の筋肉が膨張する。筋繊維がちぎれる音。彼の目が赤く光る。その魔眼は狙いを定める。右手を矢から離す。
矢は一筋の光となりドラゴンの左翼を貫いた。もう奴の翼は跡形もない。
ドラゴンが空に吼える。そしてあまりの痛みに寝っ転がりのたうち回る。
「成功…だ…」
全身の筋肉が悲鳴を上げる。血まみれの体は地に伏す。
「アーラシュ、ありがとう。絶対にあいつを仕留めて見せる!」
「スパルタクス、奴が立て直す前に仕留めるぞ。」
ローブの女が言った。
「ああ。」
「ッフ、あいつがアーラシュか。」
「なんか言ったか?」
「いや、何でもない。」
ドラゴンを兵士が取り囲む。各々の武器で傷をつける。
スパルタクスら二人はドラゴンの真正面にいた。そして目をのぞき込む。
ザクッ
ドラゴンの両目から血が噴き出す。
「これで視力を奪った。私はここらで失礼する。」
風が吹き抜ける。振り返るがそこに彼女の姿は見えない。ただ足跡が点々と続いていた。目を凝らしてみると走るローブ姿の人一人が見えた。
(彼女は 何だったんだ?)
「まあいい。これで終わりだ。」
回り込で首に渾身の一撃を叩き込む。鈍い音とともにドラゴンの首がたたき切られる。
兵士の歓声。
「彼女も反逆軍に勧誘すればよかったな。」
連絡係の兵士が駆け寄る。
「伝令です。ただいま4軍、サイフォー副隊長より連絡がありました!」
反逆軍では魔法による連絡方法を採用している。
「どうした?」
「はい。それが…」
「なんだ、早く言え。」
「4軍は白の魔女と名乗る魔法使いにより副隊長以下は全滅。謎のローブを纏った二人と共闘し、全員気絶、起きた時には誰もいなかったそうです。」
「何!副隊長以下全滅だと?まあ、うちも同じようなものか。」
「あと、3軍より伝達が。」
「猪の件か。」
「はい。猪型魔獣は討伐成功。ディアミット副隊長が死亡、そしてアルゴナウタイ船医アスクレピオスと名乗る人物が蘇生、その後二つに分かれて一方は2軍の援護にまわりました。そして現在ドラゴンとフィービーと名乗る二人組と交戦中です。」
「そうか、あいつら、アルスターに行ったのか。」
「あと、補足で本隊一般兵シモン・イキリーンもアルスター地方にて確認されています。」
「もう下がれ。あと医療士を呼んで来い。アーラシュ副隊長の手当てだ。」
「了解!」