12話 猪の群れ
「はー、はー」
スパルタクスの息は猪との連戦によって上がっていた。
「こいつら、何匹いるんだ?もう千は倒したぞ。」
「スパルさん、大丈夫っすか?弓で援護しますよ?」
その隣の男は弓を構える。断られることは目に見えていたがそれはどうでもよかった。答えに関係なくそうするつもりだからだ。
「いや、いい。それよりも、打開策はないのか?」
男は矢を放ちながら答える。
「そうっすね、俺の予知によるとテイマーを潰せばいいらしいっすね。」
「テイマー?」
「ご察しのとおり帝国軍の者ですよ。まあ、どっちにしろ今は無理っす。それより、雷に注意してください。それに当たりさえしなけりゃ本隊は安全です」
男はあえて「は」の部分を強調する。
「本隊以外はどうなんだ?」
「それは、」
ドッカーン!
答えを遮り雷が鳴る。
「うわー!」
「あ、兵士たちのこと忘れてたっす。魔法が使えるものは直ちに魔法障壁をはれ!」
彼らは雷の威力に唖然とする間もなく命令を下す。
「雷のことは僕がおさえましょうか?」
突然兵が話しかけてきた。
「君は?」
「シモン・イリキーンと申します」
ブヒイ
猪がシモン襲い掛かる。シモンは横に一歩動き剣を抜いた。しかもごく自然にだ。
ボトン
音がして猪の首が落ちる。
「へぇー君面白い。やってみてよ。いいっすよね、スパルさん」
返事をする前にシモンが手を空にかざした。その手で空気中の魔力を集め始めた。どうやら彼らはスパルタクスの意見を尊重する気はないのだろう。
「知っていますか?魔力というのは属性に関係なくひかれ合うんです。」
「それがどうした?」
「では、空気中の魔力をすべて集めたらどうなるでしょう?」
「そりゃあどんどん魔力が集まってくるっしょ。ね?」
「ああ」
「では、その付近に魔法を放ったら?」
「魔法が引き寄せられるね。でも君、この雷でやる気じゃないよね?そんなことしたら君の身が持たない。というか制御できずにお陀仏だ。」
ピカッ
「魔力の流れを手のひらで球状に作ります。そこに落ちてきた雷の方向性をそれによって変えると、このように電気の球ができます。」
「っつ!君、何者?筋力も魔力も職業もないのにそんな技を!」
男は人生で初めて自分の目を疑った。彼の千里眼は彼に才能がないことを示した。しかし、目の前の一般兵は職業があったとしても不可能なことをしている。
「魔力操作をすれば理論的には可能です。自分はなんの消費をしないので効率的ですし。」
それは机上の空論だとスパルタクスは心の中で思った。
「あれ?なんて言うんだっけ?まあいいや。螺旋玉!」
ドッカーン!
一気に数十体の魔獣が消し飛んだ。
「螺旋玉はダサいなあ。じゃあ英語に変換しよう。」
シモンはうろ覚えの技の名前を勝手に改名した。」
ドッカーン!
「避雷針!からのスパイラル・ボール!」
「あっれれー?爺の雷が利用されてる。私の魔獣ちゃんがやられちゃうじゃん」
「落ち着きなよ。あいつをやればいいだけじゃん。さっさと行こうぜ。あいつの心が絶望で染まるのが楽しみだなー」
「アンタ、趣味悪いわよ。」
「ヒッドー。俺の趣味に口出しすんなよ。」
「ごめんて。それよりもゲートだすよ。」
「了解」
突如空間にゲートが開かれる。その瞬間、風を切る音が聞こえた。
「グ八ッ」
肩には矢が刺さっている。その近くの髪は白から赤に染まった。真っ赤な血の色に。
「アッツー!」
あまりの痛さに傷口が熱く感じる。