1話 転生、そして襲撃
夜中、物音がして目が覚めた。普段は静寂に包まれている集落が騒々しい。
毛布を剥ぎ、起き上がる。家の扉を少し開け、その隙間から外をうかがう。十数人の兵士がいた。鉄の鎧を纏い、馬に跨っている。そして、剣や槍を持っている。
他の家に目をやると、ほかの住民も何事かと思い、家から顔をのぞかせているのがわかる。
突然、ひとりの兵士が向かいの家の前に立った。ドアを無理やり開き、腰から下げていた剣を一振りした。兵士に赤い液体が降りかかり、家からは言葉にならない呻き声、いや、叫び声が上がった。
心臓が早鐘を打つ。兵士の背中越しに家をのぞき込むと、男が目を見開いたまま倒れている。
(死んでる!)
悲鳴を上げそうになったが、寸前のところでこらえる。
向かいの家は燃え上がっている。他の兵士が松明を投げたのだ。鈍い音がした。家の壁に何かが当たったのだ。
(まさか!)
板一枚でできている壁は一瞬で燃え上がった。
「炎魔法」
外からそういう声が聞こえた。
(魔法?)
火の勢いが一気に増す。とっさに裏口へ向かう。火は一気に天井に広がってゆく。裏口の扉を突き破って外に出る。大きな音がした。振り返ると家が半壊していた。しかし、今はそんなことに構っていられない。一刻も早く遠くへ逃げるのだ。
「うわああー」
野太い男の悲鳴がした。そちらを向くと、そこには男の死体があった。兵士にやられたのだ。あたりを見回すとあちらこちらで火が上がっている。時すでに遅しとはこのことである。そして、死体の横には俺と同じくらいの年齢の女子が倒れていた。
兵がニヤリと笑い、剣を振りかぶった。気づくと俺の体は走り出していた。体が勝手に動いたのだ。兵が少女に剣を振り下ろした。
(間に合え!)
剣が血に濡れる寸前、俺が兵に体当たりしたことにより、兵はバランスを崩して倒れた。しかし、兵士はすぐに起き上がった。
「このガキ!」
そう叫びながら兵士が襲い掛かってきた。
その時、俺は死を感じた。鼓動が速くなる。手足が震えてきた。しかし、逃げるわけにもいかない。
相手が剣を振りかぶる。その場にうずくまった。
グシャリと音がした。
しかし、どこも痛くない。恐る恐る顔を上げると、兵は燃えた木の下敷きになっていた。おそらく燃えた家が崩れたのだろう。
(助かったのか?)
(力が抜ける!?)
地面に仰向けに倒れる。意識も朦朧としてきた。俺の上に瓦礫が落ちてくる。やけにスローモーションに見える。
(せっかく転生したのになぁ)
俺は目を閉じた。
すでに村が燃えていた。
(クソ!手遅れか。今回の進行でかなりの村がやられた)
すると、村の方から金髪の少年が走ってきた。どうやら兵に追われているようだ。もう既に傷を負っている。
(完全に手遅れではないようだ)
突如ら少年は立ち止まり、兵の方を向いた。
(諦めたのか?)
兵が剣を振りかざす。
(間に合わない!)
次の瞬間、驚くべきことが起きた。少年が剣をひらりと避け、兵の急所に殴りを入れたのだ。
(動きに無駄がない)
こんな芸当は職業を持っていても一朝一夕でできるものではない。
「君、何者だ?」
少年は指を咥えて考え込んでいる。少年は顔をあげ、俺の名前を呼んだ。
「おい、スパルタクスだろ」
「今、俺の名前を、、」
「私は傷を負っている。もう限界だ。後は任せた。」
俺の言葉を遮り、そう言い放つと少年は倒れた。
「大丈夫か?」
とっさに駆け寄る。どうやら気絶したようだ。この少年は何者だ?まあいい。難しいことを考えるのは後だ。
村に入ると兵たちが食糧を運んでいた。
「なんだお前?」
一人がこちらに気づいたようだ。
「死ね!」
兵士が剣で切り掛かってくる。
(こいつらは訓練を受けたのか?)
あまりにも動きが単調すぎて驚いた。
振り下ろされた剣を避け、すれ違いざまに叩き切る。これを繰り返しているといつのまにか兵はいなくなっていた。
「だれか!生きているやつはいるか?」
「うぅ」
瓦礫の下から弱々しいうめき声が聞こえた。
瓦礫を投げ飛ばし、少女を救出した。ひどい状態だ。全身に火傷を負っている。
(さて、もう生存者はいないか。集落に帰るとしよう。)
目を開けると、そこは馬車?の中だった。
「よう、目は覚めたか?」
隣にいた男がそういった。男は、20代前半くらいで赤髪。腰に剣を下げている。ローマの剣闘士のような格好である。とりあえず今の状況を把握しよう。
いや、その必要らない。こいつが誰なのかを理解した。というより知っている。
(どこかであったかな?)
彼は、反逆者であり、反逆軍の頭だ。反逆軍とは、この単調な世界、いや、国を覆し、革命を起こそうとしている。そして、こいつはみんなからスパルタクスと呼ばれている。
「おーい聞いてるか?」
「ここはどこですか?俺の村は襲われた筈ですが?」
まずは状況確認だ。
「あぁ。夏帝国の進行でフィアンナ地方の村が多く襲われた。そのうちの一つがお前の村だ。。」
「カテイコク?」
「あぁ、知らないのか。ようするに隣の国だ。」
「なるほど、概ね理解しました」
「そうか」
「はい。」
(ようは隣の国が戦争を仕掛けてきたのだろう。)
「ここからが本題だ。」
彼の雰囲気が変わった。
彼が剣を抜き、首に突きつける。
「君は何者だ?なぜ俺の名を知っている?」
(なぜそれを知っているんだ?心でも読んだのか?)
「なぜそれを?」
「しらばっくれるな!昨晩君が俺の名前を呼んだ。そうだろう?」
「どういうことです?僕はあなたとあったのは今日が始めてですよ。」
「そうか。しらを切る気ならそれでいい。もうこの話はしない。どうせ奴に聞けばわかる。」
彼は剣を収めた。
(奴?あれ?身動きが取れない。)
今気づいたが俺は縄で馬車に縛り付けられていた。
(ナニコレ)
「ところで君の名前は?」
(そういえば名前がないんだったなぁ。とりあえず前世の名前を使おう。)
しかし、俺の口からは縁もゆかりもない名前が飛び出た。
「デムナです」
初投稿です。色々未熟ですが頑張っていきます