宇宙を漂う巨大クジラ
戦闘シーンです。
ティアリスは気づいていた。未知の怪物が狙っているのは自分だということを。
彼女はその大きな蒼氷の瞳で相手を見据えている。括っていた髪は解け、青い光に金色の髪が輝く姿は気丈で美しく、目の前の怪物さえも怯ませていた。
それは近寄らないでという懇願では無く、近寄るなという命の尊厳。
彼女の強い意志を見てライセの中に戦う意志がふつふつと湧き上がる。頭に過ぎった命の選択、日本刀が席の背もたれに固定してある。走り寄って刀を取って刀身を抜いた。そして躊躇うことなく怪物の背に刃先を振り下ろした。
厚く覆われた怪物の背からは赤い血飛沫が吹き上がる。返り血を浴びたライセに2体は無言で振り返り、白く光る瞳がこちらを睨んでいる。
睨まれ対峙した恐怖感。恐怖で震える足が無意識に後退る。暗青の生温い沈黙がライセに恐怖を煽る。獣に襲われ闇に飲み込まれるかのように。
「うああああああーーっ! 」
ライセの叫びが暗い操縦室に響き渡る。
体の芯から熱くなり身の毛が逆立ち全身の細胞が研ぎ澄まされる。刀の持ち方なんてわからない。相手を睨みつけ刀身を立てて威嚇し戦う意志を見せつける。浴びた返り血と鼻につく血の匂い、自らを顧みて奮い立たせる。気持ち良く死にたくなんてない! 気持ち悪く生きてやる!
背中を斬られた怪物がライセに襲いかかる。
白い目に向かって一心に刀を振り下ろすと眉間を斬られた怪物は仰け反り、顔から血が流れ落ちる。怪物は立ち止まり、顔の傷を指でなぞると愉悦の表情を浮かべている。
女の怪物が躙り寄るとライセは我武者羅に刀を振り回す。怪物は振り払う刃先を手で受け止めて握り締め、掴む力でライセの体を引き寄せる。
片手で刃先を掴み、もう一方の手はライセの体を掴もうと、逃げ回るライセをじわじわと壁に追い詰めていく。
刀が掴む手から離れない。
焦っていた時、暗い操縦室の機窓が金色に輝き出した。目が眩む金の輝きは一瞬で迫ってくると衝撃音と共に船体が大きく揺れ出した。
機窓の暗い宇宙から銀の巨大宇宙船が近づいてくる。銀の船体はその外郭を金色に輝かせると船首に光が集まり、こちらに向かって撃ち込んでくる。
ジェネシス号の側面を突き刺した巨大物体は金に輝く電磁波が浴びせられ激しく揺れていた。
光に気づいた2体の怪物は一瞬で姿を消して操縦室からいなくなる。まるで透明の水に墨汁を溶かしたように粒子状に散らした体を収縮して消えていった。
「はぁ……はぁ……」
ライセの鼓膜に荒い息の音が響いている。
意識が朦朧としながら暗い周囲を見回すと、ティアリスは倒れて動けないギアをかばっている。部屋の隅で震えるエレミアは頭を両手で抱えて座り込んだまま、ソレイユはその肩に手を差し伸べている。
呆然と立ち竦むクライスは壁に飛び散った惨劇を見たまま震えて呟いた。
「も、もうだめだ……。僕達は地球に帰れない。もうここで死ぬんだ……」
巨大宇宙船は容赦なく電磁波を撃ち続けている。
ジェネシス号を先端で捉えた巨大物体は背後に黒い渦を作ると電磁波を避けるように闇の渦に飲み込まれてく。捉えたジェネシス号を自らの巣穴に持ち帰るように闇の中に引き摺り込もうとしていた。
それぞれがその様子を呆然と眺めるしかなかった。
見ていたギアは頬に深く傷を負い、痛めた体で立ち上がると声を張り上げた。
「あきらめんなっ! 」
「俺達はまだ生きてるだろうがっ! 」
その声に我に返ったソレイユが指示を出す。
「ティア! クライスとエレミアを後部座席に座らせてシートロックを。ギアは自分で座れる? ライセ、私と一緒に操縦席に座って脱出してみましょう! 」
刀を仕舞ったライセはクライスの操縦席に座る。その後ろではティアリスが動けなくなった3人を後部座席に座らせた。
「送電線が破壊されて反物質コアは動かない。非常電源を反重力推進に繋げて残りの電力を最大限に使いましょう。ライセ、非常用通路の隔壁があるはずだから、これ以上船内の空気が漏れないように格納庫を密閉して」
「うん! 」
操縦はやったことないなんて言ってられない。
3人を後部座席に座らせたティアリスもエレミアの操縦席に座って2人で非常用隔壁の封鎖を終わらせた。するとティアリスが異常事態に気がついた。
「右舷前方の巨大船から多数の飛翔体が出現」
観測レーダーを見ているティアリスがモニターに映すと銀色の巨大船体から無数の魚雷が向かってくる。
ジェネシス号を突き刺した巨大物体は闇の渦に消え、その鋭い爪だけを闇がゆっくり飲み込んでいる。
「魚雷が来る! みんな衝撃に備えて! 」
無数の魚雷が巨大な爪の根幹に的確に命中すると、衝撃波がジェネシス号に襲い掛かる。爪は折れてジェネシス号は吹き飛ばされ、激しい重圧が全員に圧し掛かる。ソレイユは繋げた反重力推進でその衝撃を抑えて慣性に逆らった。
「ドンッ! 」
船体の外郭から鈍い音が響くと吹き飛ばされた機窓の景色が静止画のようにピタリと止まった。機窓にはあの銀色の巨大船が目の前に接舷していた。
宇宙を漂う銀鉛輝く巨大クジラが傷ついた小魚を見下ろすように。巨大船の底部が開き、小さなジェネシス号はその胎内へと引き込まれていった。
少し文章の塊になってしまってすいません。戦闘シーンはいつもリアリティのために会話を挿入しないことにしています。会話も入れた方が楽しく読めるのかしれません。
少しグロくなってしまったのはすいません。印象付けのためです。このあとは緩いファンタジーになる予定です。




