揺らめく白焔
最後尾で中枢司令旗艦へと辿り着いたライセとティアリス。小型探査艇を上部艦橋に着地させると2人は転送して中へと潜入する。艦橋の誰もいない狭い通路、気配がする方向へ歩いていくと、2人が見上げた空間に灰色の渦が浮かび上がる。
「……これ以上、先へは進まない方がいい」
姿が見えない聞き覚えた声にライセは呼び掛けた。
「クロノス! 君もここにいるのか? 」
「僕はここにはいない。君達に忠告したいだけだよ」
ライセは渦から聞こえる声を素直に受け入れて、自らを思い巡らし言葉を返してみる。
「……この先へと進まないなら、僕はもう一度宇宙に行こうなんて思わなかった。僕の心は今、恐怖心よりも好奇心に満ちている。無限の可能性を試してみたいんだ」
「……その好奇心が人を進化へと導くのかもしれない。もし先へと進むなら闇を解き放つのは光であることを覚えておくといい」
「ありがとう。クロノス」
灰色の渦が消えて2人が向かった先は宙域が見渡せる操縦室。艦橋からは整然と並ぶ新鋭艦と領域を囲むクリスタルウォールが見えている。旗艦を操作している数体のクリスタルロイドの中央に、全身を白く光らせたクオリアと鋭い骨格を身に纏うガイウスが立っていた。
「待っていたぞ」
「ガイウス……」
2体は振り向くと、クオリアは何も言わず、ガイウスは不敵な笑みを浮かべている。不死の肉体を持つガイウスにライセの脳裏に悪夢が甦る。敵意では無く獲物を脅かす白い眼光。見下すガイウスは待ち侘びたように言葉を続けた。
「今からお前達を人類進化の糧にしてやる。ハイドラント人と一緒にこの艦に展示して新しい人類創成の標本にしてやろう」
ガイウスはライセを見て笑い蔑むと手の上に闇を作り出す。闇の粒子はじわじわと広がり鋭い黒剣を形作っていく。
「……ティア、下がってて」
ライセは踏み出しガイウスと対峙する。それが避けらない必然であるかのように柄を握って刃先を突き出した。周囲に響く超音波刀の高音に耳が障ったガイウスは襲い掛かってくる。
振り翳したガイウスの黒剣をライセは左手の電磁バリアで受け止める。受けた衝撃にバチバチと弾ける電撃が辺りを埋め尽くした。
「ハイドラントの防御システムか」
ガイウスは回り込み、片手で殴るように電磁バリアを黒剣で何度も打ち据えてくる。衝撃にバリアの波動が弱くなる。防ぎ切れないライセはガイウスの隙を狙って刀で斬り掛かった。
斬り進むライセ。後ろに跳び避けたガイウスは手の上に闇の渦を作り出す。じわじわと浮き上がった闇をライセに向けて投げ放つ。咄嗟に避けたライセ、後ろで操縦していたクリスタルロイドに闇が当たると体はメラメラと解けていく。
ガイウスの手の上にまた闇が浮かび上がって放たれる瞬間、ライセは超音波刀に火炎を纏わせ薙ぎ払う。放たれた闇を電磁バリアで受けると膨張する闇はバリアのエネルギーを飲み込んでいく。バリアを閉じて後退るライセにガイウスが斬り掛かる。肩から上をライセの火炎に包まれたまま黒剣を振り上げた。
「灼熱烈火。……これがラムウの科学、脳量子共鳴だな」
黒剣を刀で受けたライセの目前、ガイウスは炎に焼けて再生を繰り返す顔を近づけた。間近に迫る紅焔に包まれた悪魔の形相。慄くライセにガイウスは容赦なく黒剣を振り翳す。刀で受けたライセを体ごと壁に吹き飛ばした。
「ライセ!」
ティアリスの声が周囲に響き渡る。体を硬質ガラスに打ち据えた激しい衝撃にライセはその場に崩れ落ちていく。ガイウスは近づいてライセの胸ぐらを掴んで引き吊りあげた。
「クオリア、見せてやる。こいつが手にしたラムウの科学を! 」
ガイウスはライセを掴み上げてもう片方の手を広げ鋭い爪を伸ばしている。爪で胸を突き破り、ライセの中にある『創成の光』を引き出そうとした時。
───ライセの体が白く光り、輝きを放ち出す。
「慈悲の光……」
ティアリスはライセを守ろうと両手を組んで祈っていた。膨張する光にライセの体を掴むガイウスの指が崩れていく。ガイウスは手を離し、鋭い爪をティアリスに向けて近づいていくとクオリアが制止した。
「この娘は私が預かると言ったはずだ」
「邪魔をするな!クオリア、この娘を生かしておけばラーザゼルの禍因になる!」
立ちはだかるクオリアを払い飛ばし、ガイウスはティアリスに襲い掛かる。体を打ちつけ意識が朦朧とする中、ライセは立ち上がり落ちた刀を拾い上げた。刃先を向けて無我夢中で突き進む。気配に気づいた振り向き様、刃先はガイウスの脇腹を深く突き刺した。
「たいしたものだ。まだそんな力が残っていたのか」
余裕の笑みを浮かべるガイウス。痛みすら快楽にする精神力、生傷を再生する強靭な肉体。決して倒せない相手にライセが力を込めるとティアリスが隣に寄り添った。その手を携えると高らかな共鳴音が鳴り響き、2人が持つ刀は紅く焼けて白く燃え上がる。
手を取り合う刀は紅く光って白く輝く白焔に包まれた。差した傷口から光が零れてガイウスの体は崩壊していく。白の炎に潰える自らの体にガイウスは脇腹に刺さった刀を抜いて狼狽え後退った。
「クオリア、新たな人類を創らねばお前達に未来はないぞ……」
言葉を残したガイウスは量子の闇に身を包み、渦の中に消えていく。揺らめく白焔に魅入られるように、立ち尽くすクオリアはその聖白な輝きに意識を囚われていた。




