クリスタルウォール
宇宙空間に白光を耀わせ行き航るレアール大規模艦隊。その侵攻を妨げるようにハイドラントの白銀の探査船は砲撃を続けている。全長300m級のクジラ型の探査船の外郭が金色に発光すると先端から電磁レーザー砲を放出する。
しかしレアール艦隊の手前に広がるクリスタルの壁がハイドラントの電磁レーザーを跳ね返していた。
「アルティオ、あの壁は一体……」
「レアール艦隊の周囲100km全てにクリスタルウォールが張られています。ハイドラントがレアール艦を沈められないのはあの透明の壁があるためです」
ハニカム構造の高密度クリスタルに電磁レーザーが直撃すると白く光って散っていく。撃ち込まれた電磁魚雷が被弾してもひび割れたクリスタルウォールはすぐに再生していた。
「透明なバリアを張ったまま前進してるのか……」
「はい。壁の破壊も領域内への転送も出来ません。砲撃を止めると侵攻速度が早くなるためこちらは防戦するしかないのです」
侵攻を防ぐハイドラント艦隊、先頭の探査船が一気に電磁魚雷を発射した。するとレアール艦隊200隻全ての新鋭艦が光子レーザーを発射して探査船へと直撃する。
船体の外郭を電磁バリアで覆った探査船は光子レーザーの数の多さに耐えられず宇宙空間で爆散する。一瞬で爆散する巨大船は衝撃波を残して宇宙の塵となっていった。
アルティオの船体にも衝撃波の激震が伝わってくる。6人は唖然としていると味方艦船が消失していく様子をアルティオは目を背けず決意を固めるように見つめていた。
「あの新鋭艦の光子レーザーがこちらに届く際にクリスタルウォールも一瞬破壊されて再生します。その再生する隙を狙って小型探査艇で敵の艦隊の中に入り込みます」
「あの壁の中に入れば敵艦の集中砲火を浴びるな……」
「エポナもそうやって敵艦隊に向かって行ったのね」
「ハイドラント艦隊が最大限の援護をします。これより1時間後に作戦を開始します。皆さんには今から小型探査艇の操縦を覚えてもらいます」
忽然と連れて来られた宇宙の戦場で6人は理解を越える争いの渦中に引き込まれていく。自分達に何が出来るか不安が募る中、クライスはアルティオに尋ねてみる。
「アルティオ、小型探査挺とはなんだろう?」
「着いてきてください」
船内底部に降りた射出デッキ。全長10m程の丸みを帯びて小さな主翼を着けた小型探査艇が5機収容されていた。
「この小型探査艇の定員は2名。惑星探査用の探査機ですが、カタパルトから射出すれば速度は音速を超えます」
クライスは操縦席に乗ってみる。空中パネルの表示は以前、脳に記憶したハイドラントの言語。パネルに触れて座席中央にある操縦桿の操作を試してみた。ギアは機体の周囲を訝しげに見渡している。
「これって……レーザーとかミサイルあんのか? 」
「兵器は一切持ち合わせていません。宇宙を探査するために速度と耐久性を重視しています」
あの艦隊の群れにどうやって近づくのか、驚くギアには悪い予感しかしない。操縦席を確認したソレイユは3人に指示をした。
「小型探査艇の定員が2人ね。ギア、クライス、ライセは操縦を覚えてくれる? 」
「ん? ソレイユ達はどうするの? 」
「私は試したいことがあるの」
ソレイユは真剣な眼差しでアルティオに向かって提案した。
「レアール艦隊にはクオリアがいるはず。クオリアに会ったことがある私達が作戦の前に交信してみます」
「わかりました。ソレイユ達は操縦室に来てください」
アルティオの宇宙船の通信装置を使ってソレイユがレアール艦隊との交信を試してみる。何回かの通信を続けてみると侵攻中のクリスタルウォールの壁が収縮して宇宙空間に巨大な人の顔が映り出した。巨大な顔はハイドラント艦隊に向かって口を開けて話し始めた。
「通信を識別した。ハイドラント艦隊の中にいる地球人と話がしたい」
見覚えがある白光の巨大な顔にソレイユは臆すること無く話し掛けてみる。
「クオリア、レアール艦隊にエポナという女性が1人向かったはず。今すぐ解放しなさい」
「ハイドラントの女は我々の集合意識の1つとなる。お前達に返す必要はない」
「返さなければ私達がレアール艦隊を攻撃します」
「お前達が攻撃したところでハイドラント侵攻には何も影響を及ぼすことはない」
「私達は1度クオリアを倒しています。また同じ過ちを繰り返したく無ければ今すぐエポナを返して惑星レアールに立ち去りなさい」
「女は我々の中にある。科学技術を持たない未熟なお前達地球人が我々を退ける確率は0%、惑星レアールはハイドラントを吸収して新たな進化を遂げる」
「クオリア、私達はたとえ確率が0%のどんな逆境にあっても必ず奇跡を信じている。あなたは神を信じない。信じることを忘れた意識は自らの過ちによって滅びます」
「神はいない。奇跡など迷妄な人類の無価値な憶測。
ハイドラント人を全て集合意識に組み込んだ後、次はお前達の地球に向かって全ての地球人を我々の進化の糧としよう」
クリスタルウォールに映るクオリアの映像は粉々に砕けて消えていく。未知の交信を終えたソレイユは目に涙を浮かべて喜んでいた。
「よかった……。エポナはまだ生きてる……」
ソレイユは大切な友人の生存を確認するために強気の交信を試していた。エポナの生存を確認した女子3人は小型探査艇の後部座席に乗って準備を整えていく。
作戦を実行する直前、レアールの新鋭艦が12隻、クリスタルウォールを越えてハイドラント艦隊の領域に転送して出現した。探査船の全ての砲身が12隻の新鋭艦に向けられ一気に緊張感が高まる中、ハイドラント全艦隊に向けて通信が聞こえてくる。
「こちらはソレイユの友人のヨシュアです。地球の友人に会いに来ました。ソレイユ達はいませんか? 」
その声を聞いてみんなは驚いて声を上げた。
「ヨシュア!! 」
今にも砲撃しそうなハイドラント艦隊にソレイユは慌ててアルティオに忠告する。
「アルティオ!お願い!接近したレアールの新鋭艦への攻撃をしないように連絡して! 私達の友人なの!」
「了解しました! 新鋭艦からの通信を皆さんにお繋ぎします」
6人それぞれが乗った小型探査艇の空中パネルにヨシュアの姿が映り出す。彼女の見た目はどれも同じレアールのクリスタルロイド。しかしソレイユは確信を持ってヨシュアに声を掛けた。
「ヨシュア、ソレイユです」
「お久しぶりです。ソレイユ、地球の皆さん。必ずまた会えると思っていました。ナルシアもこの船に乗っています」
ヨシュアの言葉にクライスは思わず声を上げた。
「ナルシアも!? 」
「クライス、話は後でしましょう。今はあなた達の力になるためにこちら側に来ました」
クリスタルの外見に姿を変えた懐かしいナルシアの声。ヨシュアの隣から彼女が現れるとクライスは懐かしさに胸を振るわせる。ソレイユはこれから始まる作戦をヨシュアに伝えてみた。
「ヨシュア、今から私達はクリスタルウォールを越えて中枢司令旗艦に囚われたエポナを救出しなければならないの」
「作戦を了解しました。私達はソレイユの交信を見てこちら側に転送しました。今より私達12隻の新鋭艦はハイドラントの作戦に参加します」
「ありがとうヨシュア!ナルシア!」
アルティオとヨシュアが相談して作戦が変更される。ヨシュア達の新鋭艦12隻も参戦してクリスタルウォールの破壊に加わることになった。
長く続いたカタパルトに設置された3台の小型探査艇。操縦席を閉めて射出を待つ中で胸に着けた金のバッジでソレイユは通信する。
「今から私達の大切な友人を取り戻りましょう! 」
「了解!! 」
夢を失った世界から奇跡を取り戻してくれた金のバッジ。その友情の証に誓いを立てるように6人は決死の覚悟で作戦決行の瞬間を待っていた。




