レアール艦隊
地球の大気圏を抜け出した別世界。幾億もの星の光が宇宙の海に輝いている。もう二度と戻れないと思っていた無限の解放感に6人の心は満たされていく。
ふわりと体が軽くなる調整された微重力の中でアルティオは高速移動を終えて、迅速に高次元転送を始めていく。量子の次元から解放されて全員の意識に焦点が合うとアルティオは自動操縦の設定を終えて話を始めた。
「慌ただしく移動してすいません。緊急事態で惑星ハイドラントの対軌道から回り込んで移動します」
機窓からは太陽系よりも星影に満ちた宇宙空間が流れていた。いつも冷静だったアルティオは落ち着かない様子で話している。ライセが操縦室を見渡すといつもいたはずの彼女がいない。
「アルティオ、エポナはどこに? 」
「エポナはレアール艦隊に囚われてしまいました」
「レアール艦隊? どういうこと? 」
「数日前にレアール艦隊200隻がハイドラントの外惑星宙域に現れました。惑星ハイドラントに向かって侵攻を続けているので交渉しましたが応じないため、エポナが単独で向かってしまいました」
「エポナは無事なの? 」
「囚われてから28時間。無事かどうかは確認ができていません。救出作戦も失敗して現在もレアール艦隊は宙域を侵攻中です。クオリアを破壊したあなた達地球人に助けを求めるために僕が地球へと向かいました」
6人は予想外の緊迫した状況を飲み込めない中で眉を顰めたギアがアルティオに問いかけた。
「アルティオ、この探査船ならラーザゼルの巨大爪船も倒せただろ。ハイドラントの宇宙船集めて一気に攻撃しねぇのか? 」
「レアールの科学技術はハイドラントを遥かに凌駕しています。レアールの新鋭艦は200隻、ハイドラントの探査船は惑星全体で60隻。既に何回かの戦闘で相手を1隻も沈めること無く、こちらは20隻を失っています」
理解し難い状況をソレイユは冷静に読み解くようにアルティオに聞いてみる。
「戦争を避けるための交渉はどうだったの? 」
「こちらから何度も交渉のための通信をしました。しかしレアールの返答は「増えすぎた人類は銀河の新しい進化の糧になるしかない」と応答があるだけです」
その言葉にライセはレアールで対峙した集合意識クオリアの記憶が甦ってくる。
「僕達が惑星レアールで遭遇したクオリアは人の意識を取り込んで進化していた……。もしかしたらクオリアが暴走したのかもしれない」
「惑星レアールは自ら他の惑星との交流を望まないためハイドラントは警戒していませんでした。しかし侵攻してくるとなれば戦争は回避できません。今からあなた達の装備をお渡しします。装備室に来てください」
足早に操縦室を出ていくアルティオに6人は着いていく。女子3人は女子用の装備室で用意された装備に着替える間、男子3人はアルティオと一緒に新装備を身に着けていく。
「地球に向かうまでにそれぞれの武器の破壊力を強化しました。以前とは威力が違うので使用の際には気をつけてください」
3人は試着台の分子装着で白銀の装備を身に着ける。ギアは用意された二挺拳銃をクライスはレーザーライフルを手に取るとライセはアルティオに話してみる。
「アルティオ、僕は刀を没収されて今は持って無くて……」
アルティオは壁に並んだ近接武器から刃が無い1本の柄をライセに手渡した。
「これをお使いください。手に持って戦う意思を柄に伝えてください」
ライセが柄を握り締め気持ちを込めると鋭い刃先が突き出してくる。頑丈な刀の滑らかな刃先にライセが見蕩れていると刃先が震えて高音が鳴り響く。
「以前改良した刀よりも意思が強く反映されます。刃先に振れる超音波が脳波を感知して、鋭さを強化して粒子破壊を行います」
超音波刀の高音とライセの脳量子共鳴が熱伝導起こし、刃先は赤く光っていた。
女子3人もハイドラントの軽装備に着替えると治療キットを身に着けてタブレットを持って部屋に入ってくる。
「皆さんにもう1つ新装備をお渡しします。全員この電磁グローブを着けてくたさい。電磁グローブを着けて手を広げれば皆さんの意思を伝達して前面にバリアを張ることが出来ます」
クライスが試しに電磁グローブを着けてみる。体の前面に手を伸ばして指を広げると黄色く閃く電磁バリアを生成していた。
「クライス、そのまま動くなよ」
ギアが少し外して電磁バリアに拳銃を撃ってみると直撃した銃弾は「ピシッ」と炸裂音を鳴らし床に落ちていく。
「こいつは役に立ちそうだな」
「グローブの電磁バリアは数発の銃弾やレーザー、物理攻撃にしか効きません。重複して使う際には一旦バリアを閉じてください」
ギアがグローブを着けて広げた電磁バリアにライセが超音波刀を当てるとバチバチと音を立て盾となって跳ね返した。
「これだけ装備を強化したってことは、俺達が敵の船に乗り込むってことだよな! 」
「はい。エポナはレアールの中枢司令旗艦に向かって行くのを最後に連絡が途絶えました。皆さんの脳量子共鳴が成功の鍵となります。到着次第すぐにエポナ救出作戦に入ります」
新装備に高揚感が漂う中でティアリスは気掛かりな様子でエポナのことを心配していた。
「なんでエポナはたった1人でそんな無謀なことをしたのかしら……」
「実は、本人からは明かさないように言われてましたが……。エポナは惑星ハイドラント王室の王女です」
「エポナがハイドラントの王女!? 」
「はい。誰よりもハイドラントに住む人達や訪れてくれる人達を愛してます。レアール艦隊の侵攻が許せず、僕が止めても聞き入れずに、たった1人で艦隊の中に向かってしまいました」
「ってことは王女救出作戦ってことだな」
ギアの言葉に6人は想いを強くする。彼女はかつて6人を救ってジェネシス号も修理してくれて、滞在する場所も提供してくれた。澄まし顔ですぐに拗ねるところが王女だからかもしれない。全員がエポナから渡された金のバッジを新装備に身に着けるとアルティオがみんなに声を掛ける。
「敵艦隊の前面に到着する頃です。操縦室に戻りましょう」
「了解!! 」
操縦室に戻ると広い機窓からレアール大規模艦隊が見えてくる。薄く先鋭な船体を白くクリスタルで覆った全長200メートル級の新鋭艦が200隻、中央には全長1千メートル級の中枢司令旗艦が、暗黒の宇宙空間に白い地平線を描くように侵攻している。
視界に広がるその全てが惑星を滅ぼすための建造物であることを知ると、身震いが止まらない戦慄に襲われる。散りばめられた白い星屑が迫り来るような光景に6人は息を飲んで呆然と立ち尽くしていた。




