記憶の中の宇宙
地球に帰還してからの3日間、1人ずつに健康診断と聴き取り調査が行われ、ライセ達は事実を教授達に伝えていた。その後に6人は1つの部屋に呼ばれて四道教授からこれからの事を告げられた。
「これで君達の宇宙探査は終了した。明日からは今まで通りの日常に戻ってもらう」
まるで6人が経験した宇宙探査を何事も無かったかのように話す四道教授に驚いたライセは聞いてみる。
「あの……、僕達の宇宙探査はもう終わったんですか? 」
「残念だがシャトルの計画は失敗した。宇宙探査が失敗したため、本計画は凍結するよう決定が下された」
「僕達は銀河内の別の宙域に行くことができたんです。宇宙探査は成功したんじゃないんですか? 」
「それは、とても言い難いのだが……。君達は宇宙空間の極限のストレスにより集団幻覚を見ていたのだろう。それよりも何より君達が生還したことが……」
四道教授が話をしている途中、苛立つライセは声を上げた。
「集団幻覚なんかじゃない! 僕達はこの目で見ました。宇宙には地球と同じ別の人類が存在したんだ! 」
「ライセ、その話はまた後でゆっくり聞こう。今は君達の将来のための学業や日常の生活が優先だ」
「それなら学校に行きながら、僕達をまた宇宙探査に行かせてください! 」
「私も残念だが、調査した君達の話を公表しても世間は決して受け入れない。そりよりも君達が宇宙で失踪していたことを問題にするだろう。これは上層部からの命令だ。宇宙探査は無期限で凍結されることになった」
信じられない表情を見せる6人。話を聞いたソレイユが冷静に質問をする。
「四道教授、ジェネシス号はどうなるんですか? 」
「シャトルは格納庫で厳重に保管された後に解体となる」
唖然とするクライスも四道教授に申し出る。
「船内の記録とジェネシス号のコアを改良した形跡が証拠になります。それを見て僕達が話した内容と検証してください」
「君達が言う船内の記録も改良の形跡も残っていないんだ。つまり君達が言っていることの証拠や証明する物は何も無いんだよ」
「でも僕達は幻覚症状なんかでは無く、はっきりと記憶に残っています。次に宇宙に行けば必ずそれを証明させることが出来ます」
「私達は君達を信じているよ。しかし世間はそんなに甘くない。君達も大人になればわかる。世の中とは、そういうものなんだ」
船内の記録がどこで消滅したのか、高次元転送をした時か、地球に降り立った時かわからない。教授達が嘘を付いているようにも思えない。納得が行かないライセは呆然としたまま四道教授に問い掛けた。
「……父さん、僕達はもう、宇宙には行けないの? 」
「次に宇宙に行くとするならば、君達は大学の課程を修了して正規の宇宙飛行士のテストを合格すれば行くことができるだろう」
船体も船内に置かれた物も全て没収されて二度と立ち入ることを許されなかった。「君達のためだ」という理由で研究施設に入ることも許されず、6人は強制的に日常生活へと戻された。
───あれから1ヶ月後
10月の初め、ライセは遅れた学力を取り戻すために毎日学校に通っていた。誰にも話せずに心を閉ざして生きた心地がしないまま。見慣れた景色と有り触れた日常の繰り返しにあの日の記憶が消えていく。
ソレイユは進学校で遅れた学力を取り戻すために毎日が忙しく、それでも記憶を残しておくために6人の出来事を小説に書いているらしい。
クライスはドイツに戻って誰も信じない話を隠したまま大学に行くための勉強をしている。ティアリスとエレミアもアメリカに帰ってから全く連絡がつかなくなっていた。
帰りの路上、顔を上げれば、みんな一瞬目を向けるが誰もが目線を逸らして、何かに従って規則的に歩いている。手を取り合うことも無いままに、見た目も心も着飾っていた。
夜闇が迫る中でライセは待つ人のいない家に帰る訳でもなく、いつものタイヤが積み上げられた廃棄場に向かっていた。
「バイク、残念だったね」
「あぁ。しょうがねぇよ。あれは俺が買ったもんでもねぇしな」
スクラップの部品に囲まれた小さな明かりの下でギアは自作のバイクを組み立てていた。ライセは隠してある天体望遠鏡を取り出して、壊れた世界の中から夜空を探していた。
「なあ、ギア。まだ覚えてる? 」
「あぁ。いつも思い出してるよ」
ギアの耳には光らなくなった青い片耳ピアスが付いていた。そういえば誰かが言っていた。地球に戻れば後悔すら忘れるだろうと。
「僕達が見ているあの星達は幻想なのかな……」
「俺からしてみりゃ、この世界が幻想なのか、それとも俺達が見た記憶が夢なのか、どっちかわかんねぇけどな」
「きっと僕達の夢は解き放つことを忘れているんだ」
2人が見上げる夜空には一筋の流れ星が輝きを放って消えていった。
── インフィニティ プラネット 第1部 完 ──
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