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最後の転送

 会いに来てくれたアルティオ達のおかげで地球帰還への準備が整うと、6人は操縦室の定位置に座っていた。ハイドラントの巨大船が距離を置いて見守る中で地球への高次元転送が始まる。


「クライスは転送コアの作動、エレミアは転送地点の確認を。ライセは船内機器を、ギアは船外状況の確認、ティアは隔壁封鎖と非常時の準備をお願い! 」


「了解。磁場制御装置作動、動力コアの出力上昇」


「転送地点のダウンロードを開始します」


「船内機器の異常なし。船体磁場安定しています」


「船外異常なし。ハイドラントの探査船は安全圏で停泊中」


「船内隔壁封鎖しました。異常は見当たりません。非常時の医療体制は完了しています」


「エレミア、クライス、最終確認をお願いします」


「磁場の影響最小限。目標空間座標へのダウンロードを完了しました」


「ハドロン衝突型加速器反物質コア起動。転送コアへ座標ベクトルのアップロード完了」


「今から『太陽系第3惑星、地球』への最後の転送を始めます。ジェネシス号、高次元転送を開始します! 」


 ジェネシス号はイェンツィガの光に包まれ消えていく。時間も距離も無限の量子の空間。光の中で船体も人も量子分解して再構成されていく。転送が終わって意識に焦点が合うと、着いた機窓の宇宙には青い惑星が浮かび上がっていた。


「成功だ……」


「あれは私達の惑星……」


 訪れたどの惑星よりも美しい。機窓からは白い大気に包まれた青く透き通る地球が見えていた。転送が成功した感動と地球の美しさに全員が息を飲む。


「……エレミア、空間座標と茨城の研究施設に連絡を取ってみて」


「はい。空間座標確認しました。地球の衛星軌道上に間違いありません。茨城のドックにも通信を解放します」


 目の前にはもう二度と戻れないと思っていた念願の地球が迫っている。茨城宇宙研究センターからの連絡を待つ間、ライセはクライスに聞いてみる。


「クライス、もしかして僕達が帰る地球って数百年先の未来とかになってたりしない? 」


「あぁ。SFとかでよくある相対性理論における光の速度に近づけば時間の歪みが生じる現象だね」


「そう、それ!よくわかんないけど大丈夫かな? 」


「反物質の対消滅を利用した高次元転送も、光量子の量子力学を利用した亜空間転送も、点と点を繋いで再構成しているから時間の影響は受けないはずさ」


「ジェネシス号の船内と地球時間の誤差も調べてみましたわ。宙域を高速移動したための1時間程度の誤差がありますが修正の範囲内です」


「ってことは僕達はどれくらいの時間を宇宙に滞在したことになるの? 」


「地球を出航してからの時間を計測しますと地球時間で36日間の滞在になったようです」


 宇宙を漂流してから思っていたより短い期間。多くの未知の体験が時間を長く感じさせていた。連絡を待っているとエレミアの操縦席から通信が入ってくる。


「……日本の茨城宇宙研究センターです。こちらへの通信を確認しました。そちらの所属と状況をお伝えください」


「その声は四道教授! ジェネシス号の司令官コマンダー空色ソレイユ芦名アシナです!」


「……ジェネシス号? 」


「はい!1ヶ月前に土星の衛星タイタンに宇宙探査に向かったジェネシス号です! 」


「……あぁ、君達か。全員無事なのかね? 」


「はい!6人全員無事です。地球に帰ってきました!今から空間座標を送ります! 」


「了解。識別コードを確認後に着陸を誘導しよう。こちらからの自動操縦に切り替える。そのまま大気圏突入体制に入って欲しい」


「了解しました! 」


 茨城宇宙研究センターからの無機質な返事に違和感を感じながらも、着陸までの数時間が待ち遠しい。ソレイユは明るい表情でみんなに声を掛けた。


「地球に着いてから、今回の私達の宇宙探査の報告をすれば、これからいろいろ変わりそうね! 」


「はい。地球と宇宙の人類との交流が始まるかもしれませんわ」


「そうだね。僕はこの宇宙で体験した理論を学会に発表したいのさ。実体験を兼ねた理論はきっとノーベル物理学賞も夢じゃない! 」


「私は子供の頃から宇宙飛行士になるのが夢でしたの。この経験を活かしてより多くの人が宇宙に夢が抱けるように銀河の交流を広めていきたいですわ」


「これからも宇宙探査をする時は、またこのジェネシス号でみんなで一緒に行きましょう」


「そうだね。これからも僕達の司令官コマンダーはソレイユさ」


「皆さんまた次もよろしくお願いしますわ! 」


 操縦席の3人が盛り上がっている中でギアは1人だけ首を傾げて何かを感じ取っていた。


「なあ、みんななんか変わってねぇか? 」


「ん?ギア、どうしたの? 」


「能力が無くなってる……」


 ギアの直感に5人は手を出して集中してみる。ライセの炎熱もクライスのプラズマもエレミアの氷塊もソレイユの重力波もティアリスの光量子も脳波に共鳴しない。それぞれの脳量子共鳴サイコシンパサイズは使えなくなっていた。


「もしかして、あの宙域だけにしか使えない何か特別な能力だったのかな」


「僕達が地球に帰るために与えられた能力だったのかもしれないし」


「またあの宙域に行けば使えるようになるのかもしれないわ……」


 その時は何も気づかなかった。みんな地球に着陸することだけを考えて、ギアだけは腕を組んで黙っていた。ライセは後部座席の隣に座るティアリスにも声を掛けてみる。


「ティアは地球に帰ったら何したい? 」


「私は……。またみんなと宇宙に行きたい」


 そう言って地球を眺めるティアリスの横顔はどこか寂しげにも見えてくる。


 大気圏の摩擦熱に包まれて船体は地上へと降りていく。夜の深更を過ぎた時間にジェネシス号は人目を避けて茨城地下施設のドックへと入っていった。ハッチを開けて降りてくる6人を見て教授達は驚いている。


「よく戻ってこれたね……」


「はい! 全員、無事に帰還しました! 」


 1か月前に宇宙で消えたシャトルを探すための探査は打ち切られ、船体と6人は失踪したことになっていた。

 教授達が無事に戻った全員を笑顔で出迎えてくれる。念願の地球に辿り着いたそれぞれは何も変わらない研究所に安心感を抱きながら、訓練時の各自の部屋でこれからの事を夢見てゆっくりと休んでいた。


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