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宇宙の約束

 難解な理論構築に疲れ切ったクライスに休んでもらうためにも全員で一旦休憩を取ることにした。次の日、クライスとソレイユは反物質コアの改良に取り掛かる。エレミアとティアリスはイェンツィガと地球を繋ぐ非局所性の観測を続けていた。

 ライセはリビングスペースのモニターに映る白き創星イェンツィガの光源を見ながらエレミアと話していた。


「エレミア見つかりそう?」


「天の川銀河系内だけで1千億以上の恒星がありますわ。その緻密な設計から太陽系の反物質を探すのは奇跡に近い作業です」


「えぇっ? エレミアはどうやって探してるの? 」


「地球との距離や方向性、銀河の空間座標から推測できないかとは思うのですがとても膨大な情報量ですわ……」


 光源を映すモニターは多彩な色に溢れていた。その中から太陽系と非局所性の粒子を探す。気の遠くなる作業を眺めていたライセはその中にある小さな灰色の渦に目を止めた。何かの予兆が脳裏を過ぎる1点にライセは思わず声を上げる。


「エレミア、あの灰色の渦を調べてみて」


 小さく滲む灰色の渦にカーソルを合わせ、電波観測を使って調べていくとエレミアは驚いている。


「太陽系を構成する物質構造、個体識別データが類似してる可能性が……」


「見つかりそう? 」


「はい! そしてこの反物質が対消滅する光源をベクトルとしてジェネシス号の反物質コアに利用すれば! 」


 エレミアがイェンツィガの光源を観測し続けていると、1人で操縦室にいるギアから館内放送が入る。


「おーい。なんか来たぞー!」


 気の抜けたギアの声を聞いて全員が作業を止めて一斉に操縦室へと向かった。するとモニターには懐かしい船影が見えてくる。


「あれは……」


「ハイドラントの探査船! 」


 ゆっくりと近づいてくる白銀のクジラ型の巨大船。懐かしさに笑顔で眺めていると全員の胸に付けた金のバッチから通信が入ってくる。


「……ハイドラントのアルティオです。皆さんご無事ですか? 」


「アルティオね! どうやってここに? 」


「皆さんの高次元転送の技術を再現して搭載してみました。実験を兼ねて皆さんが向かっているイェンツィガに行ってみようということになりました」


「高次元転送が成功したのです」


 金のバッチからはアルティオと一緒にエポナの声も聞こえてくる。ハイドラントの探査船は接舷するとアルティオ達はジェネシス号の操縦室へと転送して入って来た。


「アルティオ様! 」


 転送の光に包まれた姿を見た瞬間、思わず声を上げるエレミアは尊敬以上の眼差しでアルティオを見つめていた。


「リレインとリプルも!」


 アルティオとエポナの後ろには、まるで2匹の蝶が舞い込んだようにリレインとリプルも転送してくる。


「ギアにもう一度だけ会いたくて、私がアルティオに宙域の転送をお願いしたの」


 転送したリレインはハイドラントを出航して会えなかったギアを愛おしそうに見つめている。ギアのために数光年先を転送したリレインを見てティアリスは思わず口にしてしまう。


「ギアのために転送してきたの!? 」


「そうよ。ギアに会いたかったの。あなたみたいな子供にはわからないわ」


 みんなの前で平然と口にするリレインに驚いたティアリスは目を大きく開けてライセを見てくる。そしてリレインに向かって毅然とした態度で言葉を返した。


「リレイン、ギアなんてピアノとギャンブルしか出来ないケダモノよ? 」


「私は店で多くの人達を見てきたわ。みんな見た目も心も着飾っているだけ。でもギアだけは違うの……。恋愛をしたこともない女なんかにはわからないわ」


 鼻先であしらうように言葉を返すリレイン。驚きを隠せないティアリスは目を見開いてライセを凝視している。


「えっ?あっ、きっと、人それぞれなんだよ……」


 数光年先を会いに来る女心に敗北感を感じて、ティアリスはライセの曖昧な返事になぜか怒って頬を膨らませていた。


 会いに来たアルティオはクライスの反物質コアの改良を手伝ってくれる。エレミアの反物質星と太陽系との非対称性もハイドラントの電波観測を使って調べてくれて、地球への帰還を手助けしてくれていた。

 ティアリスとリプルはみんなの食事を作っていてライセとエポナも手伝っている。ピアノを弾くギアの背中にはリレインがもたれかかっていた。


 地球への帰還の準備が完了すると、リビングスペースのテーブルの上には手作りの食事が沢山並べられていた。みんなで乾杯して賑やかな食事が始まる。アルティオ達はカザロフやレアールで6人が遭遇した出来事に驚いていた。


「きっとあなた達が惑星ラムウで得た脳量子共鳴サイコシンパサイズは何か特別なものかもしれません」


「僕達がラムウで得た能力って特別なの? 」


「ラムウ人だけに受け継がれた特別な能力ですが、きっと脳波レベルの高いあなた達地球人だからこそ受け継ぐことができたのでしょう」


 宇宙の出会いに感謝する楽しいひと時が過ぎていく。ソレイユがみんなに向けて声を掛けた。


「みんな聞いて。ハイドラントで借りた装備は全て返した方がいいと思うの」


 ソレイユの提案にクライスとエレミアが賛成する。


「そうだね。レーザー銃やこの服装、治療キット、どれも素晴らしい技術だが、地球にとっては行き過ぎた技術。争いの種になってしまうかもしれないのさ」


「歴史上、地球の文明においても他文明の技術の持ち込みが争いや文明の破壊を起こしてしまいますわ」


 みんなで賛成する中でギアだけは使い慣れた拳銃を手に持って惜しんでいた。


「この拳銃を返しちまうのか」


「ギア、それは地球には無いものよ。武器の持ち込みは平和な地球には必要無いわ」


「そ、そうか……。まあ一旦返すってことで……」


 食事が終わった後、全員が自分の部屋で地球の装備に着替えてハイドラントの装備は全て返すことにした。ライセは刀を入れるために作ってくれたリュックを渡して、金のバッジと一緒にまとめてアルティオに手渡した。


「この金のバッジだけは、この宙域で無ければ転送は使えませんし、通信も出来ませんが、ハイドラントに訪れた記念に持っていてください」


「金のバッジは私達が出会った友情の証なのです」


 アルティオとエポナに言われて、6人は金のバッジを大切にポケットの中にしまい込んだ。

 最後の別れを告げてアルティオがハイドラントの探査船への転送の準備をすると、リレインはギアを呼び止めた。


「ギア、お願い……。私を地球に連れて行って」


「んぇ? リレインを?」


「ねぇ! お願い! 」


「だめだ! 地球になんか行っても何もいい事なんてねぇよ」


 ギアの素っ気ない態度に悲痛の表情を見せるリレイン。見ているみんなにも彼女が転送して来た理由がよくわかる。リレインは地球に行く覚悟を決めてここまで来たことが。

 ギアはリレインの目を見て自らに誓いを立てるように心に刻み込んだ。


「俺は必ずまた戻ってくる。約束する。戻ったらまた必ずリレインの店に行く」


「……ギア、あなたは決して嘘をつかない。信じて待ってるから、次に会う時までこれを持っていて」


 リレインは自分の耳に提げていた青く光るピアスの片方をギアに手渡した。照れ笑うギアは片耳ピアスを手の中に包み込む。


「一緒に宇宙を旅してるあなた達が羨ましい」


 リレインは笑顔でギアを見送った。

 再会を約束した4人は別れを告げて転送する。楽しいひと時を過ごしたアルティオ、エポナ、リレイン、リプルは白銀のクジラ型の巨大船へと戻って行った。


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