インフィニティプラネット
クライスとライセは完成した磁場制御装置を動力室に設置していた。透明のクリスタルに仕掛けられたジルコニア鉱石が磁場を生成する装置。ヨシュアの協力で完成した装置を操作室から作動できるように繋げていた。
設置が終わってリビングスペースに戻ると、ギアは二挺拳銃を分解して組み立ている。ティアリスはタブレットで食事のレシピを調べていると、エレミアと操縦室を交代したソレイユが2人が入ってきたのを見て話し始めた。
「次の転送先はイェンツィガだけど、ハイドラントでもまだ探索できてない宙域なの」
手を止めたティアリスがソレイユに聞いてみる。
「それってハイドラントの科学技術でも行けない場所ということかしら? 」
「近くまでの探索情報はあるんだけど、距離も遠くて、周辺に寄港する惑星も無いからハイドラントの亜空間転送では探索が難しいのかも」
ソレイユの説明にライセはハイドラントで聞いたことを思い出す。
「そういえば、ロム爺はイェンツィガに行った者は帰ってこれないって言ってたけど……」
「磁場制御装置も完成したし、ハイドラントでは難しい宇宙探査も高次元転送が使えるジェネシス号なら可能にするのさ」
「行ってみないとわからないってことだね」
「きっとハイドラントでも探索出来てない高度な文明や技術があるに違いないさ」
ライセとクライスが話をしていると操縦室から船内放送が流れてくる。
「皆さん! 操縦室に来てください! 」
操縦室を任せていたエレミアが声を上げる船内放送。全員が席を立って操縦室へと向かうとモニターには見覚えのある巨大船が映っていた。
「右舷前方400km付近に巨大船体が現れたようです! 」
モニターには闇の渦から巨大な黒爪が突き出していた。星々の光を浴びて黒く禍々しい船体を浮かび上がらせると、オウムガイのような巨大船体から鋭い爪が伸びている。
「あれはラムウ宙域で見たガイウスの巨大船……」
「なんでこの宙域に……」
「俺達を狙ってここまで来たのか……」
暗黒宇宙に浮かぶ巨大な黒爪の宇宙船は全貌を現し、ゆっくりとジェネシス号に黒爪の先端を向けてくる。最初に転送した時の凶禍の記憶が全員の脳裏に甦ると操縦室には戦慄が走っていた。
呆然とモニターを眺める中でソレイユが声を上げて指示を出した。
「転送しましょう! 高次元転送ならあの巨大船は決して追いつけない! 」
「ソレイユ、転送ポイントへの到着はまだですわ!今、転送すれば恒星磁場の影響を受けて転送が失敗します! 」
「磁場制御装置を作動させよう! まだ実験段階だが設計上は問題ないはずさ! 」
「やってみましょう! エレミア、転送地点のダウンロードを、クライスは磁場制御装置を作動させて! 」
「了解。転送地点へのダウンロード開始します」
「磁場制御装置作動、動力コアの出力を上昇する」
「ギアは巨大船体の位置確認を、ライセは船内機器の確認、ティアは非常時に備えて船内隔壁の封鎖と医療体制を! 」
操縦室に緊迫感が漂うと航海を経験してきた全員が冷静な判断で席の前にある空中タッチパネルを操作して情報を確認し始める。
「黒爪の巨大船体は針路をこちらに向けて突進中!距離120km! 」
「船内隔壁封鎖、船内異常無し」
「船体磁場、気圧異常無し、船内機器の異常無し」
「巨大船体との距離40km! 」
「エレミア、クライス、最終確認を! 」
「磁場の影響最小限。目標空間座標へのダウンロードを完了しました」
「ハドロン衝突型加速器反物質生成起動。転送コアへのアップロード完了」
「転送先は『惑星イェンツィガ』周辺宙域。ジェネシス号、高次元転送開始します! 」
黒爪の爪先が衝突する瞬間、ジェネシス号は光に包まれて転送する。量子の波動はイェンツィガ宙域へと高次元転送を開始した。
危機を脱するための数光年を転送する無限の一瞬。転送後の体力が消耗する中で操縦室には未知の宙域に着いた緊迫感が漂っていた。
「船体の再構築完了。船体に異常ありません」
「反物質コア安定。船内気圧、船内機器異常なし」
「巨大船の衝突は避けたようね。惑星イェンツィガ宙域の空間座標……、クライス! 船体を停止させて! 」
転送した宙域、機窓から眺める目前には光をねじ曲げて飲み込む巨大なブラックホールが見えていた。
「船体航行停止します!」
「ソレイユ! 宙域にブラックホールからの強力な重力磁場が発生しています! それもブラックホールは1つだけではないようですわ……」
「待って! ブラックホールの向こうにあるあの強力な白い光は何……? 」
ブラックホールの向こうから目を細める強い光が機窓から差し込んでいる。見ていると視力が奪われそうな溢れ出す白い光と七色に滲んだ輝き。
光源の周囲、軌道上には幾つかの巨大なブラックホールが光を飲み込む異様な光景が広がっていた。
「あれはもしかして……。エレミア、あの恒星の光化学反応を観測できるかい?」
「……はい。あの光源は水素の核融合では無く対消滅のようですわ」
「ということは、あれは理論上、この宇宙のどこかに必ずあると言われていた反物質星……」
立ったまま機窓の光源を眺めて驚いているクライスとエレミアにライセは聞いてみる。
「反物質星? 」
「……この宇宙が誕生した際に全ての物質と対になって生成された惑星ですわ」
「物質と同じ数だけ反物質がある。物質が存在するのなら反物質も必ずこの宇宙のどこかに存在すると言われてきたのさ」
今まで航海を続けてきた暗黒宇宙とは真逆の光景。まるで宇宙が溢れる光で構成されているかのような極限のエネルギーが光を飲み込む巨大なブラックホールさえも公転させていた。
「軌道上を取り囲むブラックホールの強力な磁場が反物質星の消滅を防いでいるのですわ」
「この宇宙が誕生して以来、あの反物質星は閉じ込められていたか、常に生成と対消滅を続けている……」
6人は辿り着いた白き創星の光に包まれながら、未知の宇宙の光景に目を奪われているソレイユが呟いた。
「あの光はこの宇宙誕生以来、無限のエネルギーを放ち続けている『インフィニティプラネット』ね……」
心が広大な光の空間を彷徨いそうな宇宙の起源に迫る銀河の光源。様々な恒星の光を集めた七色に光る創星は無限の輝きを放ち、小さなジェネシス号をその光の中に包み込んでいた。
ブラックホールが観測された現在において
反物質星の観測も時間の問題かと思います。
理論上の惑星の実際の姿を見てみたいですね。




