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大切な思い出

 ヨシュアは初めての人との意識の交流に積極的に協力してくれていた。磁場制御装置の設計を完成させて動力室で製造しながら、船内の点検も手伝っていた。

 容態が良くならないナルシアはティアリスが看病しながら、心配する女子達も交代で、クライスも気になって何度もナルシアの部屋を見に行っていた。


「みんな起きて! ナルシアがいないの! 」


 惑星レアールに入港して4日目の朝、ティアリスの声が船内に響き渡る。みんなが慌てて起き上がると、徹夜で作業をしていたクライスとヨシュアも動力室からリビングスペースへと出てきた。


「ナルシアが1人になりたいって言って部屋を出てあげて、戻ってみたらいなくなってて……」


 開けっ放しのナルシアの部屋にはベッドの上に1枚の手紙があった。


 1人で勝手に船を出てしまってごめんなさい。

 私はこの星でアンドロイドになります。

 今まで私の病気のためにたくさんの人に

 迷惑をかけてしまって

 これ以上誰にも迷惑をかけたくなくて

 私のわがままを許してください。


 クライス、私を宇宙に連れ出してくれてありがとう

 生まれてずっとあの丘で星を眺めて

 最後に私の夢を叶えてくれて

 みんなと一緒に過ごした数日間が

 私にとって最高の幸せでした。

 みんなが無事に地球に帰れることを祈っています。


  ナルシア


「ナルシア……」


 手紙を読んだクライスは額に手を当て悲痛の表情を浮かべるとタブレットを持ったまま船外へと走り出す。


「クライス!」


 呼び止めても聞こえないクライスにギアはヨシュアに問い詰めた。


「おい! ヨシュア! ナルシアの手術室はどこだ? 」


「ナルシアさんの手術が行われるとしたら、この市街の中央施設の地下です。その場所は厳重に封鎖されています。手術を止めるとしたらクオリアの指示を止める必要があります」


「封鎖を突破すりゃいいんだろ! 」


「あなた達だけでは心配ですから私も行きますわ」


 クライスを追ってギアとエレミアが武器を持って船外へと出て行った。

 残ったライセも日本刀が入ったリュックを肩に掛けてソレイユに声を掛ける。


「僕達も行こう! 」


「待って! 私達はクオリアの所に行って手術を止めさせないと。ヨシュア、クオリアの場所はわかる?」


「集合意識のクオリアは市街地の最下層と認識していますが私はその場所には行ったことがありません」


「場所はわかりそう?」


「はい。この惑星の地下中央管理塔、その先がクオリアの居住区となります」


「私達はそっちに行ってみましょう! 」


 ソレイユ、ライセ、ティアリスはヨシュアを連れてクオリアがいる場所へと向かって行った。



 中央施設に辿り着いたギアとエレミアの前にはクライスがクリスタルロイドと話していた。


「ここを通して欲しい。僕は手術をする彼女に会いたいだけなんだ! 」


「この場所は関係者以外の立ち入りを禁止しています。滞在施設へとお帰りください」


 クライスは立ち塞がるクリスタルロイドに何度も話し掛けていた。

 施設を封鎖するクリスタルロイドの一辺倒な返事に苛ついたギアは拳銃を抜いて撃ち放つ。銃弾はクリスタルロイドの胸に当たると倒れて動かなくなった。


「クライス! 機械と話し合ってる暇なんてねぇだろ! 」


「そうだね。ギア、すまない……」


 中央施設に入った3人はエレベーターに乗って降りていく。長い通路を走って着いた入口にはクリスタルロイドが立っていた。

 ギアは拳銃を構えるがクライスは立ち止まってまた説得を試してみる。


「ナルシアさんの手術は始まっています。

 終わるまで外でお待ちください」


「なあ、君達のルールは僕にもよくわかる

 でも僕にもルールがあるのさ

 好きな人の最後に会いたいって思うことは

 いけないことなのかな」


 心を込めて伝えようとするクライスの言葉に部屋を封鎖するクリスタルロイドが反応する。そのまま言葉を失い動かなくなると操作室の扉は開き始めた。


 3人が中に入るとガラス越しに封鎖された手術台にはナルシアが寝かされていた。彼女を目にしたクライスは思わず声を上げた。


「ナルシア! 」


「彼女は今から安らかな睡眠に入ります。

 10分後には今の体が死を迎えると同時に

 クリスタルロイドへの意識の移行が始まります」


 入ってきた3人に操作室のクリスタルロイドが説明すると、ギアは操作室と手術室を隔てる硬質ガラスを割ろうと拳銃を構えた。


「クライス! まだ間に合う!ナルシアの所に! 」


 しかしクライスはギアの拳銃を遮った。


「ギア、待ってくれ。

 僕はナルシアに会いたかっただけなのさ……」


 するとガラスの向こうで寝かされたベッドの上、目を開いたナルシアが操作室のモニターに映ると、彼女の声が聞こえてくる。


「……クライス」


 モニターに映るナルシアの穏やかな表情を見るとギアは肩の力が抜けたように拳銃を下げた。見上げたクライスは彼女に優しく語り掛けた。


「ナルシア……。アンドロイドになっても記憶や思考が移行するだけで意識が移る訳ではないんだ。君が君では無くなってしまう。それでもいいのかい? 」


「えぇ。わかってるの」


「わかってるならなんでアンドロイドに……」


「私の体はあと数日と持たない。

 アンドロイドになりたいんじゃないの

 みんなといた時間が本当に楽しくて

 その大切な思い出を残しておきたいだけなの

 クライス、私のわがままを許して」


「ナルシア、僕にとって君はとても大切なんだ」


「ごめんね、クライス」


 ナルシアの目から涙が流れ落ちる。それを見たクライスは彼女を悲しませないように気持ちを抑えて笑顔を見せた。


「……いいんだよ。君が決めたことだから」


「ありがとう。クライス」


 ガラスに阻まれたクライスを見つめるナルシアは力無く微笑んでいる。薄れゆく意識の中で彼女もまた最後に笑顔を見せようしていた。


「ナルシア、生まれ変わったらまた会おう」


 ナルシアは静かにうなずいて目を閉じていった。

 ガラス越しに会話する2人をギアもエレミアも見ていられない。どちらが正くてどうすればいいのかその場所にいる誰にもわからなかった。


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