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クリスタルロイド

 惑星レアールに入港したジェネシス号。

 透明の硬質ガラスで覆われた地上から溢れる白い光が反射して透き通った構造物は様々な輝きを見せていた。

 高層階にある格納ドックに降りた船内から光輝く美しい街並みが見渡しているとソレイユがハッチを開けてみる。


「降りてみましょう」


 降り立つ場所にはクリスタルのアンドロイド7体が出迎えてくれていた。女性の体型を模した透き通るアンドロイドに男子達は一瞬戸惑うと、よく見るとどれも同じ顔で同じ体型。胸の奥が白く光っていた。


「ようこそ惑星レアールへ。私達クリスタルロイドが皆さんを滞在施設へとご案内します」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 ハイドラントでもアンドロイドを目にしたがレアールのクリスタルロイドは洗練されていて歩き方も女性そのもの。硬質ガラスで造られた無表情なマネキンが胸を白く輝かせながらしなやかに歩いている。

 透き通るエレベーターを降りた宿泊場所は通路も壁も透明で溢れる光に彩られた様々な輝きを見せている。


「惑星レアールのルールとして、訪問中はこの部屋に滞在してもらうことになります。自由に行動して頂いて構いませんが、滞在の間はレアールのルールに従って頂きます」


「はい。わかりました」


「皆さんが各自のお部屋に入りましたら入港の際のメディカルチェックをさせて頂きます」


 ライセは案内されて部屋に入ると、部屋の全てが透き通っていてお風呂やトイレに外の景色や隣の部屋まで見えている。


「この部屋は全部透き通ってるの?」


「はい。壁や窓は光を調節して見えなくすることも出来ますが、私達レアールでは隠すことは意味を成しません」


「そ、そうなんだ……」


 クリスタルロイドのメディカルチェックを受けて透き通る部屋でくつろいでみても見られているような気がして落ち着かない。

 透き通った壁の向こう、隣の部屋にいるはずのギアがいなくなっている。気づいたライセは通路に出てみると、透明の通路にはティアリスが佇んでいた。


「ティア!」


「あら、ライセも落ち着かないの?」


「うん。部屋は綺麗なんだけど見られてるみたいで落ち着かなくて」


「そうよね。ギアはすぐに船内に戻ったみたいよ。私も船内に戻ろうかしら」


 2人で話していると通路の奥でクライス達の騒ぎ声がする。ライセ達は声のする部屋に向かってみた。


「クライス! どうしたの? 」


「アンドロイドがナルシアを連れて行こうとしてるのさ! 」


「何があったの? 」


 ライセが聞くとナルシアの部屋の前に立ち塞がるクリスタルロイドが応えてくれる。


「ナルシアさんは白血病に罹っています。このまま放置すればあと数日で亡くなることもあります。すぐに治療が必要です」


「ナルシアの病気はわかってるさ! 」


「白血病は致死率の高い病気です。すぐに身体をアンドロイド化させなければ彼女は亡くなってしまいます」


「ナルシアをアンドロイドに……」


「はい。生命を助けることがレアールのルールです」


「そこをどいてくれ! ナルシアを今すぐ船内に連れて帰る! 」


「彼女に治療を受けさせないということには理由を必要とします」


「そこを動かないなら僕は力ずくで彼女を連れて帰る! 」


 怒りを露にするクライスは部屋に入れようとしないクリスタルロイドに手を当てプラズマを流し込む。一瞬で動かなくなったクリスタルロイドはその場に倒れ込むとクライスは部屋に押し入ってナルシアを抱きかかえて船内へと連れ去って行った。


「私達もナルシアが心配だから船内に戻るね」


 女子達3人も一緒に船内に戻ると残されたライセは倒れて動かないクリスタルロイドに目が止まった。他のクリスタルロイド達が集まると自らの透き通る体から部品を取り出して手当てをしていた。


 ライセも船内に戻ると、クライスとティアリス、エレミアは容態が急変したナルシアを看病していた。

 リビングスペースには先に戻っていたギアにソレイユとライセが話していた。


「ナルシアの体をアンドロイドに? それはやめといた方がいいな」


「確かに地球じゃちょっと考えられないけど、科学技術が進んだレアールなら人間がアンドロイドになるということは普通のことなのかもしれないわね」


「アンドロイドになればきっと丈夫な体と永遠の生命を手に入れることができるんだよ」


「永遠とかくだらねぇ。そんなもん手に入れてもなんの意味もねぇよ」


「ギア、それってどういうこと?」


 ギアは目を閉じて何かに気配を感じ取るように船内を見回すとライセに声を掛けた。


「ライセ、今からちょっと外に出てみようぜ」


 ギアは自分の部屋からバイクを持ち出してハッチを開けて船外へと出ていく。高層階の入港施設、一つだけの出口から透き通るエレベーターにバイクを乗せて2人で降りて行った。

 多くのクリスタルロイドが何かに従って規則的に歩いている。レアールの警備に呼び止められないか周囲を気にするライセに、ギアは平気な顔で施設の入口でバイクの爆音を鳴らした。


「乗れよ! 行こうぜ」


「うん」


 2人を乗せた黒いバイクは建物も道路も全てがクリスタルで覆われた街の大通りを一気に駆け抜ける。途中見かけた多くのクリスタルロイド、爆音を鳴らし走り去るバイクを全く気にする様子を見せなかった。


 どこまでも続くガラスの世界。地表も木も草も花も透き通っていて、地上の光を浴びて様々な彩りを見せて輝いていた。

 バイクが行き着いた場所は市街地から離れた郊外。白い太陽と青白の空の下、視界に広がる幻想的な白夜の世界にライセは呆然と目を奪われていた。


「……すごい。綺麗だね」


「そうか? 俺にはこの景色は死んだように見えるな」


「えっ? 」


「幻想は幻想でしかない。生きてないんだよ。いや生きてたのかもしれない。でも今は死んでるよ」


「じゃあ僕達が見たあのクリスタルロイドは? 」


「あれは機械だ」


「人がクリスタルロイドになったんじゃないの? 」


「違うな。生きてる感覚がしない。きっとどこかに隠れてる」


「何が? 」


「かつてこの星に生きてた奴らが」


「ということはこの綺麗な景色は……」


「そうだ。そいつらのためにある」


 ────カツン……カツン……カツン……


 バイクのエンジンを切った2人の目の前に胸に白い光を灯したクリスタルロイドが歩いてくる。通り過ぎる2人に見向きもしない。何かのために同じ歩調で過ぎ去っていく1体のクリスタルロイド。それを目で追っていたギアは呟いた。


「人は人にしかなれない

 機械には永遠ってのがあるのかもしれねぇけど

 人はいつか滅びて消えていく

 人の永遠ってのは一瞬でしかないんだ」


 どこまでも透き通る静謐な音の無い世界。呟くように言ったギアの言葉の意味がライセにはわからなかった。しかしその言葉は後になってライセの心に痛切に響いていった。


読んで頂いて本当に感謝です。

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