蒼炎の行方
船内のラーザゼル人が次々に闇から現れ、気が付けば百人以上の兵士に囲まれていた。
襲っては消える兵士は獲物の体力が尽きるのを待つように狂気に満ちた絶望が6人を取り囲む。
力尽きて膝を付きそれでも体を張って戦うギア達を見て仲間を思う気持ちにライセの心が熱くなる。
「僕達は生きて地球に帰りたいだけなんだ」
自らを覆う弱い心が打ち剥がれていく。
舞い散る結晶は脳波に共鳴して燃え上がる。
ライセの脳量子共鳴が熱風が巻き起こす。意思を伝える刀が熱伝導を起こし炎を纏う。炎熱に包まれたライセは兵士の集団に斬り込んだ。
視界に入る者、間合いに入る兵士全てを斬り伏せていく。次々に斬り進むライセの刀は弧を描き螺旋炎舞を巻き起こすと、5人の周囲を炎で守る。
氷上に燃え広がる紅い炎を目にしたネメシスは青く光る鞭を振り上げ兵士に叫んだ。
「そいつから距離を取るな! 全員武器を捨てて一斉に飛び掛かって押さえ込め! 」
黒い細剣を氷上に捨てた数十人の兵士が一斉に闇に転送し空中から飛び掛かる。体を押さえ圧し掛かる兵士はライセの手も足も掴み積み重なると、氷上に伏したライセは身動き一つ取れなくなった。
「ライセ! 」
ティアリスの叫び声が氷のドームに響き渡る。
数十人の兵士がライセの体の上に折り重なり静まり返る一瞬、氷上から爆炎が巻き起こる。兵士を吹き飛ばしたその場所に焦熱烈火のライセが立ち上がった。
炎熱を纏い立ち上がるライセ。怯えて後退る兵士にネメシスは鞭を打ち据え叱咤する。
「全員で切り掛かれ! そいつを倒してお前らの正義を見せてやれ! 」
闇をも燃やし尽くすライセの炎熱に兵士達は逃げ惑うとネメシスが鞭を振り上げてライセに襲い掛かる。
刀の刃先で鞭の電撃を受けると赤い炎は鞭の先から焼き尽くしていく。
「勝った者や強い者が正義なんかじゃない! 」
「下等生物が意気がるな! 弱いお前らに正義などない! 」
ネメシスは鞭を捨て氷上に落ちた黒い細剣を両手に襲い掛かる。迫るネメシスにライセは退かずに突き進む。
ライセの焼けた刃先がネメシスの胸を突き抜けた。
「正義とは弱さに打ち克つ正しい心なんだ」
胸を刺されたネメシスは両手から細剣が落ちて氷上に膝を着いた。
「くそっ! こんなもので私を倒したと思うなよ!」
胸を突き抜けた刀を両手で掴んで抜こうとすると、ネメシスの後頭部にギアが銃口が突きつける。
「それ以上後ろに退ると脳天ぶち抜くぞ」
クライスのプラズマを帯びたナイフがネメシスの首元に触れていた。
「君達は捕まったら闇に消えることができないようだね」
取り囲まれて勝ち目の無いネメシスを見て兵士達は次々に闇へと消え去っていく。
「殺せ! 私を切り刻め! 私には原罪の炎がある。お前らに恨みを募らせてすぐに再生してやろう」
兵士が消えていなくなった氷の闘技場にネメシスの怨嗟の叫び声だけが響き渡っていた。
ネメシスを捕えた氷のドームに灰色の粒子の渦が浮かび上がってくる。すると灰白のフードに顔を隠したクロノスが現れた。
「クロノス……」
「クロノス! お前何しに来た! 」
怪しげに姿を現したクロノス。ギアは声を上げてもう片方の拳銃を向け、迷うことなく銃弾を撃ち放つ。
「ギア。僕はこの宇宙の刻限の次元で生きている。君達の物質や空間の概念は僕には通用しない」
銃弾が体をすり抜けるとクロノスはゆっくりとネメシスへと近づいていった。
「君には蒼炎の嫉妬は似合わない」
「やめろ! クロノス! これは私がガイウスから受け継いだもの! 」
「僕は君よりずっと美しく蒼炎を魅せてくれる人を見つけただけだよ」
クロノスの手が影を写したようにすーっとネメシスの胸に入り込むと、その体から蒼く揺らめく炎を取り出した。
「クロノス! その炎は何か教えろ! 」
「これは『原罪の炎』。君達が惑星ラムウで得た『創成の光』と同様であり対を成す人類誕生の軌跡だよ」
ギアの問いかけに答えながら蒼炎を手に持つクロノスの体は灰色の粒子になって消え去っていく。
蒼炎を失い、胸を貫かれ、死を目前にしたネメシスはぐったりと項垂れていた。
エレミアとティアリスに支えられ、立ち上がったソレイユが問いかけた。
「……ネメシス、なぜあなた達は私達の技術を奪おうとしたりハイドラントと争うの? 」
「……かつて我々ラーザゼルが宇宙の闇を支配し銀河の人類を服従させてきた。しかし今は我々が永劫の闇に隠れて生きなければならぬ。その苦しみはお前達にはわからん」
「もっと互いに理解し合えばきっと共存できる方法が見つかるはずよ」
「宇宙にはお前達の想像し得ない力を持つ者や得体の知れない闇がある。闇に落ちた者はそこからは決して逃れられん」
「……さあ殺せ。もう私の体は粒子となって永劫の闇を漂うことになる」
力無く呟くネメシスにギアが引金の指に力を込めるとティアリスが叫んだ。
「待って!彼女を助けたい」
ティアリスは静かに近づいていく。項垂れたネメシスの傍に立ち、両手を広げて白い光を浮かび上がらせると、その光はネメシスの体を包み込んでいく。
「ティア!こいつは俺達を襲った……」
「彼女は悪くないわ。
生まれ育った星が彼女の運命が悪かっただけ……」
ティアリスが包む眩い光は氷のドームの中に聖白な輝きを放っている。
「やめろ……何をしている……」
「人の命に善も悪も無い……
最期は誰もが希望を抱えて終わるべき……」
白い光はティアリスの両肩に翼のように輝いている。まるでハイドラントで見た光の女神のように。
「あぁ……これが光の顕現……」
「あなたが生まれ変わるその時に
慈悲の光に導かれますように……」
ネメシスの体は光に包まれ消えていく。顔を上げたその表情は解き放たれる安らぎに満ちていた。
ネメシスも兵士もいなくなった氷のドームには結晶だけが静かに舞い降りていた。互いに支え合う6人は静まり返ったドームを後にする。
「みんなジェネシス号に戻って治療しないとね」
「いえ。宮殿に戻りましょう。私に良い考えがありますわ」
エレミアの言葉にみんなが驚いていると、彼女の視線を写す眼鏡はキラリと光っていた。




