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丘の上の小さな一軒家

 ジェネシス号は街への墜落を避けて丘陵地帯に衝突した。操縦室の6人は意識を朦朧としながら互いの無事を確認し合っていた。


「……みんな、だいじょうぶ? 」


「……とりあえず生きてるみたい」


「街への墜落は免れたようだが……」


 船体の丈夫な外郭と安全装置の反重力が衝撃を和らげてくれたものの、船体が回転して地上に衝突した「落ちた」という感覚が全員の頭から離れない。


「……エレミア、クライス、周辺状況はわかりそう?」


「街から離れた郊外の丘に不時着したようです……。周辺には住民はいないようですわ」


「外壁の損傷が激しいようだね。反重力スラスターも故障したようだし、外に出て見てみる必要がある」


「……ライセとクライスは外に出て破損状況を確認して。他のメンバーは船内の状況を確認しましょう」


「……ソレイユ。俺も外に出るよ」


「ギア、顔が真っ青よ。ティアに診てもらって少し休んで」


「……あぁ。船がぐるぐるしすぎた。気持ち悪ぃ」


 ライセとクライスは振らつきながら船体のハッチを開けてみた。

 外に出てみると岩に乗り上げて不時着しているジェネシス号。船体は背の高い樹木の陰に隠れていた。


「クライス。これは修理に時間掛かりそうだね」


「あぁ。反重力スラスターの故障もあるからね」


 呆然と破損した船体を見上げていると後ろから人の気配がする。2人は振り向くと木の影の小道から細身の女の子がジェネシス号を見上げながら近づいてきた。


「飛行船ね! こんなに近くで見るの初めて! 」


「あっ、えっ……」


「あなた達はどこの地区の人?どこから飛んできたの?」


「……えっと」


 突然現れて明るく話しかけてくる女の子。胸の前で手を組んで目を輝かせてジェネシス号を見上げる彼女は初対面のライセ達に親しげに話し掛けてくる。

 ライセが戸惑っているとクライスが咄嗟に誤魔化した。


「……す、少し離れた地区さ」


「すごい!いつも空に飛んでいるのは見ていたけど、この形の飛行船は初めてだわ! 」


「き、君は……この近くに住んでるのかい? 」


「はい! そこの丘を少し降りたところよ。私はナルシアって言います」


「僕はクライスだよ。……飛行船を修理するまで少しの間、ここにお邪魔しても良いかな? 」


「もちろんよ! 」


 クライスは少し離れた場所で、この状況を秘密にしてもらうようにナルシアと話していた。

 ライセがシャトルの破損部分を見上げているとソレイユとエレミアも外に出てくる。


「ライセ、クライスは? 」


「ここの住民の人に見つかっちゃって。今、そこの木陰で話してるよ」


「住んでる人がいたのね。住民の被害が無くてよかったけど、宇宙船が墜ちたって知れ渡ったら大騒ぎになってしまうわ……」


「きっとクライスがうまくやってくれるはず……」


 ライセは酷く損傷した船体を見上げながらソレイユに聞いてみる。


「船体の破損がかなり酷いけど……アルティオ達に連絡した方がいいかな?」


「そうね。船内は無事だったけどとりあえずいつまでもここに置いとけないし……」


「惑星カザロフに訪れた直後で、この星の住民に迷惑は掛けれませんわ。もちろんアルティオ様にも……」


「格納庫に予備の資材があるはず。まずは飛行できるように私達だけで直してみましょう」


 気分が落ち着いたギアとティアリスも外に出てきて状況を確認すると早速修理を始めることにした。

 ギアは器用に溶接しながら船体の穴を塞いでいく。ライセも手伝いながら他のメンバーも設計図を確認していると、ナルシアは珍しそうにその様子を眺めていた。


 夜まで修理に明け暮れてゆっくり休んだ次の日もナルシアは見に来ていた。

 外にテーブルを置いてみんなで昼食を取る時にナルシアも一緒に誘ってみる。地球の食べ物に喜んでいるナルシアにギアは丘から望む大気が淀んだ街を眺めながら聞いてみた。


「ナルシア、街はここから遠いのか? 」


「この丘を降りて道に沿って行けば街はあるけど歩いていくのは大変ね」


「そっか……」


「あなた達はこの飛行船でどこに行くつもりだったの? 」


 ナルシアの問いかけに一瞬静まり返った6人。クライスは慌てて誤魔化した。


「……あぁ。僕達はこの辺を旅してるのさ。いろんな場所に降りて街を見て楽しんでるだけさ」


「すごい! 飛行船を操縦して旅をするなんてとても素敵ね! 」


「あぁとても楽しいよ。修理して飛べるようになったらナルシアも乗せてあげるよ」


 クライスはナルシアと笑顔で話している。

 知らない惑星の女の子をジェネシス号に乗せていいのかな…と思いつつも、飛ぶだけならとみんなで昼食を取っているとナルシアが急に座り込んだ。


「……っ。こほっ……」


「ナルシアどうしたんだい? 」


 しゃがんで苦しそうにしているナルシアにソレイユが寄り添った。


「顔色が良くないわ……。ティア、医療キットを持ってきて」


「はい」


 ティアリスは訓練時に習った知識と医療キットを使ってナルシアの気分を落ち着かせていた。


「あまり良くないみたいね。治療で咳は止まったけど……」


「……もうだいじょうぶです。ありがとうございます」


「ナルシア、お薬とか持ってる?」


「……ごめんなさい。お薬切れちゃてて。……ちょっと疲れただけなの。今日は家で休ませてもらうわ」


 立ち上がって家に帰ろうとするナルシアにクライスが小声でティアリスに聞いてみた。


「ティア、ナルシアは病気なのかい?」


「私も医療の専門では無いからはっきりとは言えないけれど。あまり良くないみたいね。この星の環境に合ったお薬があればいいのだけど……」


 心配したクライスは顔色の悪いナルシアを麓の家まで送ってあげることにした。


 思っていた以上に修理が難しく、元に戻らないジェネシス号。日が暮れるまで修理して疲れ切ったみんなは船内の各自の部屋で休んでいた。

 夜が更けても眠れないライセは開けたままのハッチから出てみると、外にはティアリスが1人で夜空を見上げていた。


「……ティア」


「ライセも眠れないの?」


「うん。この惑星カザロフから地球が見えるのかな」


 2人で黒い夜雲の隙間に微かに瞬く紅星ガーネットスターを見上げていた。


「きっとこの星空のどこかに地球があるはず……」


「僕達は地球に帰れるのかな?」


「ライセは帰りたい?」


「うん。ティアも早く地球に帰りたいよね」


 星空の下に朧げに映るティアリスの白く透き通った肌と柔らかく揺れる金色の髪がどこか儚げで見ていたライセを切なくさせていた。


「私は。ずっとこのままでもいいかも……」


「このままみんなといると楽しいけど宇宙は地球よりずっと危険だし」


「……そうね。でも危なくなった時にはライセが私を守ってくれるんでしょ?」


「えっ?」


 ティアリスの星明かりを映した青い瞳がじっとライセを見つめてくる。その美しさに心を囚われたライセは素直な心を言葉に現した。


「……うん。絶対に守るよ」


 言わせて悪戯げに笑っているティアリスと顔を真っ赤にして俯くライセ。

 いつも寂しげな表情を見せる彼女のほんの少しの笑顔がライセの心を幸せにしてくれていた。


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