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黄金の地平線

 ロム爺の年齢は160歳位で100歳を越えた辺りからはっきりとは数えてないらしい。

 椅子に座ったまま眠っていたギアを起こして家を出ると、ロム爺は地下層から僅かに見える夜空を眺めて呟いていた。


「この頃、銀河が騒がしいのう。解き放たれた意識に量子が激しい波動を繰り返しておる」


 別れの挨拶をすると自動車椅子を操作してロム爺はすーっと家の中に消えていった。

 帰りの地下の路地は人の気配も消えた真っ暗闇のスラム街。リレインとリプルを先頭にライセ達は後ろを着いて行った。


「宇宙ってまだまだ私達にわからないことがたくさんあるみたいね」


 ソレイユの言葉にライセは地下層の隙間の遥か上空、宇宙クラゲの向こうにある星空を見上げていた。


「見てたってわからない。行って見てみないと何もわからないよ」


「そうよね……」


 ソレイユとライセとティアリスが夜空を見上げて歩いていると、真後ろを眠そうに歩いていたソイルが突然声を上げた。


「おいっ!」


 提げていた拳銃を抜いて、真っ直ぐに路地裏に向けて銃弾を撃ち放つ。銃撃音が地下層に響き、寝ぼけたギアがふざけたのかと思って見ていると、銃弾を弾いた路地から2人の男が姿を現した。


 1人は大剣を持ち、もう1人はレーザー銃を持って、先頭を歩いていたリプル達の行く手を阻んでいる。大剣の刃先は赤い電磁波を帯びて地下の闇に怪しく光っていた。

 続け様に拳銃を撃ち放つギア、男が路地に隠れてレーザー銃を撃ち放つとギアは叫んだ。


「ライセ! 」


「うん」


 ギアが合図をした時にはライセはリュックから刀を取り出し、瞬時に路地に隠れる2人に取り付いた。

 超音波刀が空間に触れる高音。鋼が交わる鈍い音。ライセの刀は2人の大剣とレーザー銃を真っ二つに斬り抜いていた。

 リレインが路地裏に近づいて見てみると……。


「あら。店のカードゲームで負け込んでいた2人ね」


 ギアは鋭い目で睨みつけ銃口を突きつけた。2人は震えて首を振り、武器を捨て手を上げている。見ていたリレインはため息をついて呆れていた。


「この街で私達を襲ったら街の人達に宇宙空間に放り出されるわよ」


 ライセが刀をリュックに仕舞って、ソイルが拳銃をホルスターに戻した時、一瞬の出来事に驚いていたリレインが呟いた。


「地球人って……」


 リレインが熱い眼差しでギアを見つめているとその言葉を打ち消すようにティアリスは言い放つ。


「いいえ。ギアは幽霊よ。化けて出るから気をつけて」


「あぁ?なんだと! 」


「なによっ! 」


 2人の口喧嘩をソレイユとライセが宥めていた。

 リレインとリプルを家まで送って、4人は都市の滞在施設まで戻ると、リビングスペースではクライスとエレミアが帰りを待っていた。

 心配していた2人にソレイユが話して、明日は時間を決めてみんなで店に行くことにした。



 次の日の夜、アルティオとエポナも誘って店に行くと、リレインとリプルは喜んで出迎えてくれる。みんなで乾杯するとギアはまたリレインと一緒にカードゲームを楽しんでいた。


「ギャンブルはダメよ。ダーメっ! 」


 ギアはソレイユの声に気にせずゲームを続けていた。クライスは店の上品な飲み物を味わいながら賑やかな雰囲気を楽しんでいる。


「あくまでもゲームだってことはギアもわかってるさ。おかげで美味しいものも飲めてみんなで楽しめる。ちゃんと時間さえ守ればそんなに気にすることもないさ」


 みんなで賑やかにテーブルを囲う中、ライセはクライスに聞いてみた。


「クライス、ジェネシス号は直ったみたいだけど、もう一度高次元転送すれば地球に戻れる? 」


「それは難しいね。この宙域と地球を繋ぐブレーンが無いのさ。つまり実際に行った宙域で無ければ高次元転送は使えない」


「ハイドラントの観測情報を使っても地球に転送できない? 」


「実際に探査していない観測した情報では仮想現実になってしまう。地球と繋がっているベクトルが必要なんだ。僕はイェンツィガに行けばきっとその情報があると思ってるのさ」


 話を聞いていたエレミアはクライスに忠告する。


「クライス、前回の転送の失敗を忘れてはいけませんわ」


「そうだね。前回は太陽磁場の影響か、それとも何か別の要因で干渉を受けてしまったようだ。そのために反物質コアを磁場の影響が受けない設計にしなければならないのさ」


「磁場を安定させるにはジルリウム鉱石ですわ。手に入れてからイェンツィガに向かってみましょう」


 話を聞いたアルティオが考え事をしながら提案した。


「皆さん、ハイドラントの亜空間転送では数光年先までしか転送できませんが、行ける所までお送りしましょうか? 」


 アルティオの好意にソレイユは希望に満ちた明るい表情で応えていた。


「ジェネシス号が直ったことだし、地球に帰るには私達自身で銀河を自由に航海できる高次元転送を完成させなければいけないわ」


「私も皆さんが地球に帰るのを手伝うのです」


「アルティオとエポナにはすごくお世話になったけど、これから先は私達で地球に帰る方法を見つけようと思ってるの」


 みんなで乾杯して再出発のお祝いをする。

 高次元転送を完成させて地球に戻ったらまたハイドラントに訪れることを約束をしてみんなで宇宙の出会いに感謝した。



 翌日にはハイドラントを出発することにした。

 格納ドックに並ぶ白銀の巨大宇宙船の隣の小さなジェネシス号のハッチの前にはアルティオとエポナがリレインとリプルも見送りに来てくれている。


「転送バッジと装備はお使いください。皆さんが無事に地球に帰ることを願っています」


「アルティオ、いろいろありがとう! 」


「何かあったらすぐに知らせるのです。私達が助けに行くのです」


「エポナもありがとう! 」


 それぞれが別れの言葉を交わしてると、ギアとリレインも話している。


「リレイン。楽しかったよ。ありがとな」


「……ねぇ。ギア……」


「んぁ? 」


「……ギア。またハイドラントに来てくれる?」


「もう来ねぇよ! くだらねぇ地球に帰らなきゃいけねぇからな」


 リレインは目を逸らし悲しい表情を見せていた。ギアは照れくさそうに耳に指を突っ込んでいると、その手を高く上げて笑って手を振った。


「またな! 」


 その一言とギアのはにかむ表情を見てリレインは笑顔になる。ドックに迷い込んだ2匹の蝶のようにリレインとリプルは明るく笑ってみんなを見送った。


「またねー! 」


 ハッチが閉まると、操縦室に座った6人の視界の先にはハイドラントの空の金色の太陽が輝いていた。


「船体並びに船内機器に異常無し。ハドロン衝突型加速器稼働、反重力スラスター作動。オールグリーン」


「周辺空域並びに進行方向異常無し。天候良好。視界良好。オールグリーン」


「みんなシートロックしてね。次の惑星に向けてハイドラント上空の大気圏に突入します。ジェネシス号、発進! 」


 反重力で上空へと浮遊した船体は高速飛行を開始して眼下に広がる黄金都市が遠ざけていく。ジェネシス号はハイドラントの黄色矮星の輝きを映した黄金の地平の彼方へと飛び立って行った。


惑星ハイドラントの一連の章の区切りです。

次は新章です。ハイドラントの人達はまたあとで…。

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