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女神アストライア

 街の明かりが消えた寂しげな歓楽街。6人で暗がりの地下層へと降りていった。

 リプルは地下の暗い路地を飛び跳ねるように歩いていく。ライセとティアリスとソレイユ、ギアとリレインは小さな明かりを手にして付いて行った。


 地下層の路地から見上げる夜空には星々の瞬きの下にふわふわと浮いた淡い光がいくつも見えている。リュックを肩に掛けたライセは先を歩くリプルを呼び止めた。


「リプル。あの淡い光は何だろ? 」


「あれは宇宙クラゲよ。夜になると惑星の磁場の中を泳いで空に浮いて光を放つの。どこの惑星にもいるはずよ」


「そうなんだ。地球にはいなかったよ」


「地上の明かりが全て消えると宇宙クラゲが見えてくるわ。きっと地球にもいるはず」


 街の灯が消えた星空に宇宙クラゲはいくつも揺らめいている。まるで風に吹かれて揺れるレースのようにやわらかな光を放っていた。

 地下の路地裏の隙間から僅かに見える幻想的な夜空を眺めながらソレイユとリプルが話している。


「ハイドラントって空に飛行機とか飛んでないの? 」


「昔はたくさん飛んでたみたいだけど、みんなが空や地上を移動すると惑星に影響を及ぼすみたい」


「あっ!ハイドラントには転送があるから空を移動しなくていいのね……」


「転送が使えるのは都市に住んでる人だけよ。私達は地下の下層にある高速交通網を使って移動してるの」


 話しながら歩いていると路地裏の奥の暗がりのスラム街、崩れかけた一軒家の前でリプルが足を止めた。


「……えっと。教えてもらったのはここだったかな」


 立ち止まって街角の一軒家を眺めると、崩れた壁の屋根からは巨大な天体望遠鏡が夜空を見上げている。

 後からギアと2人で着いてきたリレインが家の前に立つと、迷うことなくドアを開けた。


「ここロム爺のとこじゃない」


「うわっ! 」


 リレインがドアを開けた途端、みんな一斉に声を上げて後ろに仰け反った。ドアを開けたすぐ目の前、椅子の上にカエルが鎮座したような小さな老人がこちらを眺めている。


「外の大気の流れが騒がしいと思ったらお前達か」


 ゆったりとした服装を纏った小さな老人は自動車椅子の上に立ってるのか座ってるのかわからない。驚いているみんなを見下ろして、その大きな口で何かを咀嚼するように言葉を発している。


「入ってお茶でも飲んで行きなさい」


「……はい。お、お邪魔します」


 ロム爺は自動の車椅子を回転させると音を立てずにすーっと家の中に消えていく。後に付いて中に入ると部屋にはいくつもの蝋燭が灯されていて木製のテーブルの一番奥にロム爺は小さく佇んでいる。


「リプル。みんなにお茶を入れてあげなさい。熱いやつな」


「はいはーい」


 蝋燭の明かりに目が慣れてくると、部屋には色彩やかな光る鉱石や奇妙な置物が雑多に並べられていた。鉱石の隣には眼球が動いていたり、紫に光る蝶の羽がゆっくりと舞っていたり、触手が伸びた植物や鳥の翼を型取ったもの、人の手の模型かと思って触ってみたらいきなり激しく動き出す。見上げた天井一面には銀河の渦が輝いていて宇宙船の模型や通信装置のようなものもある。

 蝋燭の火に照らされた珍しい置物や装置を見渡しているとロム爺はライセに声を掛けてくる。


「お前達は地球人か」


「あっ、はい。地球からハイドラントに……」


「この銀河の辺境にある地球。近くあって最も遠い未完成な種族じゃな」


 ライセが隣に座ると、ロム爺は気配を感じるように1人ずつを見渡している。


「お前達、惑星ラムウに行ってきたのじゃな」


「はい。惑星ラムウで星の知恵を得ました」


「ラムウは今も宇宙の意識と繋がっておる。偉大な惑星じゃ」


「僕達がラムウに行ったのをどうしてわかったんですか?」


「お前達の脳波が量子と共鳴しておる。惑星ラムウがお前達に脳量子共鳴サイコシンパサイズを授けたのじゃろう」


脳量子共鳴サイコシンパサイズ……とは何ですか? 」


「人類が本来持っていた能力とも言われておる。今は王族のみに閉ざされた能力、稀に必要性に駆られて覚醒することのある人の遺伝子に組み込まれて隠れた能力じゃ」


 言われたみんながお互いを見回すが全くわからない。ロム爺は何かを感じ取るように1人ずつを見ながら話していた。

 ライセに代わってソレイユもロム爺に聞いてみる。


「私達はラムウで星の知識を得て、白き創星イェンツィガに地球に帰る方法があることを知りました。しかしその星がどんな惑星かわからなくて……」


「ふむ。……ということは儂にイェンツィガのことを聞きたいのじゃな」


「はい」


 ソレイユの返事にロム爺は天井に広がる銀河の渦を見上ると、口を突き出し目を閉じて記憶を辿るように話し始めた。


「イェンツィガは時間や物質を超越した惑星…。銀河創成の知識があるとも言われておる。かつてハイドラントが闇に覆われた時代、惑星を救う方法を求めて1人の青年がイェンツィガに向かったんじゃ。そして1人の女性を連れて帰ってきた」


 リプルはティーカップをテーブルに置いて暗がりに湯気が浮かび上がる熱い紅茶を注ぎ混む。

 みんなが黙って話を聞いているとリプルはロム爺に紅茶を差し出し聞いてみる。


「ロム爺、ハイドラントはどうやって助かったの? 」


「アストライアじゃよ。青年がイェンツィガから連れてきた光の女神が闇を打ち払ったんじゃ」


 ロム爺が振り返って目を向けた先、部屋の奥に女神の彫像が佇んでいた。蝋燭に照らされた表情は優しい笑みを浮かべ、両肩の翼は透き通るように白く輝いている。

 女神の表情がティアリスに似ていてみんなが彼女にも目を向けると、視線を気にしたティアリスはその顔を深い襟の中に隠して眉を顰めて目を伏せていた。

 リレインは切れ長の目をロム爺に向けて呟いた。


「女神アストライアって実在したのね……」


「数百年以上前の話じゃ。彼女のあまねく神託を聞いてハイドラントは変わったんじゃ。その頃はみな文明を発展させて資源を利用し、自分達の繁栄しか考えてなかった。惑星を利用し闇と争うのでは無く、闇から惑星を守ろうと決めたんじゃ」


 ロム爺は一息着いてリプルが入れた熱いお茶をすするように喉を潤した。

 蝋燭の灯火が揺れる部屋で御伽噺のように聞いていたソレイユはロム爺に尋ねてみる。


「イェンツィガに行けばこの宇宙を自由に航海する方法があるかもしれないんですね」


「どのような惑星かは誰もわからん。多くの者がイェンツィガを探して宇宙を航海をしたが、戻ってきたのはその青年1人だけじゃ。ラムウの知恵がお前達を指し示すならきっと何かあるに違いない」


PVが全く伸びず、今後はこっそり低更新となります。改善点は直す予定です。

Twitterでの告知も控えます。誰も読まないのに告知するのはメンタルに厳しいので…。

読んでくれる方、応援してくれる方には大変感謝しています。


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