リレインとリプルの店
街の描写を書くのも楽しいです。
全員の転送が完了した操縦室。
みんなで無事を確認し合っていると船窓から巨大な船が見えてくる。
禍々しい巨大な黒い爪とオウムガイのような船体。星明かりに照らされ全貌を現すと緑爪の幽霊船の数倍の規模。巨大な爪からは黒い光に紫を帯びたエネルギーが放出されていた。
「なんだよあれ……あんなのいたのか!? 」
「あの黒爪の巨大船は緑爪の船への砲撃を開始しているようです。破壊すれば衝撃波でこちらの船も巻き込まれます」
ラーザゼル人同士の争い。緑爪の船は抵抗する間もなく破壊されていく。
アルティオは急いで操縦して針路を変えていく。
「核融合炉最大出力。プラズマスラスター稼働。亜空間転送を開始します。皆さん席に座ってください」
モニターに映る黒爪の巨大船から放出される黒いレーザーが数発命中すると緑爪の船は崩壊していく。
船を沈めた黒爪の巨大船は巣に帰るように闇の渦へと飲み込まれていった。
爆発は宇宙空間に一瞬広がると収縮して衝撃波を巻き起こす。爆発と同時にアルティオは船体を転送させてラムウ宙域を立ち去っていった。
「もしかしてガイウスは……」
「はい。クライスのレーザーライフルが命中する瞬間にあの黒い巨大船に転送したと考えていいでしょう」
アルティオはハイドラント宙域に転送してドックへと帰還する。船が到着するとライセ達も滞在施設に戻って休むことにした。
ゆっくり休んだ次の日はソレイユ、クライス、エレミアの3人は惑星ラムウで得た知識を元に地球に帰る方法、白き創星イェンツィガを調べていた。
ライセとティアリスはギアを引っ張って館内のプラネタリウムに向かう。2人が星を眺めているとギアは後ろで胡座をかいて眠っていた。
夜になると起きたギアはライセを誘ってくる。
「ライセ! ハイドラントの街に行ってみようぜ! 」
「いいよ。武器とか持って行ってもいいのかな」
「武器とか当たり前だろ。何があるかわかんねぇし、それが楽しいんだ」
ライセは日本刀を入れたリュックを肩に掛け、ギアは腰から二挺拳銃を提げて、施設を出るとティアリスも付いてくる。
3人で整然とした都市を抜けて歓楽街の方へと向かうと人通りが増えていく。ライセ達は行き交う人達を見て違和感を感じていた。
「なんか思ってたのと違う……」
「そうね。宇宙人って言っても結局私達と変わらないわね」
「宇宙人がトカゲだとかタコとかエイリアンって、ただの人間の妄想だったんだな」
「人ってわからないものには想像力を掻き立てられてしまうんだよ」
着いた場所は見渡す限りの歓楽街。夜でも明るい雑踏は誰もが人の姿をして、髪や肌、目の色や服装が違うだけ。アンドロイドもいるが地球の人間と差程変わらない。
地球よりもどこか開放的で、不規則に並んで主張し合う夜の光がそこに集まる様々に着飾った種族の好奇心と本能を掻き立てていた。ライセ達は試しにその中の1つの店に入ってみることにした。
「いらっしゃい。見かけない顔だね。どこの惑星の種族だい? 」
「……えっと。最近ここに来たばかりで少し休憩しようかなって」
「ゆっくりしてってよ! 3人が来店だよ。リプル、案内して」
「はいはーい。いらっしゃいませー! 」
出迎えてくれたのは明るい雰囲気の可愛い女の子。頭にヘアバンドを巻いて笑顔で客席へと案内してくれる。
上品な装飾が施された賑やかな店内。スポットライトの下からは美声を響かせた女性の歌声が聴こえてくる。美しい蝶のように着飾った女性に目を奪われているとリプルは笑顔で教えてくれる。
「綺麗な歌声でしょ! 歌ってるのは私の姉のリレインよ」
観客を魅了する容姿と美声は光を浴びて輝いていた。歌が終わると観客から一斉に拍手が巻き起こる。黒髪が美しい彼女は拍手に応えて見渡すと、入ってきたギアに目を止めてまっすぐに席へと近寄ってきた。
「いらっしゃい。あなた達はハイドラント人? 」
突然話し掛けてきた店の主役に客の視線が一斉に集まっている。ギアは気にも掛けず、ライセは驚きながら返事をした。
「いや、知らないと思うけど地球人だよ」
「地球? 聞いたことないわ」
飛び跳ねるように店内は駆け回って飲み物を持ってきてくれたリプルがライセの隣に座るティアリスの顔をじっと見ている。
「ねぇリレイン。この子アストライアに似てない? 」
「そうね。言われてみると確かに似てるわ」
蝶が舞い降りるようにライセとギアの間、目の前に艶やかに座ったリレインにティアリスは聞いてみた。
「アストライア? 」
「人を苦しみから救ってくれるハイドラントの伝説の女神よ。この街にも聖堂や銅像が建てられているわ」
「あらそう。子供の頃から天使とか女神とか言われてきたけど……。この星にもそういうのあるのね」
ティアリスの何気ない一言が美しいリレインの心に火を点けた。
「まあ天使や女神なんて実在しない想像上の女性でしかないわ」
「それは多くの人が想像するほどに美しいってことね」
「銅像の女神なんかより現実の方がいいに決まってんじゃない」
「あら現実も美しいってことかしら。ありがとう」
誰が見ても美しい正統派のティアリスと店で一番美しい妖艶なリレインが冷たく熱い言葉を交わし合う。
ティアリスは青い瞳を伏せて美しい金色の髪を指で解いて気品を漂わせ周囲を魅了する。
リレインは顔を見上げて美しい黒髪を揺らし振り払って流す瞳は周囲を魅惑する。
観客がどよめく気まずい雰囲気にライセは挟まれ固まっていると、全く気にしないギアは賑やかに遊ぶ人集りに目を向けていた。
「なあ。あのカードゲーム、俺もやっていいか? 」
「えぇ。簡単よ。番号と記号が揃えばいいだけ。でもあれは賭けるものが無いとできないわ」
「賭けるもんなんて無くても勝ちゃあいいんだろ」
ギアはニヤリと笑って席を立つと、リレインも付いて行く。2人がカードゲームの方へと向かって行くと残った3人で話していた。
「リプルとかって……何才なの? 」
「私は14才よ。リレインは17才」
「えっ。リプルは学校とかって行ってないの? 」
「学校? なにそれ? 」
「みんなで勉強したり、競い合ったり集団行動とか学んだり……」
「地球だっけ? みんな学校ってとこに行くの? 」
「うん。子供はそこで学んで大人になるんだ」
「そうなの……。変わった惑星ね」
年齢より見た目が幼いリレインとリプル。
ライセからすれば子供が夜の店に働いていることが変わっている。しかし店内を見渡すと子供も大人も楽しそうに笑っていた。ティアリスも笑顔でリプルに話し掛けている。
「ハイドラントって都市は綺麗だし、ここもとても賑やかな街でみんな楽しそうね」
「ハイドラントは銀河の交差点って言われてるけど、この周辺は『宇宙一の歓楽街』って言われてるの。いろんな惑星の種族が集まって情報も交換できるけど、なんでもありだからちょっと危ないこともあったりするわ」
リプルの話を聞きながらライセは思い出した。
「あっ! そういえばリプルは白き創星イェンツィガって知ってる? 」
「イェンツィガ? 」
「うん。その惑星に行けば地球に帰る方法が見つかるみたいで……」
「聞いたことないけど知ってる人がいないか聞いとこっか? 」
「うん、お願い!僕達はそのイェンツィガに向かって宇宙を旅したいんだけど、どんな惑星かわかんなくて」
「任せといて! 」
「ありがとう。今日は遅いからまた来るね」
時間を気にしたライセとティアリスは滞在施設に戻ろうとギアに声をかけた。ギアはリレイン達とカードゲームを楽しんで終わったら帰ると言って、ギアを置いて2人だけで滞在施設へと戻って行った。
最初はこのお店の店主をオカ〇の店主にしたのですが、少し会話を入れただけで店主のキャラの印象が濃すぎて他のキャラの存在感が無くなってしまいました。オカ〇さんは強いですね。勉強になりました(*_ _)