輝く星の創成の光
好きなシーンの1つです。
地下神殿の千年樹の傍らで6人は星空を見上げていた。静まり返った星空の広間でソレイユの声が響き渡る。
「この天の川銀河の星の中に私達の地球がある……」
その声に反応して頭上高くに広がる星空の1つから流れ星が落ちてくる。その星は目の前に両手を広げた程の青い球体を浮かび上がらせた。青く透き通ったその星は大気を帯びて緩やかに回転している。それは記憶の中にある青い惑星。
6人は驚きながら目の前に浮かぶ美しい惑星を取り囲んだ。
「これは地球ね……」
「地球が目の前で回ってる……」
「僕達はここから出発したんだ」
ライセが日本の茨城を指差すと目の前に浮かんでいた地球は消えて無くなり、神殿の広間は出発した研究所の景色へと移り変わる。
「ここは茨城の研究所の操作室ね……」
「僕達が乗ってきたジェネシス号はもう無くなっている」
そして茨城の研究所の景色は解け込むようにすーっと消えて、6人が取り囲むその場所にジェネシス号の操縦室がホログラムのように浮かび上がってくる。
「ジェネシス号の操縦室ですわ」
「もう直ってる……」
「アルティオ達が修理してくれたのさ」
「あの時、ここからあいつらが現れたんだ」
操縦室の入口を見ていたギアが声に出すと、また景色が変わってジェネシス号の薄暗い操縦室……。
「これは……。僕達の記憶を目の前に写しているんだ! 」
6人は暗がりの操縦室に思わず息を飲み立ちすくむ。あの忌まわしい記憶が甦り、目の前にはみんなを襲った怪物が遮蔽扉を解かして入ってくる。
あの時の怪物の会話がはっきりと全員の耳に聞こえてきた。
「ガイウス、この銀河を変える技術が本当にこの小船にあるのか」
「あのような下等な生物が次元を超える技術を作り出すとは思えんがな」
非常用ライトの青い暗がりと恐怖の戦慄で見えなかった怪物の顔がはっきりと浮かび上がっている。人と変わらない血色を失った青白い顔は冷たい白い息を吐き、操縦室の隅に怯える6人を蔑み、ティアリスを見て驚いている。
「あの小娘は……」
「……あれは光の顕現。異端者のクロノスが同調した理由はこのためか……」
「そうであるなら我々の禍因にしかなり得ない」
「ネメシス。あの娘を捕まえてこの船を奪い持ち帰る」
船を襲った2人のラーザゼル人。ガイウスと呼ばれた男とネメシスと言われた女。女は蔑むように睨んで6人に迫り来る。
行く手を阻むギアが壁に叩きつけられる直前、見ていたギアは苛立ち、腰の拳銃を突きつけ声を上げた。
「こいつらより強くなんねぇと俺達は地球に帰れねぇよな! 」
その声に恐怖の記憶は消えて無くなっていく。静まり返る神殿の中でみんなの心に恐怖が甦る。絶望感が漂うと弱気になった男子3人は自らの心を吐き出した。
「僕達地球人はとても弱いんだ……」
「発展した技術も宇宙を航海する知恵も持ち合わせてはいないのさ」
「俺達は弱すぎる。このままじゃ生きて地球になんて帰れねぇ」
弱気になるみんなにソレイユは込めた願いを声にすると祈りは星空の神殿に響き渡っていく。
「私達には知恵が欲しい。宇宙を航海して地球に辿り着くための力が欲しい」
頭上の銀河の数多の輝きに6つの星が光りを放つ。緑、赤、金、青、黒、白の星の輝きは互いに絡み合い一人一人の目の前に流れてくる。目の前に現れた小さな星の輝きにそれぞれは驚きながら眺めていた。
小さな星の輝きに真っ先に手を伸ばしたのはソレイユ。いつも冷静なソレイユが我を失うように翠星の光に魅入られている。
「エメラルドのような星の輝き。自然が織り成す美しい色ね……」
見ている者の心を落ち着かせる優しい緑の輝きにソレイユ疑うこと無く手を伸ばす。その輝きに触れると触れた光は指から体内へ、脳内に達するとソレイユは目を見開いて言葉を発した。
「パシピエント……。宇宙の知識。見ることによって初めて宇宙は開かれる……」
部屋は優しい緑の光に包まれていく。ライセは目の前の紅く燃え上がる小さな紅星が輝きに好奇心を駆り立てられていた。
「赤く燃え上がる生命の輝き……」
紅星の光に手を伸ばして触れてみる。すると光はライセの体内へと入り込み、神殿の広間は紅く輝き出す。
「エスカピスト……。夢想の中にある宇宙。夢から醒めて目覚める宇宙を解き放つ光……」
美しい紅の輝きに神殿を満たされると、クライスは自身の目の前にある金星の輝きに心を奪われていた。
「美しき黄金の星の輝き。荘厳な智慧と永遠の表象……」
クライスもその輝く金星の光に手を触れる。黄金を一点に集めたかのように震える眩しい光。触れたクライスの意識に達すると神殿の広間は金色に光り輝き、目を見開き言葉を発した。
「シーカー……。宇宙への探求心。未知の宇宙の真理は解き明かされる……」
クライスは受け継いだ真理に心を満たされていた。正確無比なエレミアは目の前の小さく輝く蒼青の星に魅入られている。
「あふれ出す生命の泉のような青の美しさ……」
蒼星の輝きに心を囚われた彼女を呼びかけているかのように。エレミアは蒼の輝きに手を差し伸ばす。触れた瞬間、広間は宇宙を読み解く蒼の光を解き放ち、エレミアはゆっくりと目を開けた。
「アーキテクト……。宇宙の設計図。この宇宙の万物現象全てにおいて意味を成している……」
エレミアはその美しい設計を読み解くように宙を眺めている。エレミアの言葉を聞いて次に星の輝きへと手を伸ばしたのはギア。
ギアの目の前には人類が未だに観測し得ない宇宙の暗黒を映した闇星が凝縮している。誰よりも力を手に入れたいギアはその闇星の輝きを自らの意識に取り込むとギアの瞳は闇に染まる。周囲は漆黒の闇に包まれ笑みを浮かべて言葉を発した。
「ハルシネーター……。幻視の中にある宇宙。全ては滅びゆく記憶。この宇宙はつかの間の幻……」
最後に残った白く輝く小さな星の光。みんなが見ている中でティアリスは両手をそっと伸ばして白星の輝きを包み込んでいく。小さく膨張する白の輝きは彼女の両手が触れた瞬間、部屋は聖白な輝きを放ち、顔を上げて目を見開いた。
「オラクル……。宇宙からの神託。数多の星の輝きは私達を導いてくれる……」
それぞれが宇宙の知恵に触れて心が満たされていく。星明かりが降りそそぐ地下神殿の広場で千年樹だけがその様子を見守っていた。