星空の地下神殿
SFファンタジーです。
惑星ラムウへと降り立った6人は久しぶりに踏みしめる地上の感触と新しい装備に胸を高鳴らせていた。
ソレイユは大きく背伸びをして遠くへと連なる蔓植物に向かって指差した。
「あの植物が聳え立つ地点まで向かってみましょう」
地球より軽い重力と軟らかい日差しがそれぞれの足取りを軽くさせてくれる。大地を覆い尽くす蔓草は人の背丈よりも太く、曲がりくねった茎の上を飛び跳ねるように目的地まで小走りに走って行く。
ソレイユとライセは走りながら話していた。
「植物の緑って太陽の紫外線にある緑の波長を緩和してゆっくり光合成するためのものらしいわ」
「それって紫外線の緑の波長が最も影響を受けやすいってこと?」
「そんな感じね。人が癒しを求める植物の緑は実はその色の影響を安定させるためなのよ」
「そうなんだ。きっと人が緑を見て落ち着くのは赤と反対側にあるからかも」
数キロ先の小高い丘の上、優しいそよ風とどこまでも続く緑の景色。生い茂る大きな葉から零れるエメラルドグリーンの日差しの下を走っていると思った以上に早くその場所に着いた。
ギアは空の彼方へと巻き連なったいくつかの植物を見上げていた。
「エレミア、何でこんなに高くに蔓が伸びてんだ?」
「まるでオベリスクのようね……」
「オベリスク? 」
「人類も遥か昔の古代文明において高く先鋭なオベリスクを建てましたの。それは王の権威や信仰の対象であって文明の象徴とされていたいましたわ」
クライスとエレミアは高く聳え立つ蔓植物に巻き連なったその中にあると思われるものを手持ちのタブレットで調べていた。
ギアとソレイユは高い位置に立って周囲を見回すと、まるで空へと手を取り合って伸ばしているかのように蔓植物は遥か遠くの地上にもいくつも見えている。
ライセが空を見上げていると、隣にいたティアリスが地下へと繋がる空洞を見つけた。
「ライセ、これ何かしら? 」
「この空洞! 地下深くまで続いてる! 」
ライセとティアリスが空洞を覗き込んでいるとみんなが集まってくる。それは人1人が通れる隙間に蔓草が覆われた地下へと続く奥深い空洞。
「草の根っこと茎が絡まってんな。奥までは見えねぇ」
「行ってみましょう」
ソレイユの提案にギアが先頭を歩いて空洞を潜っていく。空洞の中を歩きながらクライスがタブレットを見ながら話していた。
「ソレイユ、オベリスクの中心にある素材の経年劣化を調べてみたら千年以上前の遺跡だった。もしかするとこの惑星の文明は千年以上前に滅んでいるのかもしれない」
「古代文明の上に蔓草が覆っているってこと?だとするとこの惑星の人達はいったいどこに……」
「ここは未知の宇宙。僕達の常識を遥かに超えることが起こり得る。気をつけた方がいい」
僅かに光が漏れる蔓草の空洞を歩き続けて着いた場所は、空からの光が集まるドーム状の空間が広がっている。周囲には蔓植物が絡み合いながら上空まで壁一面に張り巡らされ、その中には蔓草に覆われ朽ちかけた巨大な遺跡が佇んでいた。
ずっと誰かが来るのを待っていたかのように荘厳な遺跡からは小さな入口が中へと続いている。
「入ってみよう」
「気をつけて。千年以上前のものだとしたら崩れてくる可能性もあるわ」
「あぁ。……中が暗すぎて見えねぇな」
背の低い石積みの暗い通路をタブレットの明かりだけを頼りに進んでいく。先に進む程に狭くなる石窟を身を屈め手足を着いて這うように進む。
ギアを先頭にティアリスが続くと、スカートの裾を気にした彼女は後ろを振り向いた。
「ライセ、あまり前を見ないでね」
「えっ、うん……」
ライセは狭い通路の前を進むティアリスに気遣って床だけに目を向け距離を取る。後ろに着いてくるエレミアがその後ろのクライスとソレイユを気にして声を掛けてくる。
「ライセ。後ろがつかえてますわ」
「ごめん……」
冷たい石窟の奥の暗闇から緩やかな風が吹いていた。奥深くにあるその場所に辿り着いた時、起き上がって見上げた頭上には満天の星空が輝く地下神殿が広がっていた。
狭い通路を這い出した6人は呆然と見上げていた。
「星が空間を埋めつくしていてきれい……」
ティアリス星空を祈るように仰いでいる。
「まるで夢の中にいるようだね……」
ライセは目を輝かせ夢見心地で天体を眺めていた。
「星がゆっくり渦巻いて、生きてるみたいだな……」
ギアは幻想的な空間に包まれて心が和らいでくる。
「これは天の川銀河。星の数が数え切れない……」
ソレイユは一つ一つの星の美しさに感動していた。
「宇宙を分析した千年前のプラネタリウムね……」
エレミアは美しく緻密な設計に心惹かれている。
「宇宙の真理が集まってるみたいだ……」
クライスは精巧な技術に好奇心が満たされていた。
数多に輝く星の旋律が聞こえてきそうな地下神殿。頭上の星明かりにそれぞれの視界が光を覚えると神殿の奥には千年樹が佇んでいる。神殿の石積みの床一面を古木の根が埋めつくし、ひっそりと悠久の時を刻み重ねていた。6人は遺跡に広がる星空を見上げたまま、導かれるように千年樹の前へと足を進めて行った。
描写の多くをカットしました。短文と会話だけでも成り立ちますがそれではコミカルな失笑で終わってしまうので難しいですね。