宇宙への切符
やっと改変が終わりました。
できる限り読みやすく、わかりやすくしました。
──閉鎖された地下格納庫、照明に浮かび上がるスペースシャトルを見上げる少女がいた。硬く、冷たい、静まり返った鉄の空間に光を帯びて輝く小さな羽毛が舞い降りたように。彼女の金色の髪は輝いて、祈るように見上げる青い瞳は悲しみに満ちていた──
数時間前。
「ライセ? ……父さんだ。今日も仕事で家に帰れそうにない。学校が終わったら父さんの仕事場に来ないか? 一緒に夕飯を食べよう」
茨城で父と2人暮らし。学校から帰宅した四道黎星は週末にしか帰ってこない父の留守番電話を聞いていた。
西日が強い7月の夕刻、町外れの父さんの仕事場へと灘らかな丘陵を自転車で上がっていく。その場所は、危険な化学実験場、放射能の実験施設、宇宙と交信している、街の人がいろんな噂をする鉄網フェンスに囲まれた大きな天体望遠鏡が見える広大な研究所。
父さんの仕事場に遊びに行ったのは小学生の時以来。近づく景色に懐かしさを感じながら研究所に着いた入口、学生証を見せて建物の中に入ると昔の記憶を辿って研究室を探す。音を立てないようにそっとドアを開けると、中には研究用の白衣を着た父さんが奥のデスクに座っていた。
「ライセ。来てくれたか」
「うん」
「学校は? お腹空いてないか? 」
「学校終わったよ。お腹はそんなに空いてない」
いつもの父さんとの会話。何気ない問いかけに何気なく返事をする。気遣いはわかるけど親子なのに気を遣って欲しくない。なんで今更仕事場の研究室に呼んだのだろうと思いながら、子供の頃はここにいるだけがなぜか心地よかった気がしていた。
「ちょっと父さんに付いてきてくれないか? 」
「いいよ」
遠慮がちに言った父さんに付いて部屋を出る。少し歩いた施設奥のエレベーターに乗って2人だけの無言の気まずい雰囲気の中を地下深くへと降りていく。降りてすぐの廊下を歩いてドアを開けた操作室。そのガラス越しの巨大な格納庫に横たわる壮観なスペースシャトルに思わず目を奪われてしまう。
「父さん、これって……」
「ようやく完成したシャトルだ。あとは最終確認を終えれば宇宙へと飛び立つことになる」
「すごい。地下にスペースシャトルがあるんだ! 」
「いろいろ実験も兼ねてここに格納していたんだ。稼働の際には起立して地上へのハッチが開く」
初めて目にするスペースシャトルは格納庫の照明に照らされて、発射を待ってまるで冬眠しているように。巨大な鉄の塊には旅客機のような窓が着いていて後方に付けられたブースターが気になってガラス越しに覗き込んでみるが細部まではよく見えない。
「父さん、中に入って見に行ってもいい? 」
「この部屋を出てすぐの階段を降りると格納庫の入口がある。鍵は空いてるから見に行くといい」
「うん! 行ってくる! 」
階段を降りて重いドアを開けると静まり返った格納庫。高鳴る鼓動を感じながらシャトルに目を奪われブースターを見上げると中央には巨大なブースター、その周囲を囲むように小型のスラスターが繋がり、凝縮した先端技術が見えてくる。
見上げながら歩き回って目線を下ろした先、格納庫の片隅に金色の髪をした1人の少女が佇んでいた。息を飲む美しさに驚いて、その子に気づかれないように操作室に戻ろうとした時、彼女はこっちを見て一瞬言葉を失ったように日本語で話し掛けてきた。
「あなたは……四道教授の息子? 」
「うん」
「あなたも宇宙飛行士に? 」
「えっ。僕は父さんに言われて見に来ただけで」
「そう……」
彼女は悲しそうに目を伏せていた。
「もしかしたらまた会うかもしれないわね」
「……」
青い瞳でじっと見つめてくる彼女に何を話せばいいかわからない。何も言えずに戻って行くと、彼女が見上げる悲しげな光景はずっと頭の中から離れなかった。操作室に戻るとシャトルを見下ろしていた父さんが教えてくれる。
「あの子は今回のシャトル建造の出資者であり発案者の娘さんだよ」
「そうなんだ」
彼女のことが気になったけど、父さんに女の子と話していた所を見られたことが気になって素っ気ない返事をした。
研究所内の広い食堂で2人だけで食事をしてると父さんはいつも以上に話してる。宇宙は思ってる以上に安全であること、宇宙飛行士になるための訓練は本人の努力次第であること、誰もが宇宙旅行を楽しめる時代が来ることを話してると、向き合った父さんは真剣な表情で聞いてきた。
「ライセ、宇宙に行ってみないか? 」
「……えっ。僕が? 」
「そうだ。もちろん訓練は必要だが、あのシャトルは自動操縦。ある程度の知識を身につければ乗れるように設計してある。ライセが興味があるなら訓練を受けてみないか? 」
「……宇宙って遠いし、宇宙飛行士の訓練とか数年掛かるんだよね」
「宇宙は地上から80km、あのシャトルなら2時間で辿り着く。専門知識は必要だが、1ヶ月の訓練で乗れるようになる」
「でも、僕はまだ高校生だし、勉強も全然出来てないし」
「やる気さえあれば年齢など関係ない。これからの時代は宇宙に行きたいと望む者が、未来ある若者こそが宇宙に行くべきだ」
教授になった父さんのように賢くなんてない。高校の成績は中の下、いつも目立たないように何気なく友達と会話して、帰ったらVRゲームをしてるだけ。他にやりたいことなんて何もなかった。そんな息子に父さんはまるで自分の夢を語るように話していた。
そして心に残った言葉は……。
「私はこの研究に多くの時間を費やしてきた。もし父さんがお前と同じ年齢にあって宇宙への切符を手に入れたとしたら決して迷うことはないだろう」
読んでくださった方には大変感謝します。
題材を「宇宙」や「科学」を扱ってみましたが、全くPVが伸びない地獄を見ます。
真面目にやるとメンタルが削られていきます。
これからは趣味で気分次第で更新する予定です。