表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

アンネマリーの奮闘 〜今世こそ最愛の婚約者を幸せにします!!

作者:


「クリスさま、お父様、お祖母様、ごめんなさい」


もう私、生きていたくはありません。


クリスさま、私が死ねば、少しは楽になれますか。


お父様、お祖母様。これ以上クリスさまを苦しめるのはやめて。クリスさまの跡を継ぐのが私が産んだ子じゃなくたって、何の障りがあるんです。


女の子は二人産んだけれど、男の子を授かることはできなかった。けれどその子を私の養子にして、跡を継がせようというクリスさまの提案に、どうしてあなたたちが怒るの。


挙げ句の果てに、私が産んだ子以外は後継にしないという誓約書まで書かせて。


それを隠すクリスさまの優しさが、今は少し辛い。


お父様とお祖母様宛ての遺書に、心の内を書き綴って、私は一度目の生涯を終えた。


***



「え……どういうことなんですか」


「言った通りだよ。君が死んでも父親と祖母の暴走は収まるどころか悪化して、庶子は出奔、旦那は失意のうちに自殺した」


服毒自殺した私の前でそう笑うのは、いわゆる神様と呼ばれる御方らしい。


「庶子の名前、たしかアントンっていうんだっけ? 父親とお祖母さんは、君の自殺は彼のせいだと思ったらしく、命を狙い始めた」


「そんな」


違う。もうやめてもらいたかっただけ。


クリスさまを、ライエン家を苦しめるのを。


「短期間のうちに(きみ)子供(アントン)を失った旦那(クリストファー)はだいぶ苦しんだらしく、それから半年後に自殺したみたいだ」


「そんな……!」


クリスさまに、昔のように笑ってほしかった。ただそれだけだったのに。


死んで欲しいなんて、少しも思っていなかったのに……!


「ねえ、アンネマリー。ボクとしては、君や旦那が死のうが子供が家出しようがどうでも良いんだけど、ボクらのボスはそう思わないみたいでさ、君にやり直しの生を与えることになったんだ」


「やり直しの、生?」


「うん、そう。目を閉じてよ、アンネマリー。君を八歳の頃に戻してあげる」


***


「お嬢様! お目覚めになられたんですね……!」


メイドのミリーが目覚めた私を見て泣き出した。姉のようなミリー。前世私が自殺した後、彼女を悲しませてしまっただろうか。


「マリー!」


ミリーに呼ばれて部屋に入って来たのは、お父様、お母様、お兄様、お祖母様。お祖父様はもうお亡くなりになられている。たしか、私が生まれる前のことだったはずだ。


「元気になったのね、よかった」


お祖母様の安心するような声。


前世ではクリスさまを散々苦しめたお祖母様だけど、悪い人ではないのだ。


ただ孫娘()が可愛いだけ。


そう、婚約者として紹介されたクリスさまに、私が仄かな恋を抱いたから。公爵家の圧力が及ぶことを恐れた侯爵家の、私とクリスさまの婚姻を反対する勢力を潰し、私をクリスさまと結婚させた。


そして私の子ではないアントンを跡継ぎにしようとしたクリスさまを追い詰めた。


そんなことをしないでと、私の必死な訴えを、我慢しているだけと一蹴したことは今でも恨んでいるけど、お祖母様が私を愛してくれていることはわかっているので、どうも憎みきれない。


「そうだ、マリー。明日婚約者のクリストファー殿との初顔合わせだからね」


お父様の言葉に、私の意識は覚醒した。


私が守らなければいけない人。私のせいで、死んでしまった人。


今世こそ、彼のことを守ってみせる。


誰よりも大事な人、誰よりも愛しい人。


だからこそ彼のことは諦める。彼の幸せのために。


クリスさまには庶子がいたけれど、彼の母親を夫人の一人に迎えることはなかった。格上の公爵家から嫁いできた、正妻()に対する遠慮かもしれない。決められた婚約者がいたにも関わらず、子供が出来るほど愛し合った二人だもの。なんとか彼女を夫人に迎えることはできないものか……。


「はい、お父様」


私、アンネマリーはクリスさまを守るため、全力で婚約破棄に勤しみます。



***Side クリストファー***


「初めまして、アンネマリーです」


八歳の時、公爵令嬢アンネマリーと婚約した。公爵家の圧力が侯爵の位を戴く我がライエン家に及ぶことを恐れた家臣たちの中にはアンネマリーとの婚姻を反対する者もいたけれど、地道に説得しわかってもらった。


マリーの押し付けがましくない優しさを、僕は何より愛しく思っていたから。


マリーの甘やかな瞳。僕が抱いている気持ちを彼女も抱いているだろうことはその瞳を見れば分かるのに、マリーはいつも遠慮がちだった。


「真実の愛」


それを見つけるべきなんだと、マリーは言う。どうして? そんなの、もう見つかってるっていうのに。


マリーは好きな人がいるのだろうか。去年社交界に出て、益々美しくなったマリーの虫除けはしっかりやっていたつもりだったのだが。


「私の存在はクリストファーさまにご迷惑をおかけしてしまいます」


マリーは、彼女の家族がライエン家の継承者問題に口を出すのを心配しているのだという。そんな彼女は、クリスと呼んでと何度頼んでも、曖昧に笑うばかりで承知してはくれない。


「もし、私に男の子が生まれなくて、けれど庶子がいらっしゃった場合、その子を跡継ぎにしたいでしょう? けれどお祖母様とお父様はきっとお許しにならない」


「庶子? アンネマリー、それ本気?」


僕はきみだけが好きなのに。


「本気も何も、クリストファーさまはいずれ侯爵となられる御方。正妻の他に妻を二人娶ることができますわ」


「そんな一般論を聞いてるんじゃない」


そして無理やり唇を塞ぐ。


嬉しそうで、泣き出しそうな最愛の婚約者。何がそんなに君を苦しめる? 君を苦しめるもの全てから守ってみせるから、どうか。


僕を好きだと言って。


***Side アンネマリー***


それから数年後、私はクリスさまの花嫁として、ライエン家に嫁いだ。


やっぱり、運命は変えられないの?


ううん、そうと決まったわけじゃない。要はお父様とお祖母様のライエン家への介入を防げば良いんだもの。


それに、前世と違う点がいくつか。


まず一つ、この婚姻はお父様とお祖母様がゴリ押ししたものだったはず。お祖母様は王家の出身で、先代国王陛下の姉、つまり先代国王陛下は私の大叔父様。大叔父様にお願いして、私とクリスさまの婚約を取りまとめたが、ライエン領ではその婚約は反対されていた、というところまでは同じ。だけど前世では、大叔父様が亡くなられた後、『この婚約は先代陛下が取りまとめられたもの。すなわち、婚姻は先代陛下の遺命である』として反対派をねじ伏せたのだ。……だけど私が知る限り、お父様もお祖母様もそんなことをなさっていない。


二つ目、クリスさまに女の影の残像すら見受けられないこと。クリスさまに女性が近づかないと、子供は、アントンは生まれないはずなのに。


三つ目、ライエン家の人々が前世より好意的なこと。前世でも邪険にされていたわけではないけれど、権力を笠に着て無理にまとめた婚姻だったからか、どこか遠慮がちだった。


半年、悶々と考えた。けれど答えは出ずに、結局ミリーを頼ることにした。


「ねえミリー、おかしいのよ」


「何がですか、奥様」


「なんでこの屋敷の人たちは私にこんなに好意的なの? おかしいじゃない。私のせいで公爵家に圧力かけられるかもしれないのよ」


「そんなの旦那様見ればわかるじゃないですか……振り返ってくださいよ、旦那様の今までの行動を」


「? わからないわよ……それになんでクリス、トファーさまには女の影が見当たらないの? こんなんじゃ子供ができないわ」


「それ絶対旦那様に言わない方がいいと思いますよ……それこそ旦那様を見」


ミリーが最後まで言い切ることはなかった。


なぜなら、その美しい顔に微笑をたたえたクリスさまがドアの方に立っていたからだ。ーただし、目は全く笑っていない。


「また何か可笑しなことを言っているね、アンネマリー。ミリー、ちょっと外してもらえるか」


「かしこまりました」


え、ちょっと待ってよミリー。こんな怖いお顔のクリスさまと二人っきりにする気?


私の心の叫びが通じるわけがなく、ミリーはそそくさと部屋を出て行ってしまった。


「……マリー、質問に答えよう。あなたに屋敷の人々(みんな)が好意的なのも、僕に女の影ができないのも、みんな僕がきみを好きだからだよ」


「クリストファーさま」


「たしかに婚約がまとまった当初、領地ではきみとの婚約を反対する者が多くいた。自分の娘を僕に会わせて、正妻は無理でも将来的に子供を産ませ妻の一人にして、きみとの婚約を反故にしようとする者もいた」


もしかして、アントンはそうやって生まれてきた子なの?


侯爵家での反対意見が大きかったにも関わらず強行手段に出たから……。


「だけど僕はそんな人たちの一人一人を説得してまわったんだ。どうしてもきみと結婚したかったから。侯爵領の者たちはみんな知っているよ、僕がきみにベタ惚れだってね」


「クリストファーさま」


「ねえ、きみが真実の愛を見つけろだの、婚約を破棄しろだの言う度に僕がどれだけ傷ついたかわかる? 挙げ句の果てには、庶子がどうこう言い始めて。きみの中で僕はそんなにどうでも良い存在なの?」


「クリストファーさま、いえクリスさま。私はずっと、ずっと昔からあなたが好きです」


そう、前世から。


「ですが私の存在はあなたを苦しめるだけなのだと、ずっと逃げて参りました」


彼を幸せにしたかった。


自分の幸せは考えていなかった。


バカバカしい。自分を大切にできない人間が、ひとを幸せにできるわけがないのに。


「クリスさま、もう遅いのかもしれません。けれど良いと言ってくださるのなら、あなたが愚かな私をお許しくださるのなら」


私は世界で一番幸福な女になれるし、あなたも同じくらい幸福にしてみせます。


そう言うやいなや、傍のソファーに押し倒され、身体中に口付けを落とされた。


「愛してる、僕だけのマリー」


***


リービッヒ侯爵クリストファーには最愛の妻がいた。夫妻がどれくらい仲睦まじかったというと、男子五人女子三人の子供がいたくらいだ。


長男のアントンは、両親のあまりの仲の良さを少し恥ずかしく思っていたらしい。







ミリー以外の登場人物の前世は実在の人物をモデルにしました!江戸時代の人なのですが、わかる方いたらコメントくださいm(*_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 前世は結局どういうことだったんですか? アントンってクリスの子供なんですかね?愛人?無理矢理? 主人公のこと好きじゃなかったってことですかね?なのに自殺? でも、どっちにしろ浮気のクズ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ