プロローグ
目を開けるとそこにはもふもふが広がっていた。
何を言っているんだ。そう思うかもしれないけど、本当に、目を開けるともふもふが目の前に広がっていた。
ならば、思うことはただ一つ。
「なんだここ天国じゃないか。」
もう一度言おう。
私の目の前にはもふもふが広がっていたのである。
………
私、久川綾音はもふもふが大好きである。
文化祭の展示をサボってはもふもふに会いにいき、体育大会の準備を怠ってはもふもふを餌付けし、芸術鑑賞会を抜け出してはもふもふを愛でていた、恐らく世界で一番もふもふを愛している女子高生だ。
もちろん、そんなことをしていたので先生にこっぴどく説教をされていたのだが、もふもふを見られるのならばそれくらいは何の問題もない。
これでも素行以外は優秀なのだ。
これまでにもふった小動物の数は一万を超え、もふもふをただひたすらに愛でるために、学校の長期休みには世界中を旅していた。
だが、その私のもふもふ人生の中で一つ欠点があるとしたら………
「綾音。貴方また野良猫を触っていたでしょう。私はアレルギー持ちなのだから、自重して頂戴。」
家にちょくちょく来る婆ちゃんがもふもふに対してのアレルギー持ちで、家にもふもふをお招き出来ないのであるっ!!!
なんという拷問なのだろうか。
当時七歳だった私は世の中の残酷さに絶望した。
だから私は決めたのである。
高校を卒業したら、立派な社会人になって一人暮らしをしようと!!そして、今までバイトなどで貯めてきたお金をつぎ込んで作るのだ。
もふもふ(と私)のためだけのマイホームを!!
そう決意し、私は成績を常に一位キープしているのである。
正直に言って、数学Iだとか、古文だとか、第二外国語だとか、沢山のことを覚えるのは消して簡単ではない。
てか、テスト前はかなりキツい。もふもふとの接触を一時的に絶つ程に、高校の勉強は難しいのだ。これではバイトとの両立も出来ない。
だが、これも全てもふもふと過ごす未来のためである。
もふもふのためならばこんなものは苦ではない。それが私の寝不足に繋がろうと、もふもふと過ごすためならば私の目の下の隈も本望だろう。
今日も野良猫という名のもふもふを撫で回し、小さい爪で腕を引っかかれた感触を思い出しながら、部屋でその傷の手当てをする。
特に、消毒は大切だからな!!
いくらもふもふが大好きだからと言っても、引っ掻かれた傷をそのままにするほど馬鹿ではないのだよ!!
「さて、今日の晩御飯は何かなー?」
そう言いながら、制服を着たまま階段を駆け下りる。
最後の五段で一気に飛び降りた。いや、正確には降りたつもりだった。
「は?」
地面になんか変な模様が浮かんで、それに引き込まれるまでは。
なんか、すっごい眩しい光で目の前が見えなくなる。反射的に目を閉じたけど、それでも眩しい!!
やがて、光が収まり目を開けると、冒頭の天国が目に飛び込んで来たのだ。
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