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5億7600万年の寿命で魔王を倒す  作者: 元二
勇者カイ ~21年後~
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その6 襲われる町

「こんな場所に今更魔獣が出るなんてどう考えても不自然だ。邪神教団とやらには多分魔族が関わっている。」


 カイの言葉は衝撃をもってサーラとヘンリッキに受け止められた。

 魔族は魔人とも呼ばれる人型の高等生物だ。

 一括りに魔族と呼ばれるが複数の種族が確認されている。

 そのどれもが頭部に角を生やしている。

 魔王との戦闘が激しいかった時代には、帽子を被っているだけで角を隠している魔族ではないかと疑われることもあったと言われている。


「バカな! 魔族は魔王と共に滅んだはずだ!」


 ヘンリッキの言葉にカイは答えない。

 サーラはカイの態度から彼が魔族について何かを知っていることを察したが、この場で追及することは避けた。

 彼らの揉めている様子を見た御者が近づいてきたからである。


「先ほどはどうもありがとうございました。」


 カイは小さく頷く。


「いえ。それよりこれからどうします?」

「幸い近くに町があります。この乗合馬車のルートからは外れますが、今日はそこに向かおうと思います。」


 別の乗合馬車のルートに入る町が近くにあるらしい。

 彼はそこで役人に連絡、調査をすることになりそうだと言う。


「馬車を乗り換えなきゃいけないかもしれないね。」


 御者が去るとカイはサーラ達に話しかける。

 おそらく御者は調査に協力するためにしばらくその町で足止めされるだろう。

 つまり乗合馬車も当分移動出来なくなるということだ。


「仕方がないわ。魔獣が出たんですもの。」


 サーラの返事に意外そうな顔をするカイ。


「? どうしたの?」

「いや、もっと揉めるかと思ってた。」


 カイは一刻も早く王女を追いたいサーラがごねるのではないかと心配していたようだ。

 サーラは憮然としてカイに答える。


「私だってこの辺りの人達にとってこれが大変なことくらい分かっているわよ。」


 町の近くに大型の魔獣が出たのだ。きちんと調査されなければ付近の住人にとっては気が休まらないだろう。

 彼女だって親に騎士団を持つ身だ、そのくらいのことは分かるつもりだ。


 やがておっかなびっくり魔獣の死骸を見ていた乗客達が御者の男に集められる。

 御者の説明に特に不満も見せずに順次馬車に乗り込んでいく。

 時間に縛られる日本人と異なり、この世界の人間は基本的にみんな時間にルーズだ。

 何人かはカイ達と同様に他の馬車を探すだろうが、多くの者は町でのんびり馬車の出発を待つのだろう。

 馬車はガラガラと揺れながら街道を離れ、近くにあるという町を目指すのだった。




「お兄ちゃんまたね!」


 母親と手を繋いだ少年に手を振られながらカイ達は二日間世話になった乗合馬車を離れる。

 カイはいつもの笑みを浮かべながら少年に手を振り返す。


「美人のお姉ちゃんと頼りない兄ちゃんもね!」

「誰が頼りない兄ちゃんだ!」


 容赦ない素直な評価に憤慨するヘンリッキ。美人と言われ慣れているサーラは涼しい顔だ。

 少年はこの二日でカイ達が交友を持った数少ない乗客だ。

 とは言うものの一方的に話しかけられただけだが。

 大人でも厳しい乗合馬車に子供は彼しかいなかったため、年齢の近いカイ達に打ち解けたのだろう。


「全く失礼なヤツだ。」


 ヘンリッキはプリプリ怒りながらも本気で機嫌を損ねているわけでは無いようだ。

 意外と面倒見の良い性格なのである。

 彼らは今日宿泊する宿を目指して歩いている。

 御者の男からは、役人が話を聞きに行くだろうから宿で待機しておいてほしい、と頼まれている。

 どのみち疲労困憊のサーラ達が町を出歩くことはないだろうが。


「今日はカイも宿に泊まるのね。」


 昨日はカイは乗合馬車の客用の宿泊施設に泊まったが、今日はサーラ達と同じ宿に泊まることにしたのだ。 

 ちなみにこの小さな町に宿は一つしか無い。


「魔獣を倒した報酬に宿代をタダにしてもらえたんだ。」


 ホクホク顔のカイである。

 どこでも平気で寝られるカイだが、当然ベッドで寝る方が良いに決まっている。

 昨日宿に泊まらなかったのは単純に貧乏だからだ。


「セコイ奴だな。」


 呆れた顔をするヘンリッキ。


「そりゃあ君たちにとってみれば宿代なんてなんてことのない金額だろうさ。でも乗合馬車のほとんどの客は宿泊するだけのサービスに払うお金は持って無いんだよ。」


 さらりと告げられた内容にバツの悪い思いをするサーラとヘンリッキ。

 さっきの少年も無料の宿泊施設に寝泊まりするということに気が付いたのだ。

 自分達だけがベッドで寝る。そのことに罪悪感を覚えるサーラ達。

 カイはそんな彼らを見ていつもの微笑みを浮かべる。


「気にすることはないよ。みんな慣れているからね。それにお金を持っている人はちゃんと使って町にお金を落としてくれなきゃ。」


 そう言われてもなかなか気持ちを切り替えられないサーラ達。

 そしてカイはそんな彼女達の感性を好ましく感じるのだった。




 日が沈むと町は夜の闇に包まれる。

 よほど大きな町でもなければ夜になればみんな寝てしまう。

 乗合馬車の宿泊施設ではすでに何人かが寝転がっていびきをかいている。

 ついさっきまで話をしていた少年の母親も今では寝息を立てている。

 少年は一人寝付けずに天井を見上げていた。

 目を閉じると脳裏に昼間見た巨大な魔獣とそれをあっさりとやっつけたカイの姿が浮かんだ。


 カッコイイ! 俺も大きくなったら絶対にカイみたいになるんだ!


 少年は母親と共に父親の住む村へと帰るところだった。

 父親は村で自警団に入っている。頼めば槍を教えてくれるかもしれない。

 彼はカイのように自分が巨大な魔獣をひと突きで倒す姿を想像すると興奮して眠れなくなった。


 ふと何かの影が少年の視界を横切った。

 少年は何気なく体を起こした。

 木造の宿泊施設は何か所も壁に隙間が空いている。

 その隙間から月明りが入っているのだが、外を通った何者かの影でそれが遮られたのだ。

 少年は音を立てないようにコッソリと窓に近づくと鎧戸をわずかに開けた。


 月明りの中、静まり返った町の通りに蠢くいくつもの小さな影。


 少年はその姿を知っている。いや、両親から聞かされて育った。

 それは子供ほどの大きさの人型の生物。

 長い腕、歪な容姿、額には角。


「ゴ・・・ゴブリン!!」


 少年の悲鳴に通りのゴブリン達が一斉に振り返る。

 その赤い目に射竦められ悲鳴も上げられない少年。

 ゴブリンの一匹が手にした杖を少年に向けた。


 それが少年の見た最後の光景だった。




 町が喧騒に包まれる。

 隣の部屋の壁に何かが打ち付けられた音がした。

 寝起きの悪いサーラだがこれには流石に目を覚ますと眠気の覚めない重い頭を振る。

 その時宿に漂うただならぬ気配に気が付き、辺りを見渡していたところで部屋のドアを乱暴に叩かれた。


「サーラ! サーラ! 起きて!」


 ヘンリッキの声だ。


「起きているわ! どうしたの?!」


 サーラの声にヘンリッキは安心したようだ。

 ドア越しに彼の安堵の気配が漂ってくる。


「町が大変なんだ! ゴブリンに襲われている! 町は火の海だよ!」

次回「燃える町」

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