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5億7600万年の寿命で魔王を倒す  作者: 元二
番外編 SUMMER VACATION 2019
27/28

SUMMER VACATION 2019 プロローグ

この章は夏休み特別企画としてお送りする番外編です。

本編のストーリーには何の関係も無いイベントのようなものになります。

 王都の大通りは群衆で埋め尽くされていた。

 やがて人込みを割るように騎乗した騎士達が馬を進めてくる。


「王女様だ! 王女様の馬車が来た!」「王女様ー!」「マーリア様ー!」


 騎士達に囲まれて一台の馬車が姿を現すと群衆の興奮はピークを迎える。

 その馬車に乗るのはこの国の王女マーリア。

 魔王を信奉する魔神教団に攫われた王女の無事な帰還というニュースは、王都の民に喜びをもって迎えられていた。


「スゴイ騒ぎだね。」「それだけマーリア様が皆に慕われているのよ。」


 別の馬車の中でこの騒ぎを見ているのは学園の制服を着た一組の男女。

 王女の人気をまるで自分の事のように誇らしげにしている少女はサーラ。凛とした眼差しの美少女である。

 そんなサーラの隣に座って窓の外を見ているのは少しふくよかな頼りなさそうな少年。ヘンリッキである。


 実は彼らこそがマーリア王女を救った立役者なのである。


 しかし、サーラ達がそれを誇る事は無いだろう。

 この場にいない三人目の少年。カイこそが王女を救った英雄である事を誰よりも知っているのはサーラ達なのだ。

 カイは霧の森ーー魔王の砦で行方不明になっている。現在も生死不明の状態だ。

 だが、サーラ達は彼の無事を信じている。王女の無事を見届け次第、サーラ達はカイを捜しに森に戻るつもりなのだ。



「カイ?」


 窓の外、熱狂する群衆を見ていたヘンリッキが間の抜けた声を上げる。

 訝し気にヘンリッキの視線の先を見るサーラ。その目が驚愕に見開かれる。


「ええええっ! どういうこと?!」


 叫んで立ち上がるサーラ。


「ちょ、危ないから、座って、危ないって!」


 ヘンリッキを押しのけて馬車の窓から身を乗り出すサーラ。

 危うく馬車の窓から放り出されそうになって慌てるヘンリッキ。

 サーラの視線の先には、いつもの笑みを浮かべてのんきに手を振る一人の少年の姿があった。


 こげ茶色の髪を短く刈りこんだ物腰の柔らかなハンサムな少年。

 カイである。


「カイイイイイイ!」


 絶叫するサーラを乗せた馬車はカイの前を通り過ぎて王城へと向かって行った。




 21年前、猛威を振るっていた魔王は何者かによって滅ぼされた。

 勇者と呼ばれたカイによるものだが、そのことを知る者はいない。

 すでに勇者カイは死んだと思われていたからだ。


 21年後、王国は急速に復興を遂げていた。

 そんな中、学園に通う王女が何者かによって攫われる。

 それは王女を生贄に魔王復活を目論む魔神教団の仕業であった。

 カイと騎士団副長の娘サーラと騎士団隊長の息子ヘンリッキの三人は数々の死闘をくぐり抜け、無事に王女を助け出すことに成功したのだった。




「ちょっと、待ってよサーラ。」

「あなたが遅いんでしょ! 置いて行くわよ!」


 マーリア王女を無事王城へ送り届けた二人はその足でカイの所にーー行けるはずもなく、別室で様々な質問を受ける事となった。

 何度も似たような質問を繰り返しされ、サーラは内心かなりイライラが募っていたが、幼い頃から騎士団副長の父に厳しく躾けられた彼女は行儀よくそれらに対応した。

 結局、夜も更けた深夜になってからようやく彼女達は解放されたのである。

 そして翌日、サーラはヘンリッキを伴ってカイの住むこの難民区画へと足を運んでいた。カイに会うためである。


 しかし彼女の望みは叶わなかった。



「ん? ひょっとして姉ちゃん達がカイを訪ねて来る人達かい? カイから伝言を預かっているぜ。」


 難民区画の奥にある一軒のボロ屋。以前サーラ達がカイを訪ねて来たあの家の前に、幼い少年が立っていた。

 少年のすぐそばには幼い妹が地面に落書きをして遊んでいる。

 どうやら少年は妹の子守りをしながら、カイに頼まれてここでサーラ達を待っていたようである。


「おい、チビ、カイはいないのか?」

「いたら俺がここにいる必要ないだろ? 兄ちゃん頭悪いんじゃねーの?」


 呆れ顔の少年にバッサリ切られてカチンとくるヘンリッキ。


「ヘンリッキは黙ってて。それでカイから伝言って?」

「ああ、ここに美人の姉ちゃんとおっとりした兄ちゃんの二人連れが来たら、”用事が出来たのでまた今度”って伝えとくように言われたのさ。じゃあな。ちゃんと伝えたからな。」


 そう言うと少年は妹の手を引いて去って行った。

 ポカンとしたままその後ろ姿を見送るサーラ。


「”用事が出来たのでまた今度”って、わざわざ伝言を残すほどの内容?」


 ヘンリッキは微妙な表情である。

 その言葉でサーラは再起動した。

 湧き上がる怒りにわなわなと体を震わせる。


「私達がどれだけ心配したと思っているのよ! それなのに何?! いつの間にか先に王都に帰ってニコニコしながらマーリア様に手を振っているし、訪ねて来たら家を空けているし! もう、何なのよ!」


 余程腹に据えかねたのか、路上で地団太を踏んで怒鳴り散らすサーラ。


「ま・・・まあ、先に帰ったのは、ほら、僕達はスオサーリの町で足止めを食らってたから・・・」

「だったらスオサーリで訪ねて来れば良かったじゃない! 何で先に帰っちゃうのよ!」


 ヘンリッキを怒鳴りつけるサーラ。ヘンリッキは自分の失敗を悟る。

 迂闊な一言のために、この場にいないカイに対する怒りのやり場として自分がサーラにロックオンされてしまったことに気が付いたのだ。

 しどろもどろになりながら、したくもない弁解を重ねるヘンリッキ。怒り心頭のサーラ。

 昼間からうるさい二人のやり取りに付近の住人は迷惑そうな目を向けるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「どうしたんだニャー?」


 目の前の大きな白猫がカイに話しかける。

 神の使徒、白猫ヴァルコイネンである。

 カイは小さく肩を竦めると小声で、何でもない、と答える。


「ふと何となく、対応を誤ったかもしれない、って気がしただけだよ。気のせいだよね。」


 ヴァルコイネンは大きく口を開けて欠伸をする。

 二人は海に浮かぶ小島に向かう漁船に乗っている。

 近くの漁村の漁師に頼み込んでようやく運んでもらえることになったのだ。


「ん? 坊主、何か言ったか?」

「ああうん。島が見えてきたなって。独り言だよ。」


 漁船を漕いでいる漁師が尋ねてくるのを適当にあしらうカイ。

 どうやらヴァルコイネンの姿はカイにしか見えていないようだ。



 ヴァルコイネンは現世に還俗しているため神の使徒としての力は落ちている。

 しかし、それでもまだ一部はまだ神と繋がっている。

 数日前その繋がりを経由して神からカイに調査が命じられたのだ。


ーー近海に現れた怪しい島を調査せよーーと。



「でも、どう見ても普通の島だよね。」

「あ・・・ああ、あれっ? 俺は何をしているんだ?」


 急に不安げにキョロキョロと辺りを見渡す漁師の男。

 カイは目の前のヴァルコイネンが姿を消している事に気が付いた。

 この状況を説明できる答えにカイはひとつだけ心当たりがあった。


 これは、まさか魔王の領域?!


 異世界の神である魔神の先兵たる魔王は、かつて自分の領域に人間を近付けないように幻覚を見せる霧を用いた。

 霧を吸った者は様々な幻覚に囚われ、最後は死に到る。


 ちなみに勇者であるカイは精神系の攻撃を受け付けない。

 正確には精神系の効果はその人間の持つ”才能値”の高さによって左右される。

 勇者は常人の10倍以上の”才能値”を持って生まれてくる。カイはその勇者の中でも飛びぬけて”才能値”が高かった。

 事実上カイが精神系の攻撃を受ける事は無いといえた。


 漁師はカイの事を忘れたかのように船を元来た方へと戻しだした。


 仕方が無いか。


 カイはため息をつくと服を脱ぎ、荷物を手に海へと飛び込むのだった。




「やれやれ、いきなりヒドイ目に会ったよ。」


 島に上陸したカイは服を絞って羽織った。冷たく濡れた服が肌に張り付く感覚は不快だったが、人がいるかもしれない島をパンツ一丁で歩くわけにはいかない。


「取り合えず道があるって事は人が住んでると考えてもいいんだよね?」


 目の前の茂みにはそこだけ踏み固められた道が見える。

 カイは荷物の中から背丈ほどの杖を取り出す。杖は先が輪になっていてそこにさらに6つの小さな輪が掛かっている。

 お坊さんが持っている錫杖と言えば通じるだろうか?


「さて、神様がわざわざ調査を命じるほどの島だ。用心してかからないとね。」


 用心、と口に出して言う割にはカイは無造作に道の先へと足を踏み出す。

 やがてカイの姿は森の奥へと消えていった。


 神が警戒するほどの島には一体何があるというのか。


 この島でカイはかつてない奇妙な経験をすることになるのである。

この章はプロローグだけで、本編はありません。

いつまでも続きを待っていても更新はされませんのでお間違えの無いようにお願いします。

この後の話はイベント作品『四式戦闘機はスキル・ローグダンジョンRPGで村では小柄で5億7600万年』(https://ncode.syosetu.com/n6700fp/)の中で語られる事になります。

そちらでカイの活躍をお楽しみ下さい。

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