終章 後日談
それからはもう大騒ぎだった。
スオサーリの町でサーラ達は町の代官に面談した。
その後は密偵の青年、ラファエル・リクハルド・コスケンサロネンが全てを取り仕切った。
日頃の軽い言動からは想像もつかないが、彼はかなり優秀な青年だった。
王女は何不自由なく代官の屋敷の一室でもてなされた。
サーラとヘンリッキは王女の護衛にかかりっきりになった。
王女にひと目挨拶をしようと、連日地元の有力者や周辺の貴族が押し寄せたからだ。
「カイはどうなったんだろうね。」
「・・・町の兵士達が捜してくれているはずよ。見つけたら私達に知らせが来るはずだわ。」
ふと時間が空いた時、二人はそんな会話を交わす。
しかし、結局彼女達の元にカイを発見したという知らせが来ることは無かった。
10日ほど後、王都から王女の馬車と護衛の騎士団員達が到着し、王女は彼らに守られながら王都への旅路に付く。
サーラとヘンリッキは護衛と共にやってきたサーラの父、騎士団副団長アダムスと共に護衛の馬車で王都まで帰ることになった。
ちなみにこれから半年後、もうすっかり霧の晴れた森に入った兵士達は、森の奥にサーラ達の言った通り巨大な砦を発見することになる。
砦の奥の地下室は扉が壊されており、中は壁も柱もズタズタで、まるで嵐か何かが荒れ狂った後のような有様だった。
その廃墟と化した地下室で兵士たちは一本の杖を発見する。
それが大教祖ヴォルティネリの持つマジックアイテムということが判明するのは、それからさらに先のことである。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「良く無事に任務を果たしたなチッチ。」
ここは護衛の馬車の中、密偵の青年は彼の上司に今までの事を報告している最中であった。
青年の活躍を王女から直接聞いていた上司はすでにホクホク顔である。
なにせ王族の前で情報部署としての面目を大いに保つことが出来たのだ。
「俺様はチッチなんて名じゃねえ。俺様の名前はラファエル・リクハルド・コスケンサロネンだ。」
「いや、お前の本名はチッチ・トットだろ。」
反射的に言葉を返す上司だが、すぐに、そういえばコイツはこんな面倒なヤツだった、ということを思い出す。
「そんなペットにつけるような名前は俺様の名前じゃねえ! 俺様の名前はラファエル・リクハルド・コスケンサロネンだ!」
「そういえばお前・・・王女殿下にもその名前で通したそうだな・・・」
上司はうんざりした顔を見せる。
「通すも何もラファエル・リクハルド・コスケンサロネンは俺様の魂の名前だ!」
これさえなければ有能な男なんだが・・・上司は諦めて天を仰いでため息をつくのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
サーラは父にカイのことを報告していた。
「父上、カイは21年前に死んだと言われている勇者なんですね?」
サーラの言葉に隣に座っていたヘンリッキが驚く。
そういえばヘンリッキがいない時に聞いたんだったわ。と、思い出したサーラだったが今はそれどころでは無いのでスルーする。
「・・・本人がそう言ったのか?」
「はい。」
「そうか・・・。」
ここから先の話は他言無用。そう前置きをしてからの父の話はサーラにとって信じられないものだった。
「そんな・・・騎士団のトップが勇者を殺したなんて・・・。」
ヘンリッキは父親である騎士団団長に聞かされたことがあるのか、苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
彼とて当然納得しているわけではないのだ。
当時カイは、能力の低い使えない勇者として一部の者達から疎まれていた。
それに加えて当時の騎士団団長の野心。勇者を慕う現女王ーー当時の王女。平民であるカイを排除しようとする一部貴族と、それに与する王子達の暴走。
それら様々な目論見が絡み合って、勇者抹殺という愚挙が為されたのだ。
「私は彼が勇者の選抜者として城に来た時から世話をしていた。だが、当時の私は部隊のいち隊長に過ぎず、カイを助けることが出来なかった。」
カイは確かに死んだ。焼け焦げた死体を直接確認したし、彼が死んだその日から聖剣は鞘から抜けることはなくなった。
神器である聖剣は勇者にしか使えないマジックアイテムだ。
主を失った聖剣は、次の主が手に取るまで鞘から抜けなくなってしまう。
密かにカイを慕っていた王女は怒り狂った。
彼女はカイを疎んじた自分の兄弟達を政争で追い落とした。
そして国の実権を握った彼女は王女となり、王子らにいらぬ言葉を吹き込んだ反勇者派の貴族達を次々と粛清した。
騎士団も大幅な入れ替えが行われ、その結果、ヘンリッキの父やサーラの父がトップに抜擢された。
彼らは平民に対して選民的な思想を持たないことが決め手になった。
女王になった彼女は、魔王の死から始まる一連の混乱の中でこれらの改革を大胆に行った。
二度とカイのような悲劇が起きないように、ただそれだけのために貴族と平民の垣根を払う政策を次々と打ち立てたのだ。
「そして私はある事件でカイに再会することになった。それはまだサーラが赤ん坊だった時のことだ。」
突然自分の名前が出てきたことに驚くサーラ。
ある時、平民寄りの政策を打ち出す女王を目障りと感じた貴族達が、警告のために騎士団副団長の娘であるサーラを誘拐しようとしたのだ。
女王と実行部隊である騎士団の反目を狙って行われたこの卑劣な犯行は、しかし、一人の少年によって未然に防がれることになる。
それがカイであった。
赤ん坊を抱くカイの姿にアダムス副団長は驚愕した。
カイが生きていただけでも十分に驚きなのに、カイは6年前の少年の姿のままだったのだ。
それからアダムスは年に一度か二度ほどカイの家に訪れるようになった。
そしてあの日からさらに15年たつが、彼はあの日と変わらない姿のまま、あの場所にひっそりと身をひそめている。
休憩時間。馬車にもたれかかるようにしてサーラが地面に座っている。
「ヘンリッキはさっきの話を聞いてどう思った?」
サーラがヘンリッキの意見を尋ねる時は相当に迷っている時だけだ。
彼女は即断即決。考えて立ち止まるより決断して行動する方を選ぶタイプなのだ。
黙ってサーラの話を聞くヘンリッキ。
「勇者として祭り上げて、その能力が無いとか平民だからとかいう理由で彼を裏切って、それでもカイは王国のために戦って。それに今回だって・・・。」
サーラの隣に座るヘンリッキ。
「サーラはどうしたらいいと思う?」
「・・・分からないわ。私に何が出来るのか・・・」
「ならどうしたいと思う?」
サーラは伏せていた顔を上げる。
「王国は彼に報いるべきだわ。そうか、そのために女王陛下は、カイのような平民が不当に差別されないように平民寄りの政策を取られているのね。なら私のすることは女王陛下のように分け隔てなく平民と接することだわ。」
立ち上がるサーラ。
「マーリア様を王都へお連れした後、私はカイを探すためにもう一度スオサーリの町に戻るわ! そしてカイと友達になる! カイを見つけるまで二度と王都には戻らないわ!」
答えを見つけたサーラは興奮して拳を振り上げる。
「やれやれ、また僕は付き合わされるんだね。」
「何よ! 文句でもあるの?!」
サーラは本当に迷った時だけこうやってヘンリッキに聞くが、結局いつも自分で答えを見つけてしまうのだ。
呆れつつもそんなサーラを頼もしく思うヘンリッキ。
「僕が先にカイを見付けても怒らないでよね。」
「そんなことで怒るわけないじゃない!」
「どうだか。」
大声を上げて戯れる若い二人を生温かく見守る騎士団員達。
王女は少し離れた場所でそんな学友達を見つめる。
きっと生きていらっしゃいますよね勇者様。
王女はサーラの話から、彼女達の協力者が勇者カイであることに気が付いていた。
それも当然だ。王女は母親である女王からカイの話を聞かされて育ったのだから。
どこかで白猫の鳴く声がした。
ニャーン
これで本編終了となります。
主人公の今後や勇者としての過去話等、書いてみたいエピソードはありましたが・・・
ここまで続けてブックマーク登録3件ですからね。
正直へこみました(苦笑)
元々はバトルを中心にした作品を書いてみたくなったのがきっかけでした。
そのため日常パートを少なくして旅やバトルをメインに据えてストーリーを構成したのですが・・・面白くなかったんでしょうね。
評価してくれた人も2人ですし、これはもう続けることでどうこう出来る範囲を超えていると考え、残念ながらここで諦めることにしました。
反省して出直してきます。
最後に、ブックマークに登録して下さった方、評価して下さった方、どうもありがとうございました。
あなた方のおかげで最後まで続けることが出来ました。
残念ながらこの作品はあなた方の期待に応えることが出来ませんでしたが、私の書いた他の作品を楽しんで頂ければ幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




