その20 ヘンリッキの戦い
「痛ててて・・・。ここは?」
ここは石造りの牢屋。
ポツンと一人放り込まれた少年が、痛む腰をさすりながら起き上がる。
少しふくよかなどこか頼り無さそうな少年。
ヘンリッキである。
「ええと・・・確か無人の村で教団の奴らに襲われて。やっつけた後はどうなったんだっけ?」
密偵のふりをして彼らに近づいて来た教団の追手に誘い込まれた村で、彼らは待ち伏せていた教団の殺戮部隊と戦った。
ヘンリッキは教団の女暗殺者に気絶させられ、霧の森の奥、かつて魔王の砦だったこの場所まで攫われて来たのだ。
どうやら腰の痛みは牢屋に放り込まれた時に打ち付けたものらしい。
「そうだ! サーラ! サーラはどうしたんだ?!」
「良かったヘンリッキ。目を覚ましたのね。」
女性の声に驚いて飛びあがるヘンリッキ。
いつの間にか彼の後ろにサーラが立っていた。
手にはいつもの剣を持っている。
「サーラ、大丈夫だったの?!」
「何言っているの、助けに来たのよ。」
サーラはヘンリッキに詰め寄る。
目と鼻の先に突きつけられたサーラの美貌にヘンリッキはドギマギする。
「さあ、早く出るわよ、鍵を出して。」
「えっ、どういうこと? ・・・あれ? ああこれか。」
いつの間にかヘンリッキは古びた鍵を手に握り込んでいたようだ。
慌てて手の中のカギをサーラに渡す。
その時サーラの指がヘンリッキの手に触れる。
ヘンリッキの心臓がドキリと跳ね上がった。
(ど・・・どうしちゃったんだ僕は。何で今日はこんなにサーラを意識しているんだ?)
同い年でありながら男勝りのサーラと頼りないヘンリッキは昔から姉弟のような関係だった。
確かにサーラは美人だが彼は今までサーラにあまり女性を感じたことは無かった。
(そういえば危険な場所では男女の仲が深まるって話があったような・・・吊り橋効果だっけ? 確か恐怖のドキドキを恋愛のドキドキと勘違いしちゃうんだよな。)
ヘンリッキが自分に芽生えた感情に戸惑っている間に、サーラは鉄格子の向こうに手を伸ばして、外にかけられた錠前を開けようとする。
サーラの引き締まったヒップが目に入りヘンリッキは慌てて目を反らす。
「ようやく開いたわ。何してるの行くわよ。」
軋む音をたてて鉄格子が開くとサーラはさっと出て行く。
慌ててサーラに続くヘンリッキ。すでにいつも通りの二人であった。
石造りの古びた廊下を息を殺して歩く二人。
「ねえ、ここってひょっとして・・・。」
「ええ。霧の森の奥、魔王の砦よ。」
やっぱり! いつの間にか目的地に到着していたことに驚くヘンリッキ。
「じゃあ王女殿下も?!」
「ええ、今向かっているところよ。」
カイは陽動として教団員と今も戦っていると言う。
ヘンリッキは事態の急展開に何とか付いていこうと頭を働かせるが、彼が落ち着くより先に目的地に到着したようだ。
大きな扉の前に二人の教団員が立っている。おそらく見張りだろう。
サーラは手にした剣を構える。それを見てヘンリッキも背中の槍を抜く。
阿吽の呼吸で同時に飛び出す二人。見事な連携で教団員を血祭りにあげる。
「あった、多分これが部屋の鍵だよ。」
「貸して!」
死体のベルトに鍵束を見つけるヘンリッキ。
焦っているのかヘンリッキに抱き着くように奪い取るサーラ。
サーラの体温と体臭を感じて赤くなるヘンリッキ。
(本当に今日の僕はどうかしているぞ。)
自分の変化を悟られないように慌ててサーラから距離を取るヘンリッキ。
幸いサーラはそれどころでは無いようだ。扉に駆け寄ると部屋の鍵を開ける。
勢いよく開かれる扉。
「マーリア様! サーラです! 助けに来ました!」
「ちょ、サーラ、声が大きいよ。教団の奴らに見つかったら・・・」
慌ててサーラを追いかけて部屋に飛び込むヘンリッキ。
だが彼は部屋の光景に思わず固まってしまった。
部屋の中は甘ったるい香の匂いで満たされていた。
だらしなく寝そべる半裸の女性達。王女マーリアはその中心で薄い布を体に巻き付けた裸も同然の姿でだらしなくクッションに身を預けていた。
目のやり場に困ってキョドるヘンリッキ。
王女はどこか焦点の定まっていないトロンとした目をこちらに向ける。
「マーリア様! 良くご無事で!」「ああサーラ、助けに来てくれたのね嬉しいわ。」
サーラは王女に走り寄ると王女を抱きしめる。王女はサーラの目を見つめる。
そして唇を重ねる二人。
「何やっているんだよサーラ!」
慌てて駆け寄るヘンリッキ。しかし女性達が立ち上がりヘンリッキに抱き着いて彼の体の自由を奪う。
柔らかい女性の体に包まれて真っ赤になるヘンリッキ。
なんと王女はサーラの服をするすると脱がせていく。
なぜか抵抗もせず、されるがままになっているサーラ。
(ど・・・どうなってんだよ、これ?! はっ! そうか、部屋に充満しているこの甘い匂い! きっとこれは特殊な媚薬なんだ!)
ピンク色の靄がかかったような頭で懸命に考えるヘンリッキ。
「サーラ、正気に返れ! 意識をしっかり持つんだ!」
だがヘンリッキの叫びも虚しく、ついにサーラは王女の手によって生まれたままの姿にされてしまう。
思わずゴクリと喉を鳴らすヘンリッキ。
サーラの白い裸は神々しく眩しかった。
そんなヘンリッキに王女が濡れた目を向ける。
ドキリ!
その淫靡な眼差しに、若いヘンリッキの男の中枢が反応する。
「辛そうねヘンリッキ。私とサーラが慰めてあげましょうか?」
王女の言葉にヘンリッキはいつの間にか自分が裸にされていることに気が付いた。
王女は彼の興奮の中心をじっと見つめる。
ヘンリッキはカッと頭の芯が熱くなるのを感じる。
「さあ、サーラ。」
王女に促されるまま一糸まとわぬ姿で彼に近づいてくるサーラ。
そうして彼女達は体の自由を奪われたヘンリッキにしなだれかかる。
美少女達の甘い匂いにヘンリッキの頭はクラクラする。
(だ・・・駄目だ、媚薬のせいで抑えが効かないぞ。くそう、この媚薬がいけないんだ。媚薬さえなければ。僕は・・・僕は)
◇◇◇◇◇◇◇◇
「やめるんだサーラ! もっと自分を大事にするんだ・・・って苦ああああ!」
飛び起きて口の中の木の葉を吐き出すヘンリッキ。
ここは最初に入れられた牢屋の中。
ヘンリッキはキョトンとして目の前の美少女を見つめる。
「私が自分を大事にってどういうこと?」
「あ・・・あれ?」
牢屋の中にいるのは三人。
さっきまで床で寝ていたヘンリッキ、そしてサーラ、もう一人は派手な格好をした知らない青年だ。
もちろんサーラもヘンリッキも裸ではない。この旅の間ずっと着ていた学園の制服だ。
何か事情を知っているのか、青年はニヤニヤと笑いを堪えている。
「あの・・・この人は?」
「彼の名前はラファエル・リクハルド・コスケンサロネン。教団に潜入していた密偵よ。」
「よう少年、俺様の名前はラファエル・リクハルド・コスケンサロネン! 適当にラファエルさんなんて呼ぶんじゃねえぞ? 俺様の名前を呼ぶ時は必ずフルネームで呼べ! それと元気が有り余っているのは結構だがレディの前では隠せ! 以上だ!」
指摘されたことで自分の元気に気が付いて、慌てて体育座りになるヘンリッキ。
突然(股間を隠すために)縮こまったヘンリッキに驚くサーラ。
そんな二人を見てゲラゲラと大笑いする青年だった。
次回「王女マーリア」




