表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/29

第一章最終話 私は滅びなんて望んでない。

『ま、なかなか頑張ったほうじゃない?』


 偉そうな声がした。

 魔女だ。

 彼女は真っ赤な衣を着て、私の目の前にいる。

 髪も瞳の色も真っ赤。

 肌だけが抜けるように白くて、人間じゃないみたいだ。


『全力で使ってくれたら、この世界を滅ぼすことが出来たのだけれど。案外自制心が強いのね』


「あんた、そんなこと狙ってたの! 協力してくれるやつだと思ったのに」


『まさか。私は終末の魔女よ? 遅かれ、早かれ、私は世界を終わらせるモノなの。だからマサムネ。私を宿したあなたは、いつかこの世界を終わらせるわ』


「そんなの、お断りだ」


『うんうん、今は自由にしたらいいと思うのよ。だけれど、いつかあなたが絶望したり、どうしようもない状況に陥ったりした時は、楽になりたいと願うといいわ。そうしたら私の力が、何もかもを滅ぼしてしまうから。いい? あなたが諦めた時。考えるのを止めた時。全部どうでもいいと思った時。それこそ、私が待っている時よ。ああ、待ち遠しいわ』


 魔女はそんなとんでもない事を言いながら、笑った。

 間違いなく、これは彼女の本心だ。

 私はゾッとした。

 なんという、とんでもないものが私の中にいるんだろう。


「なんで私だったの」


『あなたが世界を呪っていたから』


「呪ってない!! 勝手に人の考えを決めるな!」


『うふふ、ふふふふふ。あなたの中には、あなたも知らないあなたがいる。それはどうしようもなく虚無で、何もかもどうでもいいと思っている。いつか必ず現れるそれが、私を呼んだの。私は終末の魔女……滅びを望む心があれば、自動的にやってくるの』


「私は滅びなんか望んでない。っていうか、絶対にあんたが望むようなことにはならないから。絶対」


『ひねくれ者ねえ』


 それが、彼女との最後の会話だった。


「──ムネ! マサムネ!」


 ここ数日で、随分聞き慣れた声が、私の名を呼んでいた。

 そして、私の意識は急速に覚醒していく。





「あ、ああ、おはよう、姫」


 目を開いたら、すぐ近くに姫の顔があった。

 真っ青な瞳が、少し潤みながら私を見つめていた。


「おお、おお! 目覚めたか、マサムネ!!」


「姐さんが起きたぞ!」


「うおー! 大丈夫ッスかー!」


「心配だったッスー!!」


「姐さーん!!」


「君、無事か!」


「おお、よくやったなあJK!」


「大したもんだわ」


「姉ちゃんがやったのか!? すげえ!」


「マサムネくん! 無事で良かった……!」


 みんなの声がする。

 姫に、四人組に、悟さんとセクハラお兄さん、春香さんと私の胸のことばかり言う少年、聖戦士おじさん。

 人、多いなあー。

 いや、ほんの四日くらい前には、私はぼっちだった気がするんだけど。


「心配したぞマサムネ! 一時間経っても、二時間経っても目が覚めて来ないのだから……! そなたがもしも目覚めなんだら、妾はどうしたらいいのか……」


「そっか。そうだよね、私がいないと、姫は怪獣退治困るし」


「馬鹿者! それだけではない! そなたはこの世界で、妾が最初に見つけた……その、あの────友だ!!」


「おお……」


 友!

 そっか、友達かあ。

 一方通行じゃなかった。

 良かったー。


 目覚めた私は、思ったよりも体が軽かった。

 姫の手を借りなくても、ひょいと立ち上がれるのだ。

 いつもだったら、そこまで体が動かない気がするんだけど。

 ────終末の魔女め、サービスのつもりか?


「ゾンビが統率を失って、ばらばらに動き出したんだ。半分は動きを止めた。動かなくなったゾンビは、もうただの死体だね」


 先行した悟さんが案内してくれる。

 校庭のあちこちに、ゾンビだったものが転がっていた。

 ばらばらに動き出したと言われているゾンビは、まるで戸惑っているみたいだ。

 異常に血色は悪いけれど、あれってもしかして意識を取り戻したんじゃないかな?


「あれっ!? ゾンビが一匹こっちに走ってくるぜ!」


「なんだって!」


「迎え撃たなくちゃ」


「やっちまえー!!」


 少年が気付いたのは、見覚えがある制服のゾンビだった。

 あれは、道永の取り巻きだった女子の一人だ。

 もしも道永の支配から解放されたゾンビが、意識を取り戻すのだとしたら。


「ちょっと待って、みんな! リュウ、トラ、ホー、カメ、ステイ!!」


「へい!」


「へい!」


「へい!」


「へい!」


 四人組は大人しくなる。

 悟さんたちも動きを止めた。

 いきなり迎撃体勢に入ったみんなに、ちょっとびっくりしていたように見えたゾンビ。

 みんなが動かなくなったので、そろり、そろりと私に近づいてきた。


「えっと、その、違ってたら悪いんだけど」


「ゾンビが喋った!」


「ゾンビが喋った!」


 みんながざわめく。

 そうだよね。

 ゾンビって今まで、「あー」とかしか言ってなかったもん。

 今の彼女は、ゾンビなのにきちんと自分の言葉で喋っている。


「誰がゾンビよ!? あたしは普通の高校生だから!! 大体、ゾンビなんて外見じゃ……」


 彼女はポケットからコンパクトを取り出して自分の顔を見て、カッと目を見開いた。

 そのまま白目を剥くと、ばたんと倒れる。


「あー! 気絶した! もう、話が進まないなあ!」


 私は慌てて駆け寄り、彼女を助け起こした。

 彼女の名前は、伊州藤子(いしゅうふじこ)

 道永と一緒になって、私を馬鹿にしたりしていた女子で、個性というものを感じたことはない。


「うー、あー」


「ゾンビみたいな呻き声」


「ぞ、ゾンビ違うわ! あたしは普通だから! 普通、普通……。今のは鏡がおかしいの……って」


 伊州は目を開いて、私を見た。


「やっぱり! そのデリカシーのない言い方! あんた、マサムネね!? あ、いや、道満さん……」


 みんなの目を気にして、言い直す伊州。


「マサムネでいいってば。姫、これって、完全に自分の意識があるんじゃない?」


「ああ。全くだ。驚いた……。ゾンビにされたものが、自分の意識を取り戻すことはない。だが、ありえない事が起きてしまっているのだろう。これは恐らく、世界が重なった影響なのだろう。つまり……二重存在として後天的に覚醒したのだ」


「へえー。新種誕生じゃない」


「何、それ。二重存在? ゾンビと、あたし?」


 伊州がとても嫌そうな顔をした。


「元ゾンビだとしても、きちんと意識があるならば十分だ。どうだ君、我がG.O.D.に参加しないか?」


 悟さんが早速、伊州を口説き始めた。


「えっ!? イケメン!?」


 伊州もまんざらでもないみたいだ。

 うーむ、悟さん、人たらしの才能があるな。

 結局、伊州藤子は自警団、G.O.D.に参加することになった。

 ゾンビ化した彼女は、人並み外れた腕力と、驚くことに再生能力を手に入れていた。

 そのかわり、生の肉を毎日食べないと体が腐ってしまうみたいだ。

 翼人の春香さんは空を飛べる代わりに、体重がすごく軽くなったし、食事をたくさんしなければいけなくなっている。

 姫と一緒になった楓は、何を見ても魔力の流れみたいなものを察するようになったらしい。

 水も風も、魔力が見えてしまって、何も考えず風景を眺めることができない。


 変化した人たちは、みんな今までどおりでは暮らしていけなくなっている。

 それは街だってそう。

 特に大きな変化があったのは、私が暮らすこの足立区。

 後々、全国の変化した状況を国がチェックして回ったそうなんだけど、足立区が一番変化が激しかったらしい。

 それこそ、元の地形の跡形も無いくらい。

 だから、国はこの地区を暫定的にこう名付けることになった。

『混在都市』と。


 そして。





「マサムネ、出番だぞ!」


 G.O.D.からの要請を受けたのか、教室の扉を開けて姫が現れる。

 既にエルフの姿だ。

 学校は再開されていたけれど、私の生活は今まで通りじゃない。

 終末の魔女の力は強力なので、困ったことがあった時、こうして呼ばれることになる。


「分かった、姫! すみません先生! 早退します!」


 私が手を上げると、先生は諦めたように頷いた。

 私がこうしていなくなるのは、珍しいことじゃない。

 それに、私一人がいなくなれば、教室にいる生徒の数は残り四人になる。

 そう、無事だった生徒は、うちのクラスでこれだけだった。


「えっ、マサムネ、あたし行かなくていいの?」


「ああ、伊州は残ってて。出たの、モンスタ・バースの怪獣だから」


「うええ、あのでっかいやつかあ。うん、任せた」


 伊州に見送られながら、私と姫は仕事を果たしに出発する。

 モンスターの狙いを引きつける姫と、モンスターを倒せる私。

 私たちがいれば、あの大災害みたいな怪獣だってそう強くない。


「出現場所が少々遠いな。東京ビッグサイトだそうだ」


「マジで!? めっちゃ遠いじゃん! 急がなきゃあの辺、更地になっちゃう!」


「更地になるかどうかは、モンスターの種類によるがな……。そも、先日のマサムネは普通に辺りを更地にしかけたではないか」


「ああー! 同じミスはしません……!!」


 さあ、今回はどんなルートで向かおう。

 まずはつくばエクスプレスで、帆船に乗って、その次は……。




 第一章、終わり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ