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第二十五話 ここで決着をつけてやる!

 整地ローラーが走る。

 トラとカメが力任せにゾンビを跳ね飛ばした。


「おらおらおらおらぁー!!」


「うおー! 必死! 俺走るだけで必死!」


 道具があれば、ゾンビは人間でもやっつけられる。

 駅で一緒に戦ったサラリーマンの人たち、カバンを盾にしてたからね。

 道永が飛び上がって、二人を攻撃しようとするけれど、ホーが頭の上から白線用の粉をばら撒いて妨害する。


「くっそ! お前何!? 粉が羽にくっついて邪魔なんだけど!?」


 あれ、意外。

 道永の背中に生えた薄羽は、白線の粉で飛ぶ力を弱めるみたい。

 案外繊細なんだな。

 キラキラと輝いていた羽が、濁ったような色になっている。


「あれは魔法の力で飛んでいる。だが、粉が魔力を邪魔するのだ。あれは石灰か! あれだけの量の石灰が降りかかるということはめったに無いからな」


 姫はソフトボールをぺたぺた触りながら解説する。

 彼女は彼女で、省エネで魔力を使いながら戦うつもりのようだ。

 よし、じゃあ私も動くぞ。


「リュウ、移動ー! 道永は私を追ってくると思うから、ええと……プールの方に!」


「へい!」


 なんでプールがいいと思ったんだろう。

 あ、そうか。

 道永が、エメラルドゴキブリバチだって、左目にいる魔女が言ったんだった。

 昆虫なら水に弱いだろう。

 よし、プール、正解。


「ああっ、くそ、待てマサムネ!!」


 ついに飛ぶことを諦めた道永、髪を粉で真っ白にしながら、鬼の形相で追いかけてきた。


「ほっ、ウインドコントロール!」

 

 そこに、姫がソフトボールを投げつける。

 ふよふよーっとボールが飛んでいった。

 道永、避けるき満々だったみたいだけど、ボールが危なっかしい動きでふらふらしているので、「えっ、これ来るの? 来ないの? やだ、なんで避けたらそっち来るのよ!? お見合い状態になったおばさんかお前は!!」とか怒鳴って前に来られないでいる。

 ナイス……!

 そんな姫を、リュウが小脇に抱えて走り出した。

 姫は抱えられつつ、魔法のコントロールに集中している。


「人間大のモンスターゆえ、搦め手が使えるな。だがその分だけ頭も働く。マサムネのアレをすかされたのは痛かった……! 必中の場合にしか使えぬな」


「うん。私の左目からビームを見られちゃった。道永は絶対これを警戒して来るから、普通だと当てられないと思う」


 リュウの上でおしゃべりする私たち。

 そんな二人を担いで、リュウはバタバタとプールに向かって走っていく。

 学校のプールは、校庭を横切ってフェンスの向こう。

 外からは覗けないように、高い壁に覆われている。

 いやあ、それでも毎年盗撮しようという輩はいるらしいんだよね。

 困ったもんだ。


「マサムネェ! 待てえ!!」


 来た来た!

 空は飛べるようになったけれど、足の速さは変わらないみたいだ。

 道永はもともと足が速い方では無かったから、リュウの後をばたばた走ってなんとか追いかけてくる。

 リュウがプールへの入り口をくぐったところで、同じ道を行くのは面倒だと思ったらしい。

 壁に爪を突き立てて、がんがん上がってくる。

 足は遅いけど、パワーだけは怪獣になってるからやばいなあ。


「ウインドコントロール!」


 姫がまた、ソフトボールを投げつけた。

 もう一個持ってたのか。

 ボールはふわりふわりと飛んでいき、壁を登る道永の頭にすこんと当たる。


「あいた! だ、誰だー!! 私の頭にボールをぶつけたやつは!!」


「あの玉は大きくて、引っ掛かりも多いから妙な飛び方をするな。しかし、これはこれで相手には軌道が読めなくて良いかも知れない」


 姫がぶつぶつ言っている。

 ソフトボールを使って、色々実験しているみたいだ。

 とにかく、これで道永は気を逸らされた。

 私たちに追いつくの遅くなる。

 そのうちに、リュウはプールまでの階段を駆け上がった。


「よーし、到着!」


 下ろしてもらった私たちは、プールの反対側まで歩く。

 やって来るであろう道永と、25mくらいの距離で差し向かうようにするためだ。


「ほう、溜池か! 楓の記憶によると、マサムネたちはここで泳いだりするようだな。飲水ではない溜池というのも珍しい。生活用水でも無いとは、贅沢な世界だ」


「まあね。泳ぐためだけに、水を消毒してこうして溜めてるわけだもんね。私たちの暮らしって、ファンタズム・バースだと貴族みたいなものだったりして」


「まさしく貴族だな。ファンタズム・バースに近い他の世界が、このように重なり合ってもそうおかしくはなるまい。だが、この世界は明らかに異常な状態になっている。これは、マルチ・バースが物で溢れかえっているせいだろう。これほど物が多い世界を、妾は物語ですら知らぬ」


 私たちの現実世界は、ファンタジー世界から見ると、それこそファンタジーなのだなあ。


「ゆえ、恐ろしいモンスターが相手になったときでも、この世界にあるものでそれなりに対処が出来てしまうわけだ」


 姫がニヤリと笑う。

 彼女が目を向けたのは、プールを洗うためのホース。

 姫はある程度、宿主である楓の記憶を探れるようだ。

 だから、彼女はホースをどう使うかをイメージしているんだろう。


 リュウが持ってきたホースを、私が受け取る。

 姫は何を考えたか、ビート板をまとめてプールに投げ込んでいる。

 これで道永と戦う準備は万端……。万端?

 私、姫が何をやろうとしてるんだかサッパリ分からないんだけど。

 あっ、道永が来た。


「はぁっ、はぁっ、ま、待てマサムネーっ!」


 肩で息をしている。

 怪獣が乗り移ったのに、体は道永のままなので体力は普通の女子高生なのね。

 あいつがここに来るのを邪魔しまくったので、私の中では三枚のお札みたいな気分だ。


「よく来たね道永。ここで決着をつけてやる!」


「はん! お前の武器は目から出るビームでしょ? あんなの当たらなければいいだけじゃん。そうしたらマサムネは自滅するんだから」


「は? そんなわけない。っていうか私の目から出る光線は絶対当たるときしか出さないし!」


「いーや、出すね! マサムネは絶対出す! 賭けてもいいから。だってあんためちゃくちゃ意地っ張りでひねくれ者じゃん! 出したら負けってところで出すから、私の勝ち。だからさっさと出して負けろ!」


「何言ってんの!? ひねくれてるなら出すって言われたら出さないに決まってるだろ!? 道永、怪獣になって頭までおかしくなったわけ?」


「頭おかしいって言うな! 私は世界がこうなってからも、ちゃんと勉強とかしてるし! 将来とかちゃんと考えてるっつーの!!」


 私は頭がカーっとなって、道永と怒鳴り合う。


「いいぞマサムネ、そのまま時間を稼ぐのだ……」


「なんつーか、こうして聞いてると二人共普通の女子高生ッスよねー」


「うむ、妾もそうだが、この体に宿った二つの人格のどちらが主体かで性格が変わってくる。この体ならば妾だし、リュウは中にいる何者かとは上手くやっているのであろう? マサムネも然り。道永のように、モンスター・バースの存在と同一化しながら自我を保っているのは凄いことなのかも知れぬな」


 姫とリュウのやり取りが聞こえてくる。

 相手が道永だけならリュウは足手まといなので、後ろに下がってもらっている。

 パワーがあるだけで特別な力はないし、道永に引っ掻かれたらゾンビになるかもしれないし。

 ということで、ここは私と姫でどうにかする戦法なのだ。

 私は道永と言い争いをして足止めする予定だったのだけれど……。

 なんだ?

 意図していないのに、私と道永の罵り合いがめちゃくちゃ長く続いている。

 お互いにヒートアップして、プールを挟んでぎゃあぎゃあ叫ぶ。


 ついに叫び疲れて、二人とも黙った。

 喉が痛い。

 だけど、私の中にあるエネルギーは、怒鳴り合いで時間稼ぎした分、ちょっとだけ回復したようだった。

 道永もそれに気付いたみたいで、凄い形相でこっちを睨んでくる。


「時間稼ぎしたな!? マジ汚い! むかつくんだけど! てめーマサムネ、ここでぶっ殺してやるから!!」


 道永が飛び上がった。

 プールを越えてこっちに来るつもりだ。

 そうなることは想定済み。


「行くぞ! ビート板発射だ! ウォーターコントロール!」


 姫の魔法が発動した。

 プールに浮かべられたビート板が、次々に打ち上げられて道永に向かう。

 ミサイルみたいだ。


「な、なにこれ!?」


 道永は手をふりまわし、ビート板を叩き落としていく。

 だけど、ビート板というのは言うなれば、分厚い発泡スチロールみたいなもの。

 鋭い道永の爪で切り裂いていると、いつかは引っ掛かる。

 ほら。


「手、手がめり込んで離れない!」


「隙ありだよ道永!」


 私はそこ目掛けて、ホースから水を放った。

 先端を潰して、水の勢いを増し、そこに魔女の力を乗せる。

 赤く光る水が、道永目掛けて飛んでいった。


「や、ヤバッ!!」


 道永は慌てて急降下する。

 すぐ下はプールだ。

 ばしゃんと飛び込む音がした。

 私は飛び込み台の上に上がり、水中の道永目掛けてホースを構える。

 さあ出てこい道永!

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