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第二十四話 ずっと斜に構えてたあんたが、何を友情ごっこなんかしてるのよ!!

 やがて、昇降口が騒がしくなってきた。

 ものも言わず、足を引きずり、歩いてくる人の音がする。


「来たな、いよいよだぞ」


 姫の手が、ぎゅっと私の腕を握った。

 彼女も緊張しているみたいだ。

 今まで相手にしてきた怪獣は、みんな冗談みたいに大きくてどこか現実感が無かった。

 それに対して、道永胡蝶は人間だ。

 モンスター・バースの力を持った人間と戦うのだ。

 多分、姫もそれは初めてのはず。


「ねえ、姫、このまま昇降口に向かって、あれをぶっ放したらどうかな」


「────悪くはないが、外せば終わるな」


「なら、当てればいいんだよ」


 少し回復した私は、眼帯を外した。

 意識して、左目に力を集めるようにする。

 体の中を、エネルギー流れていく感覚。

 さあ、出てこい。

 出てこい道永。

 私は立ち上がり、左手をピストルの形に構える。

 照準を合わせる……必要はない。

 まるごと吹き飛ばしてやる。

 際限なく、左目に流れ込んでくるエネルギー。

 全身が熱くなり、そして次の瞬間には冷たくなった。

 熱量は左目に収束する。


 ゾンビの群れが昇降口から顔を出した。

 私はそこを目掛けて、口を開く。


「ず」


『待って。おかしい』


「!?」


 左目から、溜め込まれた光が溢れる。

 撃ち損なって暴発したみたいに、それは無軌道に跳び出してきた。

 赤い光のシャワーが、猛烈な勢いで昇降口に降り注ぎ、校舎の一部ごとゾンビたちを蒸発させていく。


「────っ!!」


 やばい。

 蛇口が壊れたみたいに、左目から力が漏れていく。

 私は慌てて、力を止めるように意識した。

 きゅっと、左目の視界が狭くなっていく。

 やがてそれは小さな穴を覗くほど、細く暗くなり、光が途絶えた。


「止まった!! それがあんたの能力!」


 やばい!


『やっぱり。ずっと見てたのよ? あれは怖い相手だわ』


 魔女が嬉しそうに言う。

 なんだお前、いまさら出てきて。

 私はその場から、転がるようにして離れた。

 今まで私がいた場所に、エメラルド色の怪物が降ってくる。


「避けるな、マサムネ!!」


 彼女は叫びながら、着地と共に地面を抉り、砕く。

 背中には、透き通った一対の羽が生えていた。

 虫の羽……!?


『アンプレックス・コンプレッサ。エメラルド・ゴキブリバチという昆虫があなたの世界にはいるのでしょう? あれはつまり、そういうモンスターよ』


 ありがたくもない説明をしてくれる。

 私は、目の前に降ってきた胡蝶相手に身構える。

 やばいやばいやばい。

 体が重い。

 かなり力を使っちゃったみたいだ。

 今日はずっと魔女モードだったし、ゾンビは多すぎるし。


「お前もゾンビにしてやる、マサムネ!!」


 道永は物凄い笑みを浮かべながら、私目掛けて掴みかかる。

 爪先がエメラルド色に輝いている。

 その爪で引っ掻かれたりすると、もしかして、まさか。


「危ない、マサムネ!! ウインドブラスト!!」


 姫の魔法が唸った。

 強烈な風が、道永に叩きつけられる。


「アンプレックスが言ってたエルフって、お前か! 後でその血を吸ってやるから大人しくしてろ!!」


 道永の羽がバタバタと羽ばたき、風の魔法を真っ向から受け止める。

 この隙に、私は転がるようにして姫のところへ逃げた。


「ふうん」


 私と姫が並び立つところを見て、道永が目を細めた。

 彼女は羽ばたきながら、浮かび上がっていく。


「そう言うこと。あんた、エルフと一緒にいるんだ? ふうん? 友達がいなかったあんたがねえ」


 なんだなんだ。

 道永が、怖い目つきをしている。

 彼女がさっきからずっと怒っているのは分かるのだが、どうして今に至り、今まで一番怒っているような状況になっているのかがさっぱり理解できない。


「ほっといてよ。姫は気が合うの。私と姫は運命共同体みたいなものなんだから」


「ああ、そうだ。妾はマサムネと共に、お前のようなモンスターを全て滅ぼすと決めている!」


「うるっさい、黙れ!!」


 道永が怒鳴った。

 とんでもない大声だ。

 大騒ぎになっている校門付近なのに、この場にいる誰の耳にも届いたことだろう。


「ああもう、ウザい!! ずっと斜に構えてたあんたが、何を友情ごっこなんかしてるのよ!! あんたはもっと、上から目線で一人でなんか言ってるようなキャラだろうが!! ひよってるんじゃねえ!」


 道永が、私に向かって襲いかかってくる。


「このっ!」


 慌てて抜いた水鉄砲で、彼女を射撃した。 

 だけど、それは道永が引き起こした風によって散らされてしまう。

 ダメだ、こいつには水鉄砲は効かない!


「姫、ゴメン!」


「なにっ!?」


 私は姫を押し倒した。

 ポニーテールにした私の髪を掠めて、道永が通り過ぎていく。

 ひええ、危ない危ない。

 風圧で、一瞬私が持ち上がりかけた。

 あれ、爪で引っ掻かれなくても、体当りされただけでやられちゃうぞ。


 道永はその勢いのまま、校門の上まで飛翔していった。

 そこには、リュウたちがいる。

 彼らは頭上を通過したエメラルド色のモンスターを見上げ、不思議そうな顔をした。


「へ? JKが空飛んでる?」


「なんだあの髪の色。羽?」


 これはまたまたやばい!

 これ以上ゾンビを増やされるわけには行かない!


「リュウ! トラ! ホー! カメ! ゾンビは放っておいて、こっちに逃げてきて!!」


「!?」


 四人はギョッとして私を見る。

 そして、状況を理解したらしく、慌ててこちらに向けて走ってきた。


「どっ、どうしたんですか姐さん!」


「空飛ぶJKがどうしたッスか!」


「そなたら、あの女には触れるな! あれの爪で傷つけられれば、ゾンビになるぞ!!」


 姫がわかりやすく、道永の脅威を伝える。

 すると、四人組は震え上がった。


「あ、あいつがゾンビの親玉かよ!!」


 私たちは、道永がゾンビを生み出す工程を見ているわけじゃない。

 だけど、あのエメラルド色に光る爪、明らかにおかしいじゃないか。

 絶対あれで引っ掻かれたら、ゾンビ化するくらいひどいことが起こる。

 リュウたちがゾンビ化したりしたら、流石に私は凹むぞ。

 それだけは避けたい。


「そう言うことで、無理はしないで。いい?」


「へい!!」


 四人は大変いいお返事をした。

 でも、彼らを戦力外にして遊ばせておく手は無いよね。

 道永は、軽々と校門をこじ開けて、ゾンビたちを校内に招き入れている。

 彼女は怪獣化して腕力まで強くなっているみたいだ。


「お前たち! 行け! 行ってあいつらをバラバラにしてしまえ!」


 随分数が減ったとは言え、ゾンビはまだまだいる。

 そいつらが、私たち目掛けて襲いかかってきた。


「一時撤退ー!!」


 私が号令を出して、みんなで運動場まで撤退する。

 体力を消耗している私が遅れかけたので、リュウが私をひょいっと担いだ。


「あっ、ありがとう」


「いいってことですよ! これ、姐さんがいないとどうにもなんないやつでしょ! なら、俺らが姐さんの足になりますから!」


 なるほど。

 その手があった……!


「リュウ、私をおんぶして」


「へいっ!」


 担がれる体勢から、背負われる体勢へ。

 リュウの肩越しに、入ってくるゾンビたちを見る。

 彼らの後ろには道永が浮遊していて、偉そうにゾンビに指図をしている。


「カメ、トラ! 整地ローラー持ってきて!」


「整地?」


「ローラー?」


「グラウンドをゴロゴロって慣らすやつ!」


「ああ! 重いコンダラ!」


 カメがポン、と手を打った。

 二人はローラーを使って、ゾンビを轢く役割。


「ホーは白線引きで、ゾンビの上からばら撒いて! 道永が来たら、粉を握って投げつけて!」


「ウッス!」


 グラウンドにあるもので、道永とゾンビ軍団を撃退するのだ。


「マサムネ、妾はどうする? まだまだ魔法は使えるぞ!」


「うん。でもあまり使いすぎると、楓の体がバテちゃうでしょ。……そうだ。あっちにソフトボールがあるから、あれを投げて風で加速させて……」


 作戦会議をしている私たちに向けて、道永が吠えた。


「何をごちゃごちゃ言ってんのよ!! あんたたちが何をやろうと私には勝てないのよ! 私は絶対に正しいの! だから、私の仲間があんたたちを粉々にするんだから! ほら、行け、お前たち!!」


 仲間、ねえ。

 数は多いけど、ゾンビには意志なんかなくなってるみたいだ。

 道永、あんたは一人ぼっちじゃん。

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