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第二十一話 そなたらは登ってきたゾンビを倒すのだ!

 私たちの荷物を持つ、なんて申し出る四人に断りを入れ、一路学校へと突き進む。

 我が家から学校までは、そう離れていない。

 私の実家は全然別の県なんだけど、両親がダブル単身赴任する都合でおばさんの家間近なこの高校に進学したのだ。

 ということで、登下校は実に快適。


「そういえば」


 自分の登下校事情を見つめ直していたら、気になる事があった。


「姫さ、その体の主である楓は、どこに住んでるの? もうずっと帰ってないでしょ。うちの人心配してるんじゃない?」


 今さらと言えば今さらではある。

 世界が重なり合い、混在世界になってしまってから、行方不明になった人間なんて数知れず。

 親族や関係者は血眼になって探しているのだろうけれど、楓もまた、そんな行方不明者の一人に名を連ねているのだろう。

 でも、帰りたくない家って言うのはただ事ではないね。

 他人の家の事情に口出しする気は無いけど。


「────帰らなくても全く問題ないそうだ。なんならあの家に居候させてもらって、バイトでもなんでもして学費と家賃を稼ぐ……と楓は言っているな」


 いつもは引っ込んでいる清明楓。

 彼女は姫と、割と自由に対話できるみたいだ。


「姐さんがた、アレっスか。てめーの中にいるこいつらと喋れるんです?」


「まーね。私の中に勝手に入ってきたこいつは、最近だんまりだけど」


 リュウに質問されて、私は自分の眼帯をトントンっとつついて見せた。


「ははあ、封印された目が疼くってやつッスね! ホーの奴が中学の時やってたわ」


「おいやめろリュウそれは俺にとって致命傷だ」


 リュウとホーがもみ合い始めた。

 仲良しねー。


「んー、でも俺の中にいるやつ、ガルルとかグルルばっかでなんもわかんないッスわ」


「俺なんかずーっと黙ってるぞ。おめーらの真似して話しかけてもシカトだわ」


 トラとカメ。

 名前どおりの怪獣みたいなのが彼らと重なっているなら、トラはグルルでガルルだろうし、カメは喋らないよね。

 人によって色々なパターンがあるもんだなあ。


「ふむふむ、面白そうな者たちではないか。使い魔としての契約も施してあるから、忠実だぞ。マサムネも使うといい」


「へいへい。使い魔契約って、人権とかそういう問題的にどうなのかなー。半分怪獣みたいなのが混じってるから構わないのかなー」


 難しい問題だ。

 だけど私はその辺りには全く興味が無いので、まあどうでもいいか、と考えるのをやめた。

 いよいよ学校が見えてきた頃合。

 トラが急に、ぶるぶるっと震えた。


「こっ、こいつはやべえ。姐さんがた、俺のヒゲにびんびん来ます。なんかやべえ気配がしますぜ!」


「へえ。トラには何かそういう能力があるの?」


「こいつ、この猫人間みたいになってから、第六感っつーんすか? それが超発達してて。こいつの勘と、ホーの偵察のお陰で生き残ってきたんスよ」


 リュウが解説してくれる。

 なんと、それは便利。


「じゃあ、ホー。ちょっと偵察してきてくれる? 学校周りだけでいいから。トラの勘が正しいんなら、何かまずいものがいるのかもしれない」


 そのまずいものって、多分私の知り合いだろうな、と思うけど。


「へい、姉さん! しゅわっ!!」


 妙な叫びと共に、ホーが空に舞い上がった。

 彼の背中に生えた翼が大きくなり、羽ばたく。

 見る見る、ホーは高度を上げていった。

 うーん、このチンピラ四人、便利だぞ。


「じゃ、私たちは学校周りを歩いてみよう」


「姐さん! 俺の甲羅を使ってください!」


 カメが進み出てきて、目の前で手足と頭を引っ込めた。

 あっ、甲羅だけになった。


「頑丈なの?」


「そりゃもう」


 甲羅の中からくぐもった声がする。

 どーれ、と持ち上げてみた。

 いや、持ち上がらなかった。

 重い。

 めちゃくちゃ重い。


「姫、手伝ってー!」


「よーし、妾に任せよ!」


 腕まくりして出てくる姫。

 二人がかりでカメを持ち上げようとして……びくともしない。


「ちょっとー。重すぎるんじゃない!?」


「め、面目ないッス」


 カメが恐縮して謝る。


「姐さんがた、こういう力仕事は俺の出番ッスわ」


 リュウが得意げに言う。

 その言葉通り、彼はカメの甲羅を軽々と持ち上げてしまった。


「やるじゃんやるじゃん! じゃあ、リュウとカメで前に立って。トラは後ろ警戒。進む道は姫がマップ見てるから」


 役割分担が決まった。

 頭上ではホーが偵察している。

 鳥みたいな能力を得たと言うことは、さぞ遠くまで見えることだろう。

 私は、豆粒みたいな大きさになった彼の姿を見上げた。

 あ、なんか慌てたように、ばたばた羽ばたいてる。

 何かを私に知らせようとしてるんだろうか。


「ねえトラ」


「なんスか姐さん」


「ホーが上でばたついてるんだけど」


「へえ。あー、あれはなんか見つけたって合図ッスね。あいつが泡食うほど、やべーもんを見つけたってことッスわ」


「へえー! じゃあ、あれはどれくらい慌ててるの?」


「へい。あれはッスね。顔面真っ青、今にも漏らしそうなくらいッスな」


「へえ……。やばくない?」


「やばいッスねえ」


 呟いたトラが、ぞぞぞぞっと毛を逆立たせていく。


「やべえよやべえよ……」


「リュウ、前の方になんかいない!? トラが凄く怖がってるんだけど!」


「ウッス。前にはゾンビがわんさかいるっス」


「さっさと言えー!? だめだこの人たち、便利だけど何も考えてないぞ!」


 四人組を信用しすぎた!

 彼らは便利でも、私がちゃんと活用しないと、宝の持ち腐れになってしまうのだ。

 今のところ、背後にはゾンビはいない。


「トラ、後ろに注意して、ゾンビが出てきたら教えて。あとホー呼び戻して。もっと低いところで見ててもらわないとダメだわ」


「へい!!」


 次に前方を確認。

 ただでさえ体が大きいリュウが、カメの大きな甲羅を構えているから前が良く見えなかった。

 なので、私は彼の横合いから顔を出して前を伺う。

 なるほど、まだ距離はあるけど、明らかに動きがおかしい人たちが何人も歩いてくる。

 すっごい数。

 昨日駅前を占領してたよりもずっと多い。


「姐さん、やっちまってください!」


「いやいやいや、あの数は厳しいから。やれなくはないけど、私が全力でやると、しばらく動けなくなるの」


「な、なんだって!? 姐さんに弱点が!?」


 ああ、もう。

 こいつらと話してると疲れるなあ。


「マサムネ、一度学校に入り込み、篭城すべきであろう。学校の水道から水を確保すれば、そなたの水鉄砲も使えるようになるではないか」


「よし、そうしよう」


 私たちは、ゾンビを避けるように学校に逃げ込むことにした。

 まさかゾンビがあんなに増えているなんて。

 リュウが馬鹿力で、校門を閉じていく。

 ゾンビは校門を開けると言う考えが無いようで、鉄格子っぽいこの門にくっついて、あーあー言っていた。

 よし、これで一安心。


「しかし、G.O.D.が観測していたものよりも、遥かに深刻な状態になっているようだな。かつてファンタズム・バースでも、ゾンビの大量発生によって滅んだ村があった。この街は、それと同じ流れを踏んでいるかのようだ」


 姫が顔をしかめている。

 こいつを引き起こしているのが、多分間違いなく、道永胡蝶。

 ゾンビ軍団のどこかにいて、私たちを見張っているのかもしれない。

 トラが感じたやばいものって、胡蝶の事だろう。


「あっ、姐さん! ゾンビどもが這い上がってきます!」


 リュウが悲鳴を上げた。

 ゾンビたちは、他のゾンビを踏み越えながら、校門に上がってきたのだ。


「叩き落して!」


「で、でも、噛まれたりしたら伝染するっしょ!? 映画とかマンガでもそうだったし!」


「毒や病の類なら、妾がなんとかできる! そなたらは登ってきたゾンビを倒すのだ!」


 力強く、姫が宣言した。

 これを聞いて、四人組は勇気が湧いてきたらしい。

 彼らのご主人様たる姫が、大丈夫って断言したんだもんね。


「よっしゃー! エルフの姐さんが大丈夫っていうなら大丈夫なんだろ! 行くぜー!」


「感染しないなら怖くねえぞ!」


「おらっ、おらーっ!!」


「押し出せー!!」


 さて、ここは四人に任せつつ。

 私と姫は、ruinトークを使い、G.O.D.と連絡を取る。


姫:『青井女子高校にゾンビの大群が出たぞ。者ども、出あえ出あえ』


悟:『マジですか!? すぐ行きます』


春香:『全員突撃ね』


 彼らは基本的に暇しているようで、すぐに反応が返ってきた。

 さあ、篭城戦だ。

 あわよくば、道永の姿を探し出し、屋上から攻撃してやるのだ。

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