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第十一話 略してG.O.D.!

 生き残ったテレビ局の人たちとかち合わず、無事に抜け道までやって来た私たち。

 そこで、何かもぞもぞと動くものがいた。


「マサムネ、気をつけるのだ! 何かいるぞ!」


「うん、大きな毛むくじゃらのものが……あれ? どこかで見たような」


「ムガー」


 ガサガサと茂みを割って、それが顔を出す。

 ひょろっと長く伸びた顔。

 そして、もこもこの毛並み。

 こ、これは……。


「校長先生!」


「ムガ」


 姿を現したのは、オオアリクイだった。

 校長先生が変わってしまったものだ。

 いや、多分正確にはオオアリクイじゃないよな。


「校長先生、ずっと隠れてたの?」


「ムガムガ」


 オオアリクイがうなずく。

 私の言葉が分かるみたいだ。

 姫は横で木刀を構えてたけど、どう見ても校長先生には害意が無いみたいだったので、武器を納めた。


「校長? 知っているのかマサムネ。これは妾の世界にいた怪物で、アントベアというのだ。基本的には無害だが、乗り移った人間の性質によっては凶暴になっているかもと思ったのだが」


 まんまオオアリクイだね。

 そして、校長先生は穏やかな人なので、乗り移ったオオアリクイも穏やかなままみたいだ。


「私たち逃げるんだけど、校長先生も逃げる?」


「ムガ」


 オオアリクイはこくこく、とうなずいた。

 じゃあ、と私は抜け道の前に立ち、金網の一部をギギギっと開いた。


「ムガー!?」


 これを見て、オオアリクイはびっくり。

 ぺたぺた近寄ってきて、蝶番の辺りを爪でカンカン叩いた。

 そして、「ムー」っと溜息を吐いた。

 あっ、このオオアリクイ、校長先生だったもんね。

 まさか自分の学校に、こんな抜け道があるなんて夢にも思ってなかったんだろう。

 ショックを与えてしまった。


「まあまあ、校長先生。抜け道のおかげで、うるさい人たちやゾンビにも見つからずに外に出られるんだから」


「ムー」


 不承不承、と言う感じで私たちについてくるオオアリクイ。

 器用に体を持ち上げ、抜け道をくぐってきた。

 毛がもこもこしているけど、体は案外細いみたい。

 校長先生痩せられて良かったねえ。


「マサムネ、このアントベアを連れて行くつもりか?」


「や、校長先生は自分の家があるでしょ」


「ムガムガ」


「校長先生家に帰るでしょ?」


「ムガー」


 言葉の意味は分からないけど、多分そのつもりだと言っている気がする。

 オオアリクイは、立ち上がって私の手を、鉤爪の背でぺちんと叩くと、尻尾をふりふり去っていった。

 オオアリクイ流のお礼なのかも知れない。


「なんともまあ……。変わり者だとは思っていたが、マサムネ。そなたは本当に変人だな」


「いきなりひどい!?」


「いや、例え顔見知りが姿を変えたものだと言っても、アントベアを前にして平然と振る舞っているのは常人ではないぞ」


「うーん。アリクイになっちゃっても、性格がそのままなら別に問題なくない? 見た目とか大した事じゃないでしょ」


「大したことだろう。妾の姿を見ても、『エルフだ』とか言うだけでその後特に反応がないしな」


「私は姫の顔好きだよ?」


「────そう言う話ではないっ」


 なぜか姫、耳を赤くしてそっぽを向いてしまった。

 何か地雷を踏んでしまっただろうか。

 だけど、空気を読む私ではない。

 そんな彼女を引き連れて、向かう先は……スーパー。


「家はこちらではないだろう。どこに行くつもりだ?」


「スーパー。ご飯の材料買わなくちゃいけないでしょ。ちょうど帰り道の途中にあるからさ。まだお店が機能してたら買っていこうかなって」


 スマホで確認すると、時間は13時。

 ほぼ午前中だけで学校の探索を負えられた計算だ。

 後はスーパーで買い物して帰って、15時くらい。

 何事もなければ、おばさんの夕食作るくらいは楽勝ね。


「何事も……なければ……」


 到着したスーパーは、戒厳状態が敷かれていた。

 うん、これ、戒厳状態って言うんだよね?

 ゲームやマンガの世界でしか見たことがないような、鎧に剣や槍なんか持った人たちが、スーパーの入口に詰めている。

 そして、入ってくるお客さんの身体チェックをしているみたいだ。


「身分証明証を確認しているようだな」


「あー、生徒手帳取りに行ってて良かった。ほらほら姫、用意して」


 状況はよく分からないけど、自警団みたいなのが発生しているようだ。

 彼らがスーパーを守っていると。

 そりゃあ、今朝出会ったオークみたいなのが来たら、食べ物いっぱいのスーパーなんて略奪されちゃうもんねえ。


「こんにちはー」


「おう。こんにちは」


 私が挨拶すると、自警団っぽいお兄さんは笑顔になった。


「女の子が二人で外を歩くなんて危なくないか? いや、君も何か持ってる(・・・・)んだな?」


「あ、はい、一応」


 お兄さんの他に、ちょっと年を食ったお兄さんもいて、その人は露骨に私の胸を見ながらだらしない笑顔を浮かべている。


「いやあ、朝から立ちっぱなしでよ。いい加減疲れてた所に美少女登場って、癒やしだわ……そのふんわりを見ているだけで心が洗われる……」


(まこと)さん! セクハラっすよ!」


「ええ……。世界がこんなになっても、その辺守らないといけないの?」


「守んなかったら、一気にアレでしょ! ヒャッハーって感じの世界ですから!」


「あー、そうだけどよ。何も俺らが張り切る必要は無かったんじゃねえの? こんなバッジまで作ってさ」


 バッジ?

 お兄さんと、セクハラお兄さんの二人は、胸に何かを象ったバッジを付けていた。

 G.O.D.?


「ゴッド?」


 私が首を傾げると、お兄さんは嬉しそうな顔をした。


「そう! Guardian,s(ガーディアンズ) of(オブ) Destiny(ディスティニー)! 略してゴッド! かっこいいだろ!」


「あー、はい、あー、かっこいいですねー」


 私はヘラヘラと笑った。

 他人の趣味に口出しをするのは、野暮というものだ。


「じゃあ、君たちの身分証明証を拝見しようかな。不思議なことに、身分証にその人のデータが細かく載るようになってるんだよね」


「あ、ですよねー。じゃあ、これ私の……」


 差し出した生徒手帳を見て、セクハラお兄さんが「おっ、JK!」とか呟く。

 お兄さんの方は、私の手帳をまじまじと見て、顔を見比べた。


「失礼だけど、眼帯を取ってもらってもいい?」


「はい。こんな感じで」


「ああ、はい、確かに。『実は』の後がごちゃごちゃしてて読めなくなってるけど、これは君で間違いないね」


 読めなくなってる?

 生徒手帳の文字は、姫は読めたのに。

 このお兄さんには読めないんだろうか。

 何か、読めるためのルールがあるのかもしれない。


「次は妾だな」


 私の後ろから、ひょこっと姫が顔を出した。

 彼女を見て、お兄さんとセクハラお兄さんの二人が、目を丸くする。


「うわあエルフだ」


「メガネっ娘エルフだ!!」


 興奮しだしたぞ。

 そしてやっぱり、姫の経歴も彼らには読めなかったようだ。

 実際、こうやって訪れるお客さんの経歴書は、一割くらいが読めない文字で書かれているのだとか。


「ちなみに、俺たちのがこれね」


 お兄さんが見せてくれたのは、運転免許証。

 そこに、『実は戦士』と書かれている。


「この剣あるでしょ。これは、俺が念じると出てくるんだ」


「へえ……武器持参なんですねえ」


 二重存在にも色々なタイプがあるんだなあ。


「まっ、俺たちのスタイルは割と多いみたいでね。他に、実は魔法使い、実は盗賊って連中も多いんだ」


 セクハラお兄さんが説明しつつ、道を空けてくれた。

 私たちはお礼を言いつつ、そこを通過しようと……。


「ちょっと!! いつまでそこで喋ってるの! あたしずーっと待ってるんですけど!! それがこのスーパーのやり方なの? そういう教育されてるの!? ちょっと店長を出しなさいよぉぉぉぉぉぉっ!!」


 背後から、とんでもない大声が響いた。


「おいでなすった。これで本日五件目だぜ」


 お兄さんが剣を抜いた。

 私は振り返ると同時に、姫の手を引き寄せる。

 後ろにいたのは、中年くらいの女の人。

 眉間や鼻筋にシワを寄せて、激怒している。

 その姿が、一瞬で変わった。

 肌が真っ青になり、目玉が白目も黒目も金色に染まる。

 服を引き裂きながら体が巨大化し、めきめきと角が伸びていく。

 これって、鬼?


「多分、俺たちと同じような奴なんだろうが、性格があれだと、本当におかしくなっちまうみたいなんだ。こういう、いかれてしまった奴があと四組来た。だけど、こりゃあちょっとヘビーだぜ」


「あーあ。俺、インドア派なんだけど……。なんで実は戦士なんてのがついちまったんだ」


 セクハラお兄さんが溜息を吐きながら前に出る。

 二人で、あの鬼になった人と戦うつもりなのだ。


『店長を出せええええ!! 謝罪しろおおおおおお!! 誠意を見せろおおおお!!』


 鬼は、メチャクチャなことを叫びながら、のしのしとスーパーに近づいてくる。

 買い物が終わった人が出てきたけど、鬼を見てびっくり。

 お店の中に戻って行ってしまった。


「クレーマーはお客じゃねえ! 帰れ帰れ!」


『それが客への態度かああああ!!』


 鬼が太い腕を振り回す。

 お兄さんはこれを剣でどうにか受け止めるけど、弾かれて尻餅をついた。

 これ、パワーが違いすぎるかも。


『お客様はっ、神様だろおおおおおお!! あたしは、顧客なんだからあああああ!! もっと、特別扱いしろおおおおおお!!』


「うわあ、これは無関係な私でもカチンと来ますわあ」


「うむ。やってしまえ、マサムネ!」


 私がやる気になったのを、姫が嬉しそうに見守る。

 彼女もまた、魔法で援護するつもりなのだ。

 私が手にしたのは、スーパーの買い物かご。


「ええっ!? お嬢ちゃん、やる気なのかい!? って、目、目ーっ!?」


「そうそう。私のこの目、やる気になると光るの。ってことで」


 鬼に向かって、私は走り出した。


「私、実は終末の魔女なんで」

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