なんの卵?
カタカタカタカタ・・・キキィ。
ロボットの解説君はキャタピラの足を止めて、そこにある「何か」の巣の中を覗き込みました。
ピカピカつやつやの卵が5つ。
「これは・・・」
しばらく思考回路が迷走しました。
「解説くーん、なにしてんの?」
亜紅が後から追ってきて、その場にたどり着きました。
「いけません!静かに!」
「え?」
「生まれます」
「なにが?」
「えーと・・・」
しばらくの間。
「ねぇ、なにが生まれるの?」
「・・・不思議なものです」
「どんなの?」
「世界」
「世界?」
「この中には世界がつまっています。大変危険です」
「そんな大袈裟な」
亜紅はあははと笑いました。
「この卵の内側と外側に別々の次元の宇宙が存在します」
「へぇー」
亜紅は目を丸くしました。
「人間の卵細胞にも同じことが言えるでしょう。あなたが生まれた、それだけで奇跡です」
いつになく哲学的なことを言うなぁ、と亜紅は感心しました。
「でも、ボクは正太郎に造られました。ボクの卵はどこにあるのでしょう?」
ひどく悲しそうに解説君は言いました。
「部品の寄せ集めの中にいるボクは魂はあるのでしょうか?」
「私はあると思うよ」
「本当ですか?」
ピカピカリン。解説君の目が輝きました。
「正太郎に聞きに行こうよ」
「はい!」
二人は正太郎の元へ急ぎました。
「あー腹へった」
正太郎は徹夜明けの朝でした。
食事の用意をして、テーブルにつくと、鶏の卵をコンコン、とお茶碗に叩きつけました。
「あーダメ!」
滑り込みでダイニングに入ってきた二人は間に合いませんでした。
「どーかしたのかい?」
卵かけごはんを食べる正太郎。
解説君はワナワナと両手をふるわせました。
「そういうことかい」
正太郎は苦笑しました。
「解説君の卵もあるよ」
「えっ」
「ここの中に入ってる」
正太郎は自分の頭を指差しました。
「アイディアの卵が、ちゃんとここにあるよ。解説君も卵から生まれたことになる」
正太郎の答えに解説君は大満足でした。
ちなみに、後日、5つあった卵の辺りからひばりの雛が元気に飛び立って行きました。