序章2
絵描かれているカスミソウは―――…何時だったか彼女に贈った花だった。
『贈った』などと言えば聞こえはいいが、実際は道端に咲いていた小さなそれを手折って「お前の様に小さく、風すら耐え難い。」と、皮肉を込めた言葉と共に彼女の元に落とした。
それを彼女は
「私を花だと言うのね…」と、柔らかに微笑んで見せた。
後日、屋敷の南、陽当たりの比較的良い場所に『カスミソウ』
ご丁寧に添え木まで。
根がないのに育つと思ったのか……馬鹿が。
所々変色しはじめたそれを見て、新しく、小さな白い花を植えた。
いつからか、元は小さく白かった花が魔力の影響を受け、黒がかった紫に色を変え辺りて、一面に咲き誇る。
その頃には今までに無かった心境の変化を自覚した。様々な感情がこの身に巣喰い、心が乱されるようになった。
……いっそのこと、レイが魔族ならば良かった。彼女が魔族ならば老いることもなく、命を与え、俺の元に置いておくことも出来る。
彼女が魔族だったならば、心は乱されなかったかもしれないのに。
魔族ならば……?
『魔力の増強・魔気の吸収・浸透・循環』
『肉体の昇華・再構築・治癒』
『命の転換と贈与』
それらを繋ぐのは、『命令の呪』
何かに憑かれた様に、考え付く限りの条件を描き連ね、陣に込める。
出来上がったのは“魔属の入れ物”
否、発動すら定かではない、不完全な魔法陣。
これではレイは人間のまま。
どうすることの出来ない感情と、俺の中で日々存在を増す、彼女を怖れた。
…ならば彼女を、目に見えぬ地に落としてしまおうか。
それとも、殺してしまおうか?
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アンダーグラウンドの大地に根を張り、力強く命の輪廻を続ける『カスミソウ』。一陣の風に吹かれて黒紫の花が、僅かに舞い散った。