私と私の中の私
難しいことを考えずに読んでくれると助かる。
「エミリア!僕はお前との婚約を破棄する!!」
絢爛豪華を誇る王城の舞踏会において、最高級の演奏、高貴な方々のダンス、談笑が行われている中でアレクサンドリア王子の突然の宣言は響き渡った。
その発言は、参加者だけでなくその場の全ての音を奪ったかのように数秒の間、耳が痛くなるほどの沈黙をもたらした。
周囲の人々は突然のことに事態の把握を図ろうと王子と公爵令嬢の方を注視した。
---------------- エミリア視点
どうも私の名前はエミリア・アルファ。アルファ公爵の長女で、目の前で興奮してるのか真っ赤になって婚約破棄を宣言している王子の婚約者です。
王子の脇には騎士団長の次男がいつでも斬りかかれる体勢で待機してるし、王子の後ろには見覚えのない令嬢もいる。
遠くで騎士に抑え込まれている宰相の長男が「王子ーー!お止めくださーーい!!何卒この場は穏便にーー!!」等と叫んでいるわ。
さて、どうしたものかと考えているのですが・・・
『なぁ!来たな。エミリー。婚約破棄だってよ、ぷぷっ。マジ受けるな。おい、返事しろよ。ほら爆笑してやれって!!』
『うるさいわ。ハルナ、静かにしてくださるかしら。確かに失笑というか苦笑という感じではありますが。』
頭の中でハルナが騒いでいて集中できないわ。全く。静かに考えさせてもらいたいのだけれど。
ため息をつきながらもハルナとやり取りをしながら、この事態の収拾と今後の対応について検討し、結論が出た。
『仕方ないわ。少々強引な手段を使うことになるから、ハルナも協力してくれるかしら?』
『おぉ、任しとき。エミリーのためにもやってやるわ!!』
密かに方針を決めて、私は行動を開始することにした。
「皆の者、三公の名をもって命じます!これよりのことを見ること口外することを禁じる!」
私が突然命令した事に王子らは虚を突かれたのか、呆然としている一方、舞踏会参加者の貴族、演奏者、給仕ら全てが素早く私から背を向けた。
王子らは参加者が私の命令に従ったことを受け、更に唖然としている。
『全く情けない奴らだねー。』
ハルナも思わず漏らしているが、確かにと思うところがないではない。
「さて、王子。これでここには私どもだけですから、存分に話をさせてもらいましょうか。もう一度仰ってくださいますか。先ほどは演奏もあったのでよく聞こえなかったものですから。」
当然、大ホールに響き渡った先ほどの発言が聞こえないということはないのだが、改めて王子には機会を与えることにした。
これで、考え直すようであれば今後の展開も楽になるのだけど・・・
王子は周りの参加者らの反応については未だ理解出来ていないようだが、一応は冷静さを取り戻したのか改めて口を開いた。
「分かった。では、改めて言おう。エミリア公爵令嬢。私との婚約をは「せぇぇい!」ガハッ」
王子の発言を封じるために私の。いやハルナの地獄突きが王子の喉に刺さった。
余程見事に決まったのか、王子は咳き込んでいる。
「ごほっ、ごほごほ。な、何をする?」
余程意外だったのか、王子は目を点にしながら聞き返してきた。
「虫が居たんでね。もう一度頼むよ。」
『口調を気を付けてよ。私にも立場もあるんだから。』
ハルナの口調に思わず注意をする。
王子も私が完全に王子を敬っていないことに気づいたのだろう。
怒りの感情が燃え上がってきたのが明らかにわかる。
怒りすぎて私の態度がいつもと違うことは気にしていないようだ。
「では、何度でも言ってやろう!お前との婚約など「だらっしゃあああああああ!!!」ボエエエエエエエェェェェェェ」
王子の再度の婚約破棄を言わせないために、ハルナのリキラリアットが王子の喉に炸裂し、綺麗に一回転して地面に崩れ落ちた。
「全くこの体は細っこくてパワー不足だわ。」
『うるさいわね。その体型維持するのはすごく大変なんだからね!』
思わず、ハルナのボヤキに反応してしまう。
王子の隣に控えていた騎士団長の次男が無言でこちらに走り寄ってきたのが見える。
『ハルナ!来たわよ!!』
『大丈夫、見えてるよ!』
頭の中で会話をしながら、取り押さえようと迫ってくるのに備える。
相手が踏み込んだ左足の膝の上に、すばやく自身の足を乗せ、勢いを殺さず全身を叩きつけるように飛び上がり、顎目掛けて膝を打ち抜いた。
「ぐおっ!」
見事なシャイニングウィザードである。
綺麗に入りすぎたのか、騎士団長の次男はそのまま白目をむいて失神してしまった。
『ハルナ!それは違うわよ。』
「んあっ?」
騎士に取り押さえられていた宰相の長男は、参加者に命令した際に解放されていたため、王子の方に走り寄ってきていた。
おそらく王子を止めようとしていたのであろう。
しかし、敵と誤解したハルナは条件反射で放った技を止めることが出来なかった。
走り寄る相手に飛び掛かり、相手の頭を脇に抱えるようにしながら回転し、頭を地面に叩きつける。
ゴキリと鈍い音を立てながら、宰相の長男は沈んでいった。
気のせいでなければ、痙攣してビクンビクンと蠢いている。
死因は勘違いによるスイングDDT(実際は脳震盪である)。
『バカバカ!ハルナ、何やってるのよ!!完全に誤爆じゃないの!!』
『仕方ないだろ!プロレスラーにとっては乱入してくる奴にはついつい反応しちゃうんだよ。とりあえず、私の出番は終わったから変わるぞ。』
『あぅ、逃げないでよ。』
「皆、自由にしてください。さて、王子たちはお疲れのようです。別室に運んで。後、宰相の長男殿に関しては早急に医務室に運んであげて。それでは、皆様はこの後も舞踏会をお楽しみください。私も今夜は体調が悪いので下がらせてもらいますわ。そこの御令嬢も一緒に行きましょうか。」
私は迅速に指示を出し、王子の後ろにいた令嬢を連れて下がることにした。
心なしか青ざめた表情の令嬢は小さく悲鳴を漏らしながらも、私の発言にコクコクと頷いて付いてきた。
王子の別室に移動し、ソファーに腰かけ、王子が起きるのを令嬢と待っていたが王子には起きる様子が見られないため、先に令嬢と話すことにした。
「今更ですけれど、私の名前はエミリア・アルファ。貴女の名前を聞かせてもらえるかしら。」
突然話しかけたことに驚いたのか、先ほどの一連の騒動を見て恐怖しているのか、びくりと体を大きく跳ねながら答えた。
「わ、私の名前は、ドロシー・バロックと申します。バロック男爵家の3女です。」
回答を聞いて思い当たる人物があった。
「あらあら、バロック男爵家といえば、男爵家と家格は比較的低いものの領地をうまく収めていると評判の方ではないですか。」
「お、恐れ入ります。」
完全に委縮しているけれど、まぁ、この後の話には丁度良いのかしら。
「さて、本題に入るけれど、今日はなぜ王子と一緒にいたのかしら?」
「ま、誠に失礼ながら、お、王子がエミリア様と婚約破棄をして、私との新しいこ、婚約を発表するから、と。」
ふぅーん、成程ね。
「幾つか確認したい点があるのだけれど答えて頂戴。」
「は、はい。」
「まずは、一つ目。貴女は王子のことどう思っているの?」
「愛しております。」
「・・・まぁまぁ、思わず私の顔も赤くなってきてしまうわね。」
「申し訳ございません!」
ペコペコと頭を下げて非常に反省している姿は見受けられるけど、心とは別問題ということかしら。
「次に2つ目。貴女、仮に王子と結婚できるとしてそれで良いの?3女とは言え貴族ということであれば、分かっているのでしょう?王子と結婚するということは王都にいるということになるわ。王都は色々と不便よ。」
「はい。それはわかっております。しかし、私は体が弱くて幼いころから王都で育っておりますので問題ありません。」
非常に望ましい回答で思わず満足げに頷いてしまう。
「最後の質問になるわ。おそらく最大限上手くいっても貴女は王子の側妃、あるいは愛妾ということになると思うわ。それでも納得できるかしら?もし王子との間に子供が生まれれば、貴女の子供を跡継ぎにするること自体は保証するけれど。」
「かまいません。立場ではなく、王子の傍にいたいのです。」
ほほぅ。ついつい中てられてしまうわね。意外と女を見る目は合ったみたいね。
「いいわ。王子の対応次第だけれど、ドロシー嬢と王子の結婚は応援させてもらうわ。婚約破棄は認められ「ど、どういうことだ!?」」
「あら、王子。おはようございます。突然大声で会話に割り込む等、マナー違反ですよ。」
「人を気絶させておいて何をぬけぬけと!いや、それは構わん。先ほどの会話はどういうことだ?」
どこから聞かれたのかしら?まぁいいけれど。
「全く。レディー同士の会話を盗み聞くなんてマナー違反どころかデリカシーに欠けますわね。」
そっとため息をつく。
「うるさい。良いから答えろ。」
「ご質問の内容が分かりませんわ。」
質問をするときには明確に聞いてほしいものですわ。母親ではないのですから。
「ドロシーと結婚しても構わないということだ。」
「あぁ、それは構いませんよ。」
「では、婚約の破棄は「あぁ、それは無理ですわよ。」・・・何故だ?」
ふぅ。まぁ、もう王子も18歳だし良いかなぁ。
「王子。これから言うことをよくお聞きください。すべて説明させていただきましょう。但し、説明が終わるまでお聞きください。無駄に口を挟むのであれば、次は雪崩式ブレーンバスターを決めますからね。」
「むぅ。(何だ雪崩式ブレーンバスター?)」
「それでは、まず前提としてお聞きください。我がオメガ王国の王都の税収を知っていますか?」
「いや、それは知らないな。」
「そうでしょうね。王族は成人になるまでオメガ王国の実態は知らされません。この王都の税収はおよそ1億ほどです。そして、王家の収入はほぼそれのみです。」
「はっ?それでは国政などやれんだろう?バカバカしい。」
「その通りです。ほぼ国政などやっていないのですから。」
「何を言っている?」
「原因は5代前の王にあります。王は享楽にふけるのみで国政を放棄し国家の財政を著しく悪化させました。その際、直下のアルファ・ベータ・ガンマの三公は王家の直轄領を買い取るということで財政を維持し続けました。その結果、王家には王都を除いて直轄領が無くなりました。」
「ほ、他にも貴族領に徴税権を行使することは可能であろう。」
「当時の三公はその時協議したそうです。そうだ。いっそのこと王家は対外的には国家の代表者ということにしてそれ以外の実行面は我らが抑えようと。」
「それは反逆ではないのか?」
「いえ。3代前の王は、直轄領の全てを売却してもなお是正せず、譲位もしなかったため、資金を得るために徴税権を各自の領主に売却しました。ついでに、司法・行政・立法の3権を三公にそれぞれ担当させました。働きかけはしましたが、確かに王の命令だったのです。」
「バ、バカヤローーー!!!」
王子の気持ちはすごく理解できる。私も初めて聞いたときはそう思った。あるいは当時の三公は余程有能だったのだろう。
「さらに、事態は加速します。産業革命です。」
「まだあるのか。」
「王都の立地は他国に面せず、山を後背に控え、他国や海に面しているのは全て三公、あるいはその旗下の貴族の領土となっております。王都では輸出や国内の行商を考慮に入れたとしても競争力に劣ります。また、設備投資の元手も少ない。そうなると、王都は経済的に極めて弱いのです。一方で、技術発展によって消え去る歴史・文化をそのまま保全しているという意味では価値は極めて高いですし、対外的には王都となっているので荒廃させるのも問題があるのです。その結果、一つの政策が実施されることになりました。」
「それは・・・なんだ?」
おそらく王子も薄々良くないことだと感じ聞きたくないのだろう。ためらいながらも確認してくる。
「王都の維持費、王族の生活費等に関しては、三公の支援で行う。その代り、発展した技術その他は王都に決して持ち込まず、文化や歴史をそのまま保全するということです。これにより貴族らも貴族らしさを味わいたければ、あるいは老後は長閑な所で過ごしたいと思えば、王都に来るということになっているのです。」
もはや顔の色を無くしたように真っ青な王子は項垂れながらも聞いている。
「現在では、王城の人件費や設備費は全て三公が支払っています。近衛なども三公が給与を支給しております。加えて言うならば、王都にはありませんが、車やテレビ、飛行機にパソコンなども三公の領地には普及しております。技術的に言えば、王都とそれ以外の土地では100年以上の格差があると言ってよいでしょう。これは先の政策も含めて王都以外の人にとっては公然の秘密となっているのです。」
一拍おいて紅茶で喉を潤しながら続きを話す。
「そこで、婚姻の話に戻るのですが。それ以降、援助の理由作りや監督の意味もあり、次代の王のもとには三公のものが持ち回りでそれぞれ形式的に婚姻をするということになっているのです。もっとも、血が濃くなるのも問題ですし、三公の女が産んだ子供は三公の跡継ぎとし、側妃などが産んだ子供を時代の王とするのです。そのため、ドロシー嬢と王子さえ問題ないのであれば、結婚すること自体は問題ないのです。」
「そ、そうだったのか。では、私の行動は・・」
「えぇ、知らされてない以上やむを得ない点もありますが、軽率でしたね。」
躊躇いなく事実を指摘する。追い打ちのようだが、事実である以上やむを得ないだろう。
「では、後はドロシー嬢と相談してお決めください。失礼いたします。」
ソファーから立ち上がり綺麗に一礼をして王子の別室を退室する。
今後どうするかは二人の判断にゆだねるとしよう。
10年後。
アレクサンドリア王は、王妃エミリア・側妃ドロシーと共にオメガ王国の王位を引き継いだ。
その際、テロリストに狙われた王を守るため、正妃と側妃がツープラトンパワーボムでテロリストの一人を撃退したという噂がまことしやかに囁かれている。
もうちょっとハルナを掘り下げた方が良かったけど途中で飽きちゃったぜww